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2015年5月

世界で3000億円を売り上げた日本人発明家のイノベーション戦略
上野 隆司 (著)

研究を人のために役立てるアプリケーションを生み出しビジネス化していくことは、日本が今まで弱かった分野かもしれませんが、これからどんどんビジネス化する能力や秘訣、ノウハウが創発されていくことでしょう。

日本には現在、医薬、医療の分野において世界を牽引する教育、技術、そして何より自然と人を愛する人材が今までにないほど、更には世界一と言えるくらい揃っているのではないでしょうか。

医師であり、医学博士である上野氏は、1989年アールテック・ウエノを創業。1996年アメリカに拠点を移し、スキャンポ・ファーマシューティカルズを創業。緑内障患者のための点眼薬「レスキュラ」、慢性便秘症治療薬「アミティーザ」という2つの新薬を発明し、創業した2つの会社を上場させ、3,000億円を売り上げました。開発した新薬は多くの患者の助けとなっており、現在更なる3つ目の新薬を発明するため、第三の挑戦を続けているところです。 また、上野氏は20代半ばで幸運にもDNAの二重らせん構造を発見しノーベル賞を受賞したジェームズ・ワトソン博士の教えを受けることができた一人です。研究者なら誰もが羨む話です。

生理学の研究者でビジネスを得意としていなかった上野氏が本書に込めたメッセージです。

  • 発明を続けるためにはお金が必要となり、ビジネスの視点が欠かせない。だから、苦手なビジネスを必死に学んだ。どうすれば発見ができるのか。どうすれば発見をビジネスに変えることができるのか。
  • 自分の得意分野を活かすことが大切。目標に向け、発明からアプローチすることも、ビジネスからアプローチすることも可能。

そして何より大切なポイントはこちらの2点です。

  • 自分の得意分野で勝負したこと。
  • ミッションをしっかり持つこと。今まで効く薬がなかった患者さんの病気を治したいという研究者、医師としての信念が支えになった。

夢を追って生きていくと、人並み以上の苦労や失敗が繰り返し起こります。サプライズを楽しむぐらいの気持ちでないとやっていけません。そして人生に与えられた時間はそう長くはありません。人生の決定権を手放さないことが大事だという氏の主張は、若い挑戦者、アントレプレナー、発明家の卵達を勇気づけてくれるでしょう。

次に本書の中で、とても大きく納得した2点をご紹介します。

  • 人生で“跳ねる”瞬間に遭遇した時、たじろぐことなく前に突き進む勇気が必要ということです。そしてこの勇気は、人生で止まるか、進むか、右に曲がるか、左に曲がるか、そんな決断を迫られた時に自分の力で選択するという経験の積み重ねによって得られます。
  • 私たちは多くの人と出会い、出会った人から人生の礎となるような言葉をもらいます。
    「Don’t look back」
    あるパーティーで偶然隣に座ったサンドラ・デイ・オコナーさんという女性として初めてのアメリカ合衆国最高裁判所の判事からもらった言葉です。「自分でもその判断が正しいかどうかわからない。しかし、一度踏み出してしまったのだから、もう振り返らない。前に進むだけだ。」これは仕事だけでなく人生にも通じる深い意味のある言葉です。この言葉が迷った時の勇気の源になりました。

本書は単に夢を追いかけることが良いとか、勇気をもってチャレンジするのが良いといった精神論を語ろうとしているのではありません。そして私がお薦めする理由もそこにあります。

例えば、イノベーションを起こせる人の条件は、「全体を知る人であり、夢想家ではない。むしろ夢を見ない人種であり、現実を見つめ、夢と自分の力の兼ね合いを図ることができる人だ。」と言います。実力が無いのに、高い夢、高い目標を掲げることが一番いけないことです。そして積み上げのない嘘っぱちの「君ならできる」なんていう助言は、ビジネスの世界では通用しません。日本でもアメリカでも「やればできる」、「何でも可能だ」という困った人がいると上野氏も述べているように、医薬研究の現場では、自然科学が出した結果は、こちらの望むものでなかったとしても受け入れなければならないからです。どれだけ強い思いや努力や勇気があっても自然科学の事実を変えられるものではありません。失敗に真摯に向き合い、次に行くのか客観的に判断しなくてはなりません。感情に負けてしまうと気持ちばかりが先行し、失敗を受け入れられず、次に進めなくなることを教えてくれています。

「自分の能力を知り、今できることから始めよう」という本書は、0から1を生み出すイノベーションを必要とするこれからの日本社会、そして個人の能力を重視し評価するという世界の潮流の中で、発明やビジネスを成功させたい、未来を自分で選択したい、10年後輝いていたいと思う人に是非読んでいただきたいお薦めの一冊です。

世界で3000億円を売り上げた日本人発明家のイノベーション戦略 出版社:朝日新聞出版
著者:上野 隆司 (著)