転職コラムキャリアに効く一冊

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2017年6月

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために
岸見一郎(著)

私は心理学者・アドラーの名前を知ってはいましたが、じつはその著作や研究本などをこれまで読んだことがありませんでした。今年、アドラー心理学をテーマにしたテレビドラマが放映されていたのをたまたま目にし、一度しっかりと読んでみたいと思ったことが、今回この本を選んだきっかけです。著者の岸見一郎氏はアドラー心理学の第一人者であり、テレビドラマの原案であるベストセラー【嫌われる勇気】を執筆した方ですが、初めてのアドラーということで、同じく氏の書かれた【アドラー心理学入門】から手に取ることにしました。

「アドラーは人間の悩みはすべて対人関係の悩みである、といっています(「個人心理学講義」二六頁)。」と本書でも紹介されていますが、子どもが保育園で先生の話を聞かない、宿題をやらなくなった…など、こういった不適切な行動に対して原因ではなく、目的を考えることの重要性をアドラーは伝えています。原因ではなく目的を考えることが重要だという例として、同じ環境に育ったからといって2人の子どもが同じになることはなく、その環境をいかに解釈するかが子どもの成長の観点では大きな意味を持つということを挙げています。

そして、課題を分離すること、つまり、最終的に誰が責任を引き受けなければいけないかを考えることも重要だと伝えています。子どもが宿題をやらなくなったということは、親ではなく、その子どもの課題であるということです。

アドラー心理学では罰したり、ほめたりすることを推奨しません。対人関係で重要なのは、対等の横の関係であるという主張からです。そして自己を受け入れ、他者を信頼し、他者に貢献できるようになること、これらはどれ一つ欠いてはいけないとも述べられています。他の人に貢献できる自分が受け入れられるのであり、貢献するためには他の人を信頼できていなければならないからです。

岸見氏も本書の中で書かれていますが、「自分の生き方の問題として見るとき、アドラー心理学は非常に厳しいもの」と感じます。なぜならアドラー心理学の根底には、すべてにおいて自分に責任がある、という考え方があるからです。しかし、自分で責任を持つことができるならば、自己を受け入れ、他人からどう思われるかを気にせず、失敗を恐れず、他の人の期待を満たすために生きる必要がない、とも言っています。つまり、『自分の人生は自分が決める』ということです。この考え方は実現できるかどうかは別にしても、多くの人にとって心を軽くすることができるのではないかと思います。

キャリア相談において、最終的に意思決定をするのは、相談に来ていただいた方ご自身です。そういう意味では、あくまでキャリアにおける意思決定は「相談者の課題」であり、私たちコンサルタントの課題ではないといえるでしょう。ただ、一緒に悩み、その目的を考えることはできます。本書を読み進める中で。決して横柄になることなく、相談者から信頼され、相談者や採用企業に貢献できるコンサルタントでありたいと改めて感じました。まだまだアドラーの考えていることは私には難しく、理解ができていないことも多いのですが、【嫌われる勇気】の方もぜひ読んでみたいと思います。

アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために 出版社:KKベストセラーズ(ベスト新書)
著者:岸見一郎(著)

コンサルタント

伊藤 嘉浩

株式会社アクシアム 
取締役/エグゼクティブ・コンサルタント

伊藤 嘉浩

2008年、アクシアムに参画。エグゼクティブ・コンサルタントとして、経営者やプロフェッショナル人材、MBA、若手・次世代ビジネスリーダーまで、幅広い年齢層へのコンサルティング、キャリア開発、紹介実績あり。アクシアム参画前は、商社にてアパレルブランドの輸入販売や海外事業開発を手掛け、新規事業の立ち上げと事業の黒字化を達成。事業計画策定、商品企画、マーケティング、リテールマネジメント、組織開発、生産管理などの経験を持つ。海外事業開発をはじめとする“実業経験を持つキャリアコンサルタント”として、個人のグローバルなキャリア、イノベーティブなキャリアの実現を使命とする。

日本キャリア開発協会認定 キャリアディベロップメントアドバイザー(CDA)