転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1997年 4月~6月 
1997.04.01

変化こそチャンスです

労働市場における変化の本質を知る事により、自分に合ったキャリアを発掘しましょう。

1)規制緩和~ストックオプション

ストックオプションが日本にも導入され始めました。
通商産業省(現経済産業省)、産業資金課新規産業室においては、次のような業務・施策を行っています。新規事業法(特定新規事業実施円滑化臨時措置法)の施行に基づき、通産大臣の認可を受けたベンチャー企業では、事業化段階における最大15億円の債務保証及び最大2億円の出資と、ストックオプションの利用等の支援が受けられます。店頭登録制度改革が行われ、 ベンチャー企業に投資する個人投資家のリスク軽減の税制として、エンジェル税制も始まりました。今後さらにベンチャー企業に人材が就労し易くなるよう、ストックオプションの一般化が税法、商法などの改革も含み政策として検討がされています。また(財)VEC(ベンチャーエンタープライズセンター)においても、研究開発段階において最大1億円(対象資金の80%)までの無担保債務保証が可能です。また就職ではなく創業だと思う人には、高いお金を出さなくとも開業のための事業計画書とも呼べる企業情報開示マニュアルもホームページに掲載されています。これは大変便利です。

話を起業から労働市場に戻します。通産省が積極的に進めている新規産業の育成を目的とした新規事業法の認定企業においてストックオプションを導入する事が既に昨年から可能となっています。今後さらに法務省でも、一般化に向けた検討がこの春から始まりました。現金のみが賃金制度として認められていた時代から、さらに未来の社会産業や雇用形態の創造が進んでいます。ストックオプションは現金報酬の代わりとなる賃金ではなく、個人が長期に亙る努力、自主的なキャリアの開発、キャリアの判断としてのリスクテイクに対して、株主ならびに経営者から正当にその貢献度を評価され、その結果得られるべき報酬です。現金によるインセンティブボーナスではせいぜい年間の評価であり、長期に亙る評価制度ではないため限界があります。今までの日本の企業ではこのストクオプションが必要とされませんでした。しかしながら、これからの知的労働者と知識集約的産業、開発型産業には不可欠な報酬制度と申せます。現在アクシアムでも、専門家や起業家と共に研究会を行っております。5月にはこのキャリア・クエスト上で発表の予定です。

ベンチャー企業に入るなら、夢の共有だけでなく、人間らしい組織、新しい人材活用の概念を備えたベンチャー企業、社会に貢献できるベンチャー企業こそを選ぶべきです。創業者や株主だけが利益を得る古い人事制度をもった企業に、生産性の高い人材は集まりません。優秀な人材ほど機会と資源の無駄使いを嫌います。人生という資本をどこに投資するか、よく考えています。インセンティブワラントやストックオプションを新しい人事制度として活用している会社、そして一人一人が一企業人として社会に対して利益を生み出そうという試みのある企業がどんどん増えてきます。日本でも外資系日本法人に勤める人が、本社の株式を取得し、短期間で1億円以上を手にできる時代になりました。どうして日本人が日本の企業や国のために働き結果を出してそのような報酬を得る事ができないのでしょう。大手パソコンソフトの日本法人ではストックオプション長者が、全体の約1割、70名前後もいるそうです。これは同社のみならず外資系ベンチャーに勤める人が広く得られる特典です。株価という企業の価値を市場で向上させる事こそが、社員と経営者、そして株主の一致した本来の目的なのです。現実35才の大学院卒の方が1500万円の年収とストックオプションを得られるのです。日本の大企業でもベンチャー企業でも、とうてい対抗できない条件です。

2)規制緩和~4月から有料職業紹介事業の範囲が大幅に拡大

昭和22年に施行された、職業安定法施行規則の一部が平成9年2月28日、50年ぶりに改正され、4月から施行となります。夏までには暫時、市場の要望にこたえたサービスが展開できるよう、人材紹介業が推移してゆきます。内容としては、新卒以外の職務経歴をもつ人であれば、ネガティブリスト以外、紹介可能な職種が広がります(下記リスト参照)。今までは経営管理者、科学技術者だけであった弊社のサービスもホワイトカラーであればほぼ全ての職域の方が有料職業紹介の対象となる事ができます。参考までに新しい取扱職業区分を掲載します。アクシアムでは(1)の一部を除き全て取扱できるよう、新たに労働省に申請し夏までにキャリア相談を開始したいと考えています。今まで若年者の専門家とキャリアのアドバイスを無料で重ねてきた弊社にとって、アドバイスのみならず、今後は実際の職業紹介も行える事となります。ヘッドハンターではなく、「キャリアメーカー」と呼ばれる欧米並みのプロフェッショナルをうまく活用する時代が来ました。継ぎ目のないキャリア開発ができます。

  1. 専門的・技術的職業
    • 科学技術者、医師、薬剤師、看護婦、弁護士、公認会計士、弁理士、通訳、他
      サイエンティスト、エンジニア、スペシャリストはほぼこの範疇に入ります。
  2. 管理的職業業
    • 経営管理者、マネジャー、エクゼクティブと呼ばれるのはこの範疇に入ります。
  3. 事務的職業
  4. 販売の職業

3)新卒就職協定が廃止

最近、弊社のオンラインカウンセリングに多数の学生および新卒の方からキャリアについてのご相談が寄せられますが、残念ながら職歴1年未満の方へのキャリア・カウンセリングはまだ許可されておらずご相談に応じられません。そこで、サイト上に新卒の方向けの情報・アドバイスを掲載しておりますのでご参照下さい。

本来新卒と言う種類の労働者が評価されるのは日本ぐらいです。在学中でもインターン経験や職務経歴をもってさらに進学するような、目的をもって高等教育を受ける人の割合が少ないようではとても就職革命など起こりません。在学中でも社会人として、自分の目的や適性にあった学問や研究を見つけるきっかけを掴みましょう。就職活動は社会人活動の一貫です。1年前の先輩のアドバイスは今年から通じなくなり、マニュアルが完全に消えます。他人と違うキャリアスタートを切る事ができます。自分の価値感を信じて、社会に貢献できる行動をさっそく起こして下さい。インターネットで海外の本社や国際機関の採用担当者に直接メールで応募する人が増えていますが、学歴だけを出しても返信はありません。東京大学ですら世界の中では50位以下です。もっと自分が提供できる力や具体的な人生の抱負を述べないと先方の心は動きません。就職活動は人と人の出会いですから、感動がなければ何も変わりません。感じて動かしましょう。

4)人事部からの脱却ー人的資源活用を重視した企業へ

労働組合と経営者の活動が、実力主義の徹底や産業構造の変化に伴って変化しています。定期昇給と呼ばれる日本式賃金決定方式も消えようとしています。これは春闘が消え、労使の関係も新しい時代を迎えた事を意味します。賃金は人事や会社側から決められるものでも、決めてもらうものでもありません。

自分から会社に賃金と目標を提案できる程度の人材が求められ始めています。会社側が全員一律年齢と学歴だけを基準にパッケージ化した雇用契約を提示するのではなく、会社と個人の間で個別で交される雇用契約が本来必要とされています。

人物の属性も全てを対象に評価する『人事管理の時代』から、キャリアの経験、展望、そして時間軸を踏まえた評価システムを活用する『人的資源活用の時代』となりました。この点を知ると知らないでは、キャリア形成の上で、10年後、20年後に大きな違いが生じるはずです。人事部が人の人生を支配する会社ではなく、人材活用マネジャーとして、会社の利益の拡大が個人の利益の拡大にもどうすればつながるか考えている会社に優秀な人材が集まります。

何も知らないで所得税や社会保険、厚生年金が徴収されていた、言い替えれば会社や労働組合におんぶにだっこできた時代は二度と来ません。選択の時代に入りました。大企業では年俸制を採用しても、年功序列型の大枠が障害となり組織活性が遅れてしまいます。これは日本の人事制度は一気に米国型へ変ることはなく、現状と米国型の中間型で極めて日本式に落ち着くだろうとの予測が根拠になっています。実はこの議論に、もう一つの議論の軸として新規産業と既存産業の拮抗があります。ゆるやかに産業や技術が移転するのでしょうか?否です。日本では、既にあるものを民自らの意志で、壊しながら新しいものを作った経験がなく、いきなり変化を受け入れ、再生を計った経験しか過去にありません。人材活用の新しい息吹は外資系やベンチャー企業にとって可能でも、日本の大企業、その子会社、ジョイントベンチャーでの人材活用法が成功した事例が極めて稀である理由がこの中途半端な名目だけの人事改革なのです。

役員が改革を唱えても、現場の既存の部課長が新規性の芽を組織内で握りつぶす事例など大企業では枚挙に暇がありません。ある電気メーカも海外子会社の社長の現地国籍保有者の登用や、ストックオプションの活用を始めましたが、これすら本社の一部は時期を見て揺り戻そうとしています。会社にとって不利益行為を働く人材(役員の中にも存在)の一掃が日本企業経営者には許されていません。社外重役や株主の権利やコーポレートガバナンスの問題、監査の問題まで話は及んでいます。

一時の処方箋ではなく、根底から改革が必要です。天下りが1人、親会社から子会社に2名、子会社から孫会社に20名、取り引き先相手に50名、そして最終的には中小企業が倒産という構造になっています。不良債権よろしく大義名分で処理されていけば、これから日本では、できる人も、できない人も、再就職の機会を失っているだけです。どんどん川下に雇用の受け皿が用意され、雇用を守る弾力的な株式会社日本の構造が可能だった時代は終わってしまいました。未来に利益を生み出すベンチャー企業や生産性のある企業、否、企業ではなく起業家とその支援者を輩出しやすい構造に変化できるかが課題です。これら創業と創業に貢献できる人材が例え失敗しても、評価を下げず、再挑戦できる柔軟な産業文化が必要である。米国企業のリストラには17通りの雇用の再調整手法がありますが、日本には前述のような受け皿構造の上で24通りもあります。これ以上雇用を無理に守る事は経営者側には期待できない状態だとも考えられます。内部資産の留保も後わずかとなり、年金基金の配当も当てにできないとなれば、個人個人の責任の重さを自覚し、自ら起きた起業家こそ応援するべきでしょう。

なぜ今ベンチャーかと言えば、心、頭、体が一体となった充実した日々はベンチャー企業でのみ味わう事ができ、大企業では体と頭で心が入っていない事が多く、数少ない心を備えた人材が大企業にまだ存在する間に、必要な産業としての大企業とベンチャー企業の関係を正しく結合させる必要があります。資本、人材、情報、目に見えない資産や資本を有効活用させる事が必要です。個人はまず大企業に入って、と言う発想がまかり通るようでは本当の改革は終わっていません。『これがしたい。だからここに入った』が基本です。簡単な事です。

5)アウトソーシングー正社員を超える専門家

現在は、経理・財務、情報システム部門が中心ですが、将来は総務・人事などもアウトソーシングの対象になります。旧来管理部門はキャリアの専門家として安定したキャリアパスが可能と思われていましたが、営業や研究職でさえその概念が崩壊しようとしています。リストラに会いにくいと思われていた職業領域は既に昔話です。外資系やベンチャー企業では業務を外注し、人事部を持たない企業も多数出てきました。またエンジニアリング職でさえ絶対ではなく、研究開発もアウトソーシングやシンジケート化が進んでいます。いわゆるネットワーク型です。企業対企業、企業対個人での業務委託契約が進んで、下請けではなく、正社員より高い報酬を得るパートタイマーというプロがどんどん出てきています。特にネットワーク系やコンサルタント業界でこの構造が進んでおり、組織に所属する意義が問われています。社長より高い報酬を得る人も増え、時間的な給与換算が可能な労働者はますます減少します。時短以上に、労働者がより時間的変数で報酬を得る事が出来にくい構造をもった会社が増加しています。逆に職能の無い人はパートタイムもできません。インターネット関連など、プロが集団化し集合体として業務を受託する傾向もあります。

6)20~30代の権限拡大ー生産性と年齢ー平等の意味

権限委譲が今後数年で加速度的に普及してきます。これは大企業における40代後半の人員の割合が30代前後や50才前後に比べ少なく、ちょうどくびれた格好になっています。50才前後の団塊の世代と呼ばれる世代に対して、40才より下になればなるほど、次第に権力の引き継ぎ要求を始めています。大企業内、新規産業部門や海外子会社では現在の役員からかなり若い世代へと引き継ぎが行われる兆候が見られるようになりました。特に技術を主体とした研究部門やマーケティングの部門での権限委譲は企業内で徐々に進行したりするのではなく、市場(顧客)の要望を背景に経営陣によって理解され、戦略的に決定し、比較的急激に実現化します。市場を見極められる経営陣がいる会社から順に、この兆候が始まっています。経営陣が決定しても50才代が現場としてこれを阻む状態の会社も多数見受けられますが、いずれ20~30才代の力に排除されると思われます。これから数年から10年の単位で大きく変化せざるを得ません。秩序が乱れるのではなく生産性を高め、組織活性のための権限委譲が順当に進む会社が普通となった社会では、社内における将来のキャリア展開が早期で具体的に見えてくるため、離職率は高まります。好循環です。今までのように漠然とした忠誠心だけでは会社も人材を評価できず、権限と責任をまっとうするだけの力を人材に要求せざるを得ません。また会社を去るのではなく、積極的なセカンドキャリアを会社も支援する社会となる事が望まれます。

人材に与えられた権限と責任に対しては、何を会社は求めるかと言うと、主にはコミットメント、自信、実績、そしてスピードの4つになります。改革の時期には普遍的妥当性のある能力よりも意志が重要とされています。能力がなくても良いのではなく、能力だけでは問題解決ができないからです。少数意見からの出発ができないからです。これは過去言われてきたような、やる気の問題でも積極性の問題でもありません。目標に対してコミットメントできる人材とは、不確実なビジネスにおいて確実性を高め利益をもたらす事ができる人です。どこの会社からも引く手あまたという人材は、必ず自分の職業に対して『生きる業』としてコミットメントできる人の事です。当事者意識とも呼ばれるもので、簡単に言えば『これが私の生きる道』ということです。勝手な事をする事がコミットメントではなく、自己の目標を掲げ、目標を達成し、期待値を裏切らない結果を他者にもたらす人の事です。問題点を隠さず、一緒に問題を解決していく新しいリーダーが求められています。40代以上の年齢層でこのリーダー像に合致する日本人は本当に数える程しかいません。権限を役員に押し付け、責任を持たず、威張る、支配、管理がリーダーの仕事と錯覚している人事部長がばっこしています。典型的な日本式『これが私の勝手に生きる道』です。20代にとって、これほどリーダーやキャリアのベンチマークが日本で難しい時期は戦後無かったと思います。キャリア形成に成功して活躍している人がいる会社や組織で自分を高める事も可能ですが、ベンチマークがなくとも自分なりに考え、自分なりのリーダーを目指しましょう。これからの日本市場では間違いなく新しいリーダーを必要としています。経営の現場は中間管理職に任せているという経営陣に何ができるでしょう?

コーポレートガバナンスが変化する時代には、人材紹介は単に求人者に求職者を紹介する人材ブローカーではなくなります。経営者(採用側)に管理職、スタッフ(求職者)を紹介するのではなく、株主に経営者を、経営者に管理者、管理者にスタッフを紹介する仕事に変化しています。それぞれの求職者がステップアップする際のサービスでもあります。また今日の求人者は明日の求職者である時代の要請にも答えていくことになります。いずれにしても日本人の20代、30代ばかりの生産性だけに依存する不労高年齢者社会という構造だけは避けなくてはなりません。年齢、性別、国籍に関係なく、できる人材が報酬を得る事を平等と呼べる市場が理想であれば、理想に向かった行動を現実的に取れば必ずそうなります。

7)本当に職能もなく、意志もなく、再就職先のない人達の問題

失業率の増加が予想されますが、雇用を創造するには個人の単位であれば能力に加え、意志だと思いますが、日本の国としての政策、産業界、教育機関、労働組合のそれぞれで解を打ち出しています。しかし実行に推移している人は少ないと思われます。キャリアについての概念は年齢が高いほど強く改革への意志を持たないといけませんが、実際には年齢と改革意欲が反比例してしまう所に問題があります。若い人の改革をせめて邪魔しない事も社会貢献ではないでしょうか?

概況

総務庁3/28発表。2月の完全失業率は3.3%で4ヵ月連続横這い。製造業を中心に就業者数は増加しているが、完全失業者数も増加している。

キャリア市場に於いても高望みをして1年、2年と求職活動をする30代が見受けられる。自分からの離職は94万人となっている。

有効求人倍率は、0.73倍。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)