転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1998年 4月~6月 
1998.04.01

雇用は若者が作る

就労者が6400万人程度、雇用者ならびに自営業者の合計もそれよりやや少ない6400万人程度となっています。就労者の為の職能開発や流動化が注目されていますが、その受け皿は誰が作るのでしょう?

3月27日の新聞の見出しも「完全雇用神話崩壊」「最悪更新」「女性、若年、高年齢層が上昇、246万人、人数も最多」「倒産、妻も求職」「労働省、対策に悩む」「世帯主にも失業波及」「不況、女性を直撃」「パート化を強化」「人材銀行、職安に人」「雇用の質も低下進む」「捜せども職なく」と続きます。如何ですか?見出しを読むだけで暗くなってしまいますね。おまけに、会社都合で離職する人や職務経歴のない人で就労先が見つからない人達の数は、今後ますます増加する見込みです。

我が国では就労者教育が盛んではあっても雇用者教育がなく、産業を生み出す事ができる人材、起業家を育まない市場や産業の構造になっています。失業する人達に対する職能開発を行う事は意味がないとは言いませんが、職能開発を終えた人材は何処に就労するのでしょう? 優先すべきは、職能を持つ人ではなく、経営できる人材、起業できる人材、産業を創造できる人材、市場価値を生み出すエンジニアや科学者の育成ではないでしょうか?また教育制度に職能開発を依存する傾向があるようですが、これも現実からかけ離れた幻想です。各種専門学校や社会人大学がブームです。しかしこれら資格や知識に頼ってキャリアプランをデザインする人が、学習を終了し資格を取得した後でさえ就職できず、時間とお金を無駄使いしてしまう事が多い事はあまり指摘されていません。勉強として職能開発を終えた人材ではなく、実践を通じて得た付加価値を持つ、市場のメカニズムから生み出された人材を市場は強く求めています。

現在のポジション、学歴、資格だけがキャリア上での資産だと思っている人が非常に多い事が、現状の最大の問題だと言っても過言ではありません。とうの昔に不良資産となってしまった自己のキャリアに気付かない人々で市場は満ちています。価値を生む出す事より、自分の椅子の確保や椅子取りに専念しています。会社という環境の中では、ぬるま湯の中での安楽死を望む事も自由だと言い切り自己の責任を放棄している人が多いのです。学歴と資格が、ぬるま湯の中での安楽死を誘発する要因にさえなっています。

学歴、資格に続いて、人生を選択する際の判断材料も間違いがあります。殆どの方は、産業や職種だけで選んできたのではないでしょうか? 日本中の人が同じ情報や理屈、マインドで人生を選んでいてはチャンスなど生まれるはずがありません。自分の心に正直に人生を歩めるだけの能力と意志を備えた人材が、未来の社会を創造するのに不可欠なのです。

社会の偏重を逆にチャンスとしてみてはどうでしょう?労働市場で年齢差別や性差別が存在しているなら、逆に年下でアイディアのある若者の会社や、女性社長の会社を捜して就労するのも、これからの狙い目ですね。もちろんシニアが起業した会社なども面白いのではないでしょうか?

こんな嘆かわしい状況の中でも安心できる変化があります。社会の全体を考えると暗くなってしまいますが、前向きに起業を試みる大学生や大学院生が以前にも増して数多く出てきた事を最近知りました。人生という長い時間を資本にしてリスクに挑戦する若者がいる限り、日本の未来は明るいはずです。財務諸表やキャシュフローぐらいお茶の子さいさい、と言ったレベルの仲間を持つ起業家の卵が沢山います。ですから立派な大人なら、彼等の邪魔だけはしないで下さい。支援の美名の元で、若者を囲い込んだり、邪念を入れないで下さい。若者が創業したら、一目散に大人は就労者か投資家として参加してあげる事が大切ですね。経営者として参加しようなど、大抵の場合には邪魔だと断言しておきましょう。有能な若者が雇用者や起業家としてミドルやシニアを選ぶ時は、投資家としてのキャリアか、職能以上の価値ある知恵や人脈をもった就労者としてのキャリアかの、何れかです。

起業に年齢はない事が原則ですが、残念ながらぬるま湯の中からはなかなかミドルやシニアの起業家が出てきません。今は資源としての人よりも資本と呼べる人が大切にされるべき時代です。

資源となるか、資本となるか、はたまたそのどちらでもない人生を過ごすか、自分次第です。

関連情報

  • 「総務庁・統計局」発表、平成10年2月の完全失業率『3.6%』
    1953年現行調査開始以来最悪
  •  「労働省」発表資料、平成10年2月の有効求人倍率『0.61』
    1981年の円高不況以来最悪

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)