転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2006年 7月~9月 
2006.07.01

プロ経営者不在の日本を、危惧する

日本の労働市場では、労働力の売り手である労働者と、労働力の買い手である資本家があたかも存在しないような感覚がある。それは業務に対する決定を行い、従業員の指揮を執り、企業の運営責任をとる「経営者」という専門家が少ないことに起因する。

今まで労働力の売買は、もっぱら会社の内部やグループ企業内でのみ起こり、外では起こってこなかった。

本来、労働は労働者と資本家との間で締結される「契約」なのであるが、マクロの視点で見た日本は、「契約」というよりも「組織に属すること」をずっと重視してきたように思われる。かつての武家社会では藩に仕官するという形式があったし、商人の社会にも徒弟制度や丁稚奉公といった制度が見られた。

これらの土壌がつい最近まで、労働の売買という概念を育てず、ひいては経営者の不在を招いた一因であろう。昨今、プライベートファンドが取りざたされ、物をいう株主の存在も目だってきたが、改めてプロの経営者の不在は、世界的にも大きな資本を持つ国・日本の現状としては嘆かわしいかぎりである。

しかし求人は、個人株主・オーナー経営者・機関投資家・プライベートエクィティーなどが主役となって、プロの経営者を探し始める時代に既に突入している。

従業員の代表として、リーダーシップをもって労働者をリードする経営者に、20代や30代でも就任できる時代が到来している。ベンチャー企業や外資系では十分に可能なことである。もちろん40代、50代でしか到達できない大規模な組織経営、業界改革の担い手についても需要が高まっている。

だが、いずれにしても既存組織内に属していた人材では、リスクを避けることは得意としてもリスクをとった判断やマネジメントの経験が少なく、これらの新しい需要にこたえることができなくなってきている。

その一方で、個人はより安定志向を強めており、会社を変わろうとする転職者の多くは単に報酬を上げること、ネガティブな労働環境をよくしたいなど、個人の利益のために職を変えるケースが増加している。本来のキャリアやスキルを高め、経営を目指したキャリア開発を目論む人は減少する流れが強まっているようだ。

景気がいいから、もっと報酬のいいポジションへ…というのは悪いことではないだろう。しかし、安定を求める人が圧倒的多数の社会では、到底、財・サービスを継続的に提供していくことが目的の経営のプロは生まれ得ないのではと筆者は危惧している。

転職者が増えることと、経営者が増えることは、一致しない。

景気がいいことと、経営者が増えることも、一致しない。

求人情報に「経営幹部募集」というフレーズも最近増加しているが、その中身をしっかりと個人は吟味してもらいたいものである。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)