転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2007年 4月~6月 
2007.04.12

人事組織の変化と、世代間”転職”格差

総務省・統計局の発表によると、2007年2月時点での就業者数は6,302万人、雇用者の総数は5,468万人となっています。求人市場における数字は、景気の動向が良い方向に進んでいることを示しています。今回は、様々な世代の方のキャリア相談と、日系・外資系の大手企業からベンチャー企業まで数多くの求人依頼をいただいてきた立場から、日本の企業、ひいては社会の変化について最近感じることを仮説ならびに所感として述べてみたいと思います。

ひとつは、日本の製造業における総合職の年収格差が拡大してきたことです。特に35歳あたりの年齢層で顕著に見られ、一部上場企業でも年収が500万円程度の人から1000万円を超える人まで、賃金に開きが出てきたように思います。

さらに上の年齢層については、年収格差が縮小する方向になるのか拡大していくのか、まだ定かではありませんが、十年前には明らかにこのような現象はありませんでした。保守的と思われる製造業においても人事制度改革が進んだことが推察されます。

二つめは、改革の進行がみられるとはいうものの、日本の大手企業における人事制度について、やはり「年功序列」と「会社序列」は変わらなかったという点です。依然として賃金には年齢バランスが影響し続けており、また親会社を超える報酬制度を子会社は持てていないように見受けられます。(例外的に子会社の賃金の方が良いケースもありますが、これは専門性の高い社員を集める必要がある場合においてのみとなっているようです。)

管理職においては「年功序列」「会社の親子関係」は強固に存続しているように思われます。このような状況は、外資系企業やベンチャー企業では全くといっていいほど見られず、日本における大手企業特有のことといえるでしょう。

三つめは、20代の転職の活発化だけでなく、35歳~40歳の人材市場においても流動性が高まってきていることです。現在、35歳~40歳のレンジにある方は社会人になったときからキャリアに関する情報も徐々に増え始め、キャリアについて考える機会が多くなり始めた世代です。情報と機会が増えたことにより、転職の市場に出てくるまでにしっかりとした専門性や実績を作ることができ、結果として市場に出やすい(市場でも通用する)人材が増加してきたからかもしれません。

いま45歳の方が20代であった1980年代には、「転職」はまだまだネガティブなことでした。それに、キャリア形成において大事な35歳までの時間に”会社人間化”してしまい、35歳以降もなかなか職能開発ができなかった方が多く見られるのも事実です。世代による転職のしやすさの差は、こんなところにも一因があるのかもしれません。(ましてITや金融など、市場が必要とする知識・スキルの進化が激しい業界では、いわずもがなです。)

現代の35歳以下の人材は、より「スキルセット」「ポータブルなスキル」「知識」を求める傾向にあるようです。それ自体は良いことだと思うのですが、残念なのは、キャリア選択が単に仕事のための道具集めに終わってしまったり、わくわくする仕事を探すことを忘れていたりすることです。何のためにその道具を集めたのか…その目的を失ってしまう方が少なくありません。真に満足のいくキャリア形成のために、皆さんにぜひ注意していただきたいですし、キャリアコンサルタントとして、今後ますますメッセージしていかなければならない点だと思います。

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コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)