転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2008年10月~12月 
2008.10.02

リーマン・ショックと楽観主義/価値観の重要性

ちょうどこの原稿を書いている9月某日に、150年以上の歴史をもつリーマン・ブラザーズが63兆円ともいわれる米国史上最大の負債総額を抱えて破綻し、メリルリンチがバンク・オブ・ アメリカに買収されるというニュースで市場が持ちきりになりました。それらの会社に勤めておられる方からのお問い合わせを多数頂戴し、転職のご相談も始まっています。

 

年初からコラム等を通じ、1998年と同じような感覚がすると申し上げてきましたが、その激震、あるいは変化の規模は計り知れないものとなりました。1998年当時、日本は戦後50年をむかえて歴史的転換点に立ったといわれ、日本長期信用銀行などの大手金融機関が破綻していきました。その後、2002年にはエンロン事件が発端となり、アメリカで最も機関投資家や市場から信頼されていた監査法人アーサー・アンダーセンが約100年の歴史を閉じることになりました。そして、2008年。サブプライム問題を端緒として、問題はリーマン・ブラザーズ、メリルリンチ、AIGのみならず、広く金融業界さらには世界の実態経済に影響してくるものと思われます。

50年に一度といわれたショックが100年に一度の規模になり、さらに150年に一度の大きさとなる事態も今後あるのか……破綻の額が徐々に桁違いになっていく様(さま)を見ていると、この際、悲観主義に転向しようかとも思ってしまいます。日本の株式市場の残高は、私が社会人になってから約70%も減少しました。世界の機関投資家から見ても日本の個人投資家から見ても、日本の産業界は魅力的といえるのだろうか?と疑問に思えてきます。未来のため、日本のお金は果たして日本に投資されているのでしょうか? そう悲観的に考えれば考えるほど、それを裏付ける統計は枚挙に暇がありません。

しかしながら、人間の意志というものはやはり楽観主義に属すると信じている私には、このような悲惨な状況の中だからこそ、つぎの時代を担う人材が生み出されると思えてなりません。良きにつけ悪しきにつけ、社会の出来事や空気が人に影響を与え、人を創っていくと考えるからです。

このような金融界・産業界の状況だからこそ、きっと志をもった株主も出てきますし、経営者も登場します。世界を牽引するサイエンティストやエンジニア、起業家も生まれてくるでしょう。苦労から成功を導き出した人の伝記に多くの人々が感銘を覚えるのは、平坦ではない道から生まれた力の素晴らしさを、本能的に信じているからかもしれません。

平時、あえて苦労を選択するマインドの方が少ない日本(個人的な感想ですが)では、苦境になった時にこそ様々な工夫を凝らし、苦境を乗り越える人材が生まれるように思います。昨今、その年齢にかかわらず、自発性を備えた人材が本当に少ないと感じていますが、他者(あるいは社会)から強制されて苦労をして、結果として力をつけるというのが日本人の特性なのかもしれません。逆説的・楽観的に捉えれば、今はまさに、その特性が生かされる時なのかも、と感じています。

バブルの時代に素晴らしい人材が生まれたという話を、私はこれまで聞いたことがありません。だからこそ、ここが日本のチャンスではないでしょうか。リーダーがいないならリーダーになればよい。またリーダーになりやすいはず。そんな風に捉える強さを持ちたいものです。苦境にあって、一人ひとりの価値観が、益々問われるようになっているのだと思います。

世の中には「お金で買えないもの」があるとよく言われますが、私は「お金で変えられるもの」も同時に存在すると思っています。つまり、お金で買えないものが人生だと信じる一方で、お金という手段をもって、社会は変革できる側面があると考えています。そして、その変革を起こす人材の登場を待望しています。

今年最初の本コラムで、「感じる・考える・行動する・結果を出す」という、頭文字にKを持つ4つの成功のステップについて述べました。その中で「感じる」の重要性について書かせていただいたのですが、「感じる」ことの延長にある「価値観」の大切さを、こんな時期だからこそ改めて痛感しています。

実際、採用企業の多くのトップリーダーが次世代リーダーに期待しているのは、この「価値観」=「個々人が持っている揺るぎないもの」です。これまでアクシアムのキャリアフォーラム等でご講演いただいた方々も、価値観の重要性について述べられていました。

経営共創基盤の冨山氏は「経営はたった一人で意思決定をする孤独なもの。かつて産業再生機構のCOOになろうと決意した時にも、まわりは何故そんなダーティーな仕事に?などと批判した。しかし、まったく意に介さず、自分の価値観でこれは正しいことと判断した。いま社会に必要なことだから、やると自分で決めた」と話されていました。

GEの藤森氏も「リーダーとは自ら何かを決め、それを周囲の者にコミュニケートし、それを達成していくためのチーム作りをするもの。限られた範囲の情報の中で判断・意思決定し、必要な情報を適切に周囲の人間に伝え、コミュニケーションをとる。そして何らかのビジョンやゴールを明確に設定し、それを示す。さらには、その達成にむけて最適なチームを作り、チームを引っ張る。これこそがリーダーであり、マネジメントの果たすべき役割だ」とおっしゃっていました。

お二人のお話に共通するのは、やはり自身の中に持っている揺ぎない”価値観”であり、それが判断・決断・取捨選択の支柱となっているのだと思います。しかも、学習と経験の中で考え続け、悩み続け、与えられた価値観ではなく自分なりの価値観を醸成していくことこそが大事なのだと思います。特にリーダーを目指す人材には、20代・30代でこの部分をぜひ磨いていただきたいと切に願います。

ぐんと足元に話を戻しても、日々価値観の大切さを感じています。例えば同じ業界内の企業でも、価値観が異なると採用には至りません。勿論、無理やりご自身の価値観を曲げて入社したところで、大きな成果に至らないのは想像に難くないところです。40代も半ばになって、価値観が変わったという方がおられます。自分は変わっていないが市場が変わってしまった、という嘆きも耳にします。残念なことに、スタッフやマネージャーとして過ごす間にご自分の価値観を認識し、磨こうとしなかったのかと思ってしまうようなコメントです。

時代の変化やマーケットの現実について、できるだけ個人の方に状況をお伝えするのがアクシアムの仕事です。しかしながら、この価値観についてはご本人が持つべきもので、キャリアコンサルタントは単なるアドバイザーにすぎません。その人の価値観を創ったり曲げたりすることはできません。ただ、皆さんの価値観が定まっているのかいないのか、あるいは曲がっているのか真っ直ぐなのか。私たちキャリアコンサルタントとの対話の中で確認していただくことが、弊社の役割だと考えています。

2008年末から2009年に向けて、より不確実な世の中になるかもしれません。たとえそうだとしても、キャリアのリスクを避けるばかりでなく、リスクをいかに事前にマネジメントしていくかがポイントになるでしょう。そのために重要なことは、個々人の価値観をしっかり持っておくことだと思います。

感じているのに行動しない人
行動したいのに感じられない人
結果が出ないことを、失敗として恐れる人
過去に捉われ、未来について考え、感じようとできない人
何らかの常識や壁を突破できないと思う人

もしこんなタイプの方がおられるとするなら、転職はお勧めできせん。厳しいようですが、つぎの会社に移るリスクを乗り越えて、成果を上げることは難しいでしょう。まずは現職でしっかり、転職したつもりでご自分のキャリアに再挑戦されたほうがいいと思います。

上記の5つのタイプに当てはまらないという自信がある方は、ぜひ一度ご相談にお越しください。不確実な時代だからこその、チャンスがあると思います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)