転職コラム転職市場の明日をよめ

アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)

2013年1月~3月 
2013.01.07

労働市場、3つの変化

2012年1月のこの「明日を読め」のコーナーで、「50歳以上の求人が壊滅している」と述べましたが、2012年を通してそれが戻ることはありませんでした。震災復興、経済の回復、沖縄の基地の問題、原子力発電の問題、TPP、医療や年金問題など、国としての大きな課題について解決の糸口が見つかるどころか、政党政治と国民の意思との間には、大きな溝ができたままになっていると感じるのは著者だけではないでしょう。

右も左も、つまるところは「雇用の維持」と言う名目を挙げていますが、その主語は、自分たちが自分達の雇用を守るということだけで、日本全体の雇用を生み出す政策になっていません。

明日を読めない時代に、読者の皆さんに、共有しておいていただきたい視点の一つとして、求人相談や求職相談を通じて2012年に顕著にみられた、いくつかの労働市場の変化をご紹介します。

1)グローバル化の正体

グローバルの定義にも様々ありますが、外資のみならず、日系企業も本格的にグローバル人材の採用を開始しています。大手企業以上に、ベンチャー、中堅企業が圧倒的に求人を増加させています。海外勤務経験者や現地に骨をうずめる覚悟ができる人が欲しいので、日本人である必要はありません。国籍を問う時代は終わりました。「日本人だけでは定員を充足できないどころか、ガッツのある外国人で日本語が出来る人のほうが好ましい。同じ能力であれば日本人はコスト高となる。予算からすれば、優秀な外国人でもまったく問題ない。中国、韓国、インド、ASEANからの留学生を採用したい。」こんな声が既に採用側から出てきています。

実際、アクシアムでも創業以来、国籍、性別、などを問わない顧客企業には、積極的に外国籍の候補者を紹介してきましたが、これからさらに増加すると思われます。大手日本企業の本社正社員に限っていえば、国籍不問の求人はまだまだ日本のベンチャー企業や外資には及びません。

外資系企業でも本社とローカル採用の違いはあるものの、国籍が異なるマネジャーやマネジメントの採用まで可能としている点がありますが、まだまだ日本企業は踏み込めないでいる領域があります。日本企業は年功序列と新卒主義である限りグローバル化は難しい。社内の育成を重視する経営、雇用を守ろうとするのは良いですが、後から大きなツケを全員で取るような事を何度も繰り返してきています。そのような経営から今も脱却できないまま、グローバル化がブームになっていることに危惧します。

グローバル市場、海外市場を取りにいくというような単なる戦後の国際化、生産や販売を現地に移転するマルチナショナル化と今求められているグローバル化は分けたいものです。

2)レンジアップ

グローバル化の需要に反して、日本人のグローバル人材はまだまだ少ないと言えます。海外へ留学する学生も減少していることはよく知られていますが、今の20代前半の「グローバル」はすでに欧米ではなく、途上国を示しています。お金のある欧米にあこがれるのではなく、途上国が抱える問題(例えばBOP=開発途上地域にいる低所得者層など)に関心を持つようです。従い、英語でばりばりビジネスができる若者を探そうとしても関心をもってもらえないことが起こっています。

マネジャークラスの求人となると通常、今まで25歳あたりから、職歴5年~10年程度を対象としたものが多かったのですが、それではスピーディーに採用人数を満たすことができないことから、職歴10年から15年程度、すなわち40歳程度までを対象とするようにレンジアップが見られます。外資、ベンチャーでは、部長ディレクターが34歳、その下の課長マネジャーが43歳と言うようなケースも珍しくなくなってきています。

生産性のみ考えれば、もとから年功序列などの縛りがない外資系企業、ベンチャー企業のほうがスピーディーに優秀な人材を適所で採用してきていますので、日系企業でも採用対象の年齢層がレンジアップしたことは候補者にとって好ましいことです。ただ、一般求人が多い35歳前と、非公開のスカウト求人が多い35歳以降の転換点は変わりません。
35歳以降で構造的に逆転することから、35歳の転換点が40歳になったと言うことではなく、逆に40歳の仕事を30歳でやることができる機会が新しく生まれて、そのチャンスに30歳が挑戦しているということが起こっていますので、むしろ早まったと考えるほうが自然です。

3)女性向けの求人の増加

筆者は国内外のMBA保有者の方と、1993年の創業以来20年近くで6000名程度相談してきました。その男女比はなんと、2対1で、改めて女性MBAの保有者の数が多いことに驚いています。企業派遣は男性が圧倒的に多く、女性は私費留学が多い。特に女性の場合、どの程度の数の割合か調べることが難しいのですが、出産、育児中のMBA保有者が非常に多くなってきています。復職する人もいますが、復職するにも家庭の事情(保育所に子供を迎えるにいく時間が決まっている。出張や残業ができない)などの制約条件が多くなってしまい、思うように就職先が見つけられないということが起こっているようです。28歳から35歳あたりまでの年齢層で、「結婚、出産、育児」と、「キャリア形成のための研修や研鑽」が、時期的に重なってしまい、二者択一になっているのです。他方、MBAに限らず、女性をビジネスの幹部候補として採用したいという企業は増加傾向にあります。

素養のある女性を受け入れるシステムを持っている企業はこれから、グローバル採用においても、女性の勤務時間を限定しながら、雇用を促進するようなトータルな施策を持ち得ることでより強いアドバンテージとなるでしょう。年収よりも時間が優先という優秀な女性は、昔以上に増えています。ただし、女性の勤務時間や育児を支援するシステムがある会社は、ある種、男女を公平に見ますので、女性だからと言って甘やかせてくれる、優秀だからといってちやほやされるようなシンデレラ効果はなく、実力がいることは男女とも同じです。実力がないのに女性の権利だけ主張する方も見受けられますが、今や、このような女性も淘汰されると思われます。

 

最後に、2013年度の傾向について述べておきます。

通年で次のようなテーマが重視され、「産業社会が求めるタイプの人材の不足」と「職を求める人の増加」の間でミスマッチが広く叫ばれ続けるでしょう。

  • グローバル化にむけた人材の不足
  • 外国籍人材の登用
  • 組織開発やタレントマネジメント
  • 30歳前後から40歳代あたりの求人の集中やレンジアップ
  • 50歳以上や20代の就職難
  • 女性の活躍に不可欠な、出産、育児、復職を支援する社会や会社の制度
  • 起業家の増加と周辺環境の変化
  • 働き方、働く意義、働く価値が、世代間によって大きく乖離

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)