転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2013年7月~9月 
2013.07.04

株価の上昇、下降、それにともなう雇用変化

アベノミクスの3つの政策方針は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」そして「民間投資を喚起する成長戦略」であり、内閣府の月例経済報告では「景気は.緩やかに持ち直している」という表現が使われ、部分的に明るい兆しを見たいという心理が強く働いています。

例えば、5月19日、東京証券取引所一部上場企業の2013年3月期連結決算で、業績発表を終えた企業の約7割に当たる943社の経常利益は、アベノミクスによる円安・株高による景況感の好転を受けて今年になってから予想以上に業績改善が進んだらしく、また今年に入ってから株式の上昇によって大きな利益を得て潤った投資家も少なくありません。

今年の前期には、岩戸景気を超えると言われた株式市場が6月に入って急落するや、リスクオフの状態に陥ってしまい、強い牽引車が見当たらないようにも思われます。為替にしても、円高に振れたものが一気に円安に振れ戻すなど、予見が難しく、経済界や評論家の意見をみても、アベノミクスが長期に成長基盤を築いてくれるものかどうかについては未だ意見が分かれるところです。

本稿は、政治、経済、金融の論評ではないので、あくまで求人と求職の現場の声を聞きながら、筆者が長期的視点を加えて述べさせていただいているのですが、今回はここから2~3年のスパンで重要視しておいた方が良いと思われる中期的な傾向をお話ししたいと思います。

1)有効求人倍率が4月に0.89倍まで回復し、リーマン・ショック前の2008年7月(0.89倍)以来の高水準となりました。これは好ましいことなのですが、50歳以上の求人についての改善は認められず、50歳以下の市場でも求人が増加している職種、業種についてはかなり限定的で偏重した回復となっています。社会全体が景気回復していることを一人ひとりが実感するにはまだ時間がかかるかも知れません。

2)株価が上昇し円安になったとしても、外資が積極的に日本支社での雇用を拡大するわけではなく、また活発な投資を行う気配が感じられません。リーマン・ショック以前なら、半年も間を空けずに外資が日本支社の雇用を拡大したのですが、最近はGrowthという単語を一切使わず、FocusとかLeanとか高効率組織を目指す方向で、人の入れ替えが静かに進行しているように思えます。「日本は海外とは違う」という主張を行う外資系日本支社経営陣は退陣を迫られ、日本が特別であるという主張は禁句となっている様子です。外資系本社がアベノミクスをどのように捉えているか、これからまだ注目していかなければなりません。

中期的に見て、投資判断・経営判断を経て雇用拡大となるには、時間がかかるように思われ、あまり期待できないように筆者は感じています。もちろんアベノミクスやTPPによって戦略や経営方針は大きく変わると思いますが、まずは現時点で元気に求人している業界、職種に注目すべきだと思います。例えば、日系でも外資でもヘルスケア、ネット、モバイル、コンテンツ、リテール、コマース、外食など様々な産業でグローバル、イノベーション、マネジメントリーダーというキーワードで積極的に求人をしています。それ以外の例えば傾斜産業と言われる企業は、外部からマネジメント人材を採用し、失われた20年を取り戻すようなガバナンスや組織としてのイノベーションを起こさない限りは、この先も復活は厳しいかも知れません。

株価が高くなる会社や業界では雇用は拡大するはずですが、実際には必ずしもそのようにはなりません。ここ10年の雇用を生み出したのは大手企業ではなく、社歴の浅いベンチャー企業です。むしろ大手企業では雇用減となっているという調査もあります。健全な社会は企業の価値増加への期待が株価上昇へとつながり、資金コストが低下、リスクをとった経営が行われ、新規事業が開発・推進され、雇用・求人増につながるという流れになると思うのですが、最近の株価の上下動を見ても株価のみに動きがあり、株価は経営判断や求人とは関係ないなと感じる日が続いています。投資判断、経営判断がリスクオフという日本の社会は、アベノミクスをもってしてもリスクオンにならないのかも知れません。

3)日本人の中で日本という国を憂いたり、逆に未来に向けて期待している人も多くなっていることは確かなのですが、海外の人は、日本という国に対して以前ほど期待していない状況です。ただし例外的には、海外留学や駐在している日本人の周りにいる海外の人達だけは、日本人を通じて沢山の話を聞いているので、日本に対して今でもポジティブな印象を持っているようです。日本が諸外国に対して過去に貢献してきたことをアピールするだけではなく、今からどうしますという宣言でもなく、今、何を貢献しているかが問われる時代に変わってきたように感じます。

キャリアについて申せば、キャリアを歩むのは国内・海外いずれでも良いのですが、国内の場合は国内だけの価値観に狭めず、海外を常にみること、海外の場合は、欧米偏重な国際化ではなく途上国も視野に含めたキャリアを歩むことが大事な時代になりました。これらを意識しないとこれからのキャリアは成功しないと思います。

積極的に行動をしている人の周りには同じように行動している人が集まっています。ポジティブに共感する人が雲のようにつながっているようなイメージです。その中にいることで安心するのではなく、ご自身が積極的に考え行動し、その雲の中から飛び出しさらに進化してゆく雲に入っていくことを目指して欲しいと思います。

4)自発的に徹底的に考え抜いた人達が新しいキャリアを見つけるにはタイミングが非常に良くなってきました。最近キャリア紹介が決まった人達は本当に笑顔に溢れています。ただし、それを見つけ・決めるには大変な苦労、努力、決意が必要です。偶然良い機会に恵まれたのではなく、そういう機会の前には必ず努力を伴っています。最近の笑顔は、リスクをとって転職し、すぐに笑顔になれる人もいれば、転職して何年もたかってから転職したことがしみじみ良かったと笑顔になれる人もいて様々です。年収が高くなる人もいれば、下がっても「お金より大事なものを見つけられた」と笑顔になる人もいます。最近の成功例をご紹介しておきましょう。最近の成功例といっても、その選択、行動は、7.や8.のように5年前や10年前だったりもします。

  1. 年収を25%カットして転職し、報酬以上に大切なものを見つけることができた戦略コンサルタント(半額という人も何名もいます)
  2. 50代で案件がないと思っていたら、若手ベンチャー経営者と二人三脚で会社の成長を担う機会に恵まれた経営者
  3. Ph.D.からビジネス、経営、投資を目指そうとしてベンチャーキャピタルに入社出来た人
  4. 人生をかけたバイオビジネスが見つかった人
  5. 6回も転職して転職回数が多すぎてなかなか面談も入らなかったが、誰もがうらやむ会社に転職できた人
  6. 大手企業で安定していたキャリアを捨ててベンチャーに挑戦し、翌年10億円以上の資金調達に見事成功し執行役員になった人
  7. 5年前にリスクを取って転職し、5年後に外資系企業の社長になった人
  8. 10年前にリスクをとってスタートアップの外資に転職して、年収1億円プレイヤーになれた人

いかがですか?

社会と自分の関わりの中で、自身のキャリアや入社する会社について考え行動すれば、新しいキャリアを見つけられたり、創造することができるものです。

最後にご存じの方も多いと思いますが、フランスの哲学者、アランの「幸福論」でいくつか好きな言葉があるので添えておきます。まさにこれからの時代を乗り切る金言になると思います。

  • 悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意志のものである。
  • 何もしない人間は、何だって好きになれない。
  • どっちに転んでもいいという見物人の態度を決め込んで、ただドアを開いて幸福が入れるようにしているだけでは、入ってくるのは悲しみである。
  • 暇をもてあそぶ野心家などいない。四六時中、人の考えない事様な事を考えつつ、それを実行に移している。しかし野心家はまた「忙しさ」を自分に課することによって、さらにその野心を奮い立たせているのである。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)