転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2013年10月~12月 
2013.10.03

景気回復と完全失業率について思うところ

この夏、株価上昇やオリンピック招致成功などポジティブな話題が続き、労働市場も上向いているように感じます。ここから1年程度はこの上向き傾向が続くと思われますが、中長期の労働市場のことも考えておきましょう。

<直近の労働市場の傾向ハイライト>

  1. 金融関連が6年ぶりに求人を再開し始めた兆候あり。
  2. ヘルスケア、バイオ、ライフサイエンス関連の求人が引き続き非常に強い。
  3. 日系ベンチャーや地方の中堅企業の求人も強くなっている。
  4. 外資系企業を中心に次世代リーダー(経営幹部候補)の求人が増加中。

直近の労働力調査によると、7月末の完全失業者数は255万人で、前年同月に比べ33万人減少しました。38か月連続減少し、完全失業率も3.8%、3カ月で0.3ポイント低下しました。その後、たった1か月後の8月末完全失業率は4.1%に跳ね上がってしまいました。景気が良くなって求人が増えたのに完全失業率が悪化したというのはどういうことでしょうか?ここに完全失業率の本質を見ることができます。それを今回は念入りにご説明しておきたいと思います。

2020オリンピック東京開催が決まる前の段階でも求人数は増加中で、株価も上昇していましたが、オリンピック開催が決まってさらに、経済成長、ならびに雇用拡大への期待が高まっているように思います。それが国民の総意だとも思いますし、筆者もそのように願っています。

先の東京オリンピックは1964年、今からちょうど50年程前に開催されましたが、その頃の労働市場はどのようなものだったのでしょうか。当時とその後の完全失業率の推移を見ると、1959年にオリンピック開催が決定し、その当時、2.5ポイント程度であった完全失業率は、国民意欲の向上や産業成長の後押しがあって、オリンピック開催時には1.1ポイントまで改善しています。日本において最も求人が多かったのがまさに先のオリンピック開催時であり、それ以降は、日本万国博覧会のあった1970年位まではそのまま好景気を維持しましたが、1973年に起きた第一次オイルショックの後、完全失業率こそ右肩上がりになってしまいました。

2013-10-12_pict1

今回の東京オリンピック開催の決定を受け、今後求人が増え続けてくれればと願うものの、開催は7年も先の話であり、前回のオリンピックの時でも1.4ポイント程度の改善にしかなっていませんので、過度の期待はすべきではないでしょう。それ以上に、オイルショック、山一ショック、リーマンショックなど経済危機を引き起したマイナス要因のほうが、はるかにパワーが勝っていて、これらショックが発生した際には2ポイント以上の影響が出ています。

蛇足ながら、1998年以降に社会人デビューをした、現在38歳前後未満の方々には、いまいちピンとこないお話かもしれないですね。生まれる前のことであるのに加え、社会人としてバブル景気の恩恵を受けることもなく、逆に、不運にも就職氷河期、大手金融機関を含む多数の企業倒産、リストラなどとんでもない事態に見舞われ、自分が変わりたくなくても会社・社会が勝手に変わってしまうという時代に生きてきたのですから、実態感がなくて当然でしょう。しかし、冒頭に申し上げた日本の完全失業率3.8%は、今現実に起こっている問題です。それについては、皆さんの実感と合致していますか?

アメリカやフランスなどの先進国の失業率は7-10%と高いのに比べて、日本の失業率は低いと思っていらっしゃる方も多いと思いますが、それは本当に実態を表しているでしょうか?私は、実態とかけ離れた数字だと思っています。「完全失業者」は下記のように定義されています。

「完全失業者」とは、「就業者以外で、仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、就業が可能でこれを希望し、かつ仕事を探していた者及び仕事があればすぐ就ける状態で過去に行った求職活動の結果を待っている者。」です。

これは別の解釈が可能で、「働く能力と意志があり、本人がハローワークに通うなど実際に求職活動をしているにも関わらず、就業の機会が社会的に与えられていない失業者のことを指す。つまり、仕事探しをあきらめてハローワークに行かない人は失業者とは勘定しない。」とも捉えられます。就職活動を断念した人がいたら、それは失業者と見なしていないのです。

他の先進国ではこれらの人も対象にした失業者数となっていますので、私は、日本の失業率をアメリカ式や欧州式に調査すれば、日本もそれらの国と同等レベルの高い完全失業率になると思っています。優秀で働く意思があっても職がないという人、就職活動を断念している人が皆さんの周りでも増えていませんか?

無職の人で就職活動を行っていない場合は日本では完全失業者率の中に含まないことから、8月にはそれら無職で活動して来なかった人達が、一機に就職活動を開始したり、求人情報で魅力的なものが増えたりしてきたことで、転職活動を開始する達が増えたことで、短期的に完全失業率を押し上げることになったということです。中期でみれば求人が増加して完全失業率は低下の方向で進むだろうと思います。

オリンピック開催決定により市場や経済が盛り上がることで、いま職に就くことができていない人達が、就職活動を再開し、職を見つけることができるか。残念ながら私はまだの答えを見出すことができていません。今後、完全失業率が下がることは予想されますが、失業者の一人一人が職に就けるかを説明するには難しい状況が続くだろうと思います。今まで一年以上無職だった人にとっては、求人が増加しても職を見つけることは簡単でない状況に変わりはないと思われます。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)