転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2014年4月~6月 
2014.04.03

ベンチャーを取り巻く環境を振り返って

2013年、新規上場を果たした企業は、日本でもアメリカでも前年度に比べ増加しました。リーマンショック以降、冷え込んでいた新規上場企業数はこのところ徐々に回復していましたが、大きく増加したのは久しぶりのことです。ベンチャー企業にとってIPOは資金調達の代表的な手法ですが、ベンチャー以外の企業もIPOするため、新規上場が増えたからといってベンチャーが増えたと一概に言えませんが、近年ベンチャーの資金調達の手段は、プライベート・エクイティ(PE: private equity=未公開株)ファンドや、大企業からの増資引き受けなどもあり、多様化が進んでいるといえるようです。

その大企業はといえば、日本でもアメリカでも内部留保が大きくなっていると言われています。これは、日本では山一證券や長期信用銀行、アメリカではアーサー・アンダーセンやリーマン・ブラザーズなど、好景気の中にも決して楽観視できない、金融クラッシュや経営破綻といったグローバルな問題が起きていることから、当然と言えます。

そんな世界的な資本流動は活発になっている中、今回はベンチャー企業を中心とした求人に焦点を当てて述べたいと思います。

昨年あたりからベンチャー企業からの求人が増加していますが、近年は私が見る限りでも、起業する人が多く、ベンチャーへの就職希望者も過去に比べて非常に増えています。IT一色だった90年代後半のネットベンチャーブームとは異なり、日本もベンチャー企業において業種やサービス形態に厚みが出てきたように思われます。

また、ベンチャー起業家を取り巻く環境は以前とは見違えるほどに改善されました。

10数年前は起業すると言えば、夜逃げ覚悟で会社の借入金数千万円の保証人になって、さらには友人や知人や家族、人生のメンターなどの大反対を乗り越えなくてはいけませんでした。現在では、資本金を実績のあるベンチャーキャピタルから容易に調達したり、小資本で株式会社が始められたりといった、高額の保証人にもならないで済む部分が多く、過去に存在した経済的な大きな障害はほぼないに等しいといえるでしょう。

ベンチャーキャピタル(以下VC)については異論をお持ちの方も多いかもしれませんが、以前に比べ、VCとしての力を備えた会社や経験豊富なキャピタリストがずいぶんと増えました。また、今は知人友人からの反対どころか、賛成や様々な支援を受けるケースも見受けられるようになっています。

もう一つ、ベンチャーにとってこれまで何より困難であった創業時の人材確保や、成長期のスタッフ採用についても、今はソーシャルメディアの普及や普段のネットワーキングが昔より容易かつ活発に行えるようになったことで、低コストあるいは無料で直接採用ができるようになりました。

これらお金や人材についてのコストを低く抑えられる事は、ベンチャー経営者にとって大変重要なことです。

業界を少し俯瞰してみると、ヘルスケア、バイオ、インターネットやスマートフォンなどのIT産業、コンテンツ、センサー、エネルギー関連、素材関連など、様々な業界でベンチャーが育っているように見えます。

また若手の起業だけでなく、30代、40代、さらには50代でも、調達資金が、数十億、あるいはそれ以上という大きな規模で、しっかりと立ち上げられているベンチャー企業を見受けるようになりました。さらに、必ずしもゼロからの起業ではなく、大手企業のカーブアウトやジョイントベンチャーの形をとる事も増えています。

一方で、ベンチャーを希望する人達に目を向けてみたいと思います。

最近のベンチャーは、まず明快なビジョンがあり、次に解決すべき社会的課題などがはっきりしていて、その解決にむけた戦略性や商品に面白味があるところが多くなりました。素晴らしい起業家がリードする、そうした魅力的な会社に転職する人達も、90年代よりもはるかに増えています。(創業時に人材を採用する際、これらの要素は大変重要なポイントです。)

弊社でも最近、年収2000万円の人が500万円の年収でも人生を賭けられるものを見つけたということで、ベンチャーに転職されたケースがありました。過去には5000万円の人が900万円で転職したケースもありました。彼らに共通していえることは、年収を自分の価値とせず、年収が下がっても自分の価値が下がったわけではないと、しっかり自己分析ができていたことです。そして、忘れてはいけないのが、ベンチャー企業側にストックオプションの用意があるという点です。現年収だけの単純比較ではなく、キャピタルゲインや、そのベンチャー企業で得られる経験こそが自分にとって価値があるということを意味しています。この本当の価値を理解できた方が、「ここで選ばなければ、こんなチャンスはない」、「選ばなければきっと後悔する」と仰ってベンチャーを選択しています。

ここまで良い面ばかりをお伝え述べてきましたが、残念ながら、こうした調子は常に良いものではありません。これまでも日本のベンチャーは、振り子のように急激な過激とヒートアップを起こしたと思えば、一気にクールダウンしてしまうことが何度もありました。

もし皆さんが、ベンチャーを起業あるいはベンチャー企業に転職しようと考えておられるのであれば、ブームが終わっても、しっかり継続できるベンチャー、生存しているベンチャー企業を冷静に精査、吟味、選定してほしいと思います。

最後にもう一つ別の視点から一言。

ここ数年で特徴的だと思うのは、最初から世界市場を目指すベンチャー企業や、地方拠点のベンチャーが増えてきたことと、もう一つは、社会起業家と言われる人達の層に厚みがでてきたという点です。

ここまでの10年でこれだけ変化してきたベンチャーを取り巻く環境が、これからの10年でさらに魅力的な成長・熟成を重ねてほしいと切に願います。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)