転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2020年1月~3月 
2020.01.09

新時代のキャリアの見つけ方

オリンピックイヤーである2020年が幕を明けました。昨年のラグビ―に続き、今年はオリンピック、パラリンピックできっと大いに盛り上がることでしょう。一方、キャリアマーケットに目を転じると、いよいよ“大転職時代”が到来しそうです。

失われた20年(あるいは30年)と言われて久しいですが、行動経済学者・鶴光太郎氏が著書『人材覚醒経済』で述べているように、鶴氏が執筆にかかわった経団連21世紀政策研究所の報告書『グローバルJAPAN-2050年シミュレーションと総合戦略』の中では、2050年になれば人口は1億人を割り、65歳以上の人口が全体の4割を占め、労働人口も現在の6500万人から4400万人程度へ大幅減少すると予測されています。2050年といわれても体感しにくいものですが、現在35歳の方が65歳になる頃と申し上げればわかりやすいかもしれません。

前回のコラムでは、日本の実質GDPの成長が約20年間停滞していたことを示しましたが、一人当たりの名目GDPの世界ランキングは、2000年には2位であったものが、2018年にはすでに26位に低下しています。いったい、2050年にはどうなってしまうのでしょうか?(また、国連サミットで採択されたSDGsの17の目標に、2030年にどこまで一人一人が当事者意識をもって取り組めているでしょうか?)今までの20年(あるいは30年)を振り返りつつ、つぎの30年で日本、そして日本人は覚醒・変化することができるのでしょうか? 変化しなくてはならないのと思っている人は、どれほどいるのでしょうか?

現在45歳以下の人と、45歳以上の人では、私はキャリアの作り方が大きく変わると考えます。言いかえれば、1998年以前に社会人になった人たちには、「定年退職、サラリーマン、組織内の出世」といったキーワードが当てはまりました。前述の鶴氏がいうところの「正社員、無限定」と呼ばれる人材、すなわち「勤務地、職務、労働時間」が限定されていない働き方をしてきた人たちでした。彼らにはその代わりに、正社員として「生涯雇用を暗黙知的な契約の上乗せ」として高い報酬と安定を企業が提供してきました。ただ、もうこれは限界なのです。大企業であっても中小企業であっても、このような日本の戦後の雇用モデルでは、限界点を超えたと考えるほうが実態を表していると思います。

実際、トヨタ自動車の豊田章男社長による「終身雇用決別宣言」、経団連の中西会長(日立製作所会長)の同様の発言は世間に衝撃をもたらしました。その発言を機に、示し合わせたように、みずほ証券、三菱UFJ銀行、損保ジャパン、朝日新聞、セブン&アイ、キリン、富士通などの名だたる大企業が相次いで大規模な早期退職プログラムやリストラを発表しました。この流れを一時的なものと捉えるのではなく、雇用環境そのものが大転換期を迎えていると考えたほうが現実的です。

これからの働き方というのは、「ジョブ型(ジョブ型正社員)になる」と鶴氏は述べていますが、私も同意です。いみじくも、尊敬するハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授が著書『ジョブ理論』の中で、鶴氏と同じ“ジョブ”という単語を使って「人々が何かを求めるとはどういうことか?」を解き明かしていますが、鶴氏が論じる「ジョブ型」の意味合いを理解するのにも、とても有効だと思います。「ジョブ型(ジョブ型正社員)になる」とは、乱暴に言ってしまえば、会社のタイトルや所属責任ではなく、本来その人がもつ役割、機能に改めて注目し、それに沿ったキャリアを模索していくことだと私は理解しています。

会社の中での“サラリーマン”を本気で脱却し、一人一人が社会の求める“ジョブ”、すなわち機能や役割を意識すること。そして、会社から与えられたミッションにただ向かうのではなく、自律した価値観や自らのミッションを持つこと。そうしなければ会社にも残れないし、社外へ出て転職もできない時代が来ている…ということだと思います。

これまでにも、45歳以上の転職、とりわけ50歳以降の転職が非常に厳しいものになってきたことに警鐘を鳴らしてきましたが、その状況が今年さらに厳しさを増すことは言うまでもありません。いまは40歳であっても、あと10年も経てば厳しい状況が待っているわけで、50代が抱える課題は他人事ではありません。ですから年齢にかかわらず、しっかりとした自らのミッションやアスピレーションを持ち、変化を恐れないことがとても大事になっているのです。

転職先を見つけるには色々な手段がありますが(大手転職エージェント、転職ポータルサイト、ハローワーク等への登録は基本として)、これまで50代以上のご相談者の方々にお話ししてきた「キャリアの見つけ方」を以下にお伝えします。

(1)自らの“ジョブ”を再設定する

ご自身の強みを見直しましょう。また、過去の実績や常識を捨てる覚悟を持ってください。

(2)「やってくれ」という市場の声、すなわち求人の声を見直してみる

その際には、絶対に地域・報酬・タイトルで求人案件を計らないでください。年齢を重視する会社であれば、シニアは若手に勝ち目はありません。年齢を問わない新時代のジュブ型採用や、フラットな組織管理、あるいはティール型組織を標榜しているような会社であれば、チャンスを見つけることができます。

(3)自分を市場に売り込む際には、自叙伝を述べない

採用側のニーズを的確につかみ、応募先毎に成功シナリオ、売り込みのプレゼンテーションをすべて、アジャストする必要があります。ばらまきでは成果はでません。1分以内に自分の強み、ミッションを伝える努力をしましょう。(1分と思っていても、自叙伝的な話し方では3分程度かかってしまいます。)

(4)まだ成長したい、という気持ちも持つ

自分がやりたいこと、やれること、は過去の経験に属します。これからまだ成長したいという気持ちが大切です。成長したい、変化したいと思えない人は転職先が見つからないまま1年も2年も経ってしまいます。「まだ成長したい」「社会のために〇〇をしたいから、まだ何かできるようになりたい」と考えること。そうして、謙虚になることができれば、チャンスが生まれます。

(5)信頼できるコンサルタントとつきあう

キャリアプランについて提案型の回答をしてくれる、そして市場の声をしっかり理解し、レジュメに書かれていない個人の価値(その人が気づいていない価値)を見い出してくれるキャリアコンサルタントを見つけることです。

(6)夢や意欲を振り返り、Aspirationをあぶり出す

実年齢の7割程度の年齢の時に、ご自身がどんな未来に夢や意欲を持っていたか、本気で何をやりたかったか、改めて思い出してください。人生の目的やミッション、あるいはAspirationは何かを考え、ご自身の感性やハートに問いかけてみてください。本気で取り組みたいものは何かという問いでも同じです。ただ、単なる自己実現や自己満足にはならないように。そのAspirationが、社会の誰かのためになる、ことが新時代の前提です。

(7)Aspirationに沿った環境を探す

単に求人情報を探すのではなく、自分の役割を果たせる環境、同じことを社会に対して行っている仲間、団体、活動家にも目を向けてみましょう。そこにコンタクトをとり、仲間にいれてもらえるようにアプローチすることです。それらの人に出会うことでキャリアにつながることがあります。応募者と採用者、面接という呪縛から離れましょう。生産性は低く、数多くこなす必要はありますが、キャリアにつながる糸口が見えてきます。また、人と話すことで、自分を見つけることもあります。意外に思えるかもしれませんが、この方法で仕事を得ることができた人は少なくありません。海外の企業に日本参入のアドバイスをしましょうという手紙を書いて、結果的にお手伝いから日本のGMになった人。プロボノのお手伝いが高じて、団体がNPOになり理事になり、活動が大きくなって本職になった人。趣味が高じて仲間が集い、顧客が広がってきたので会社を作ってしまった人など。

(8)Aspirationが見つからなければ

ここまで進めて自分の内なるものを見つめても、次のキャリアにつながる起点が何もなければ、家族のために仕事をすることも大切です。割り切りも必要です。あるいは家族や自分のためだけではなく、誰かが助けを求めているのでれば、それに寄り添う仕事でも構いません。報酬が少なくても、誰かの助けを必要とする人は沢山います。ご自分の強みを仕事や報酬のためではなく、誰かのために使うことも、ご自身の成長、覚醒につながります。

(9)自分の進退は自分で決める

体が加齢しても、心まで加齢する必要はありません。本当に怖いことは、心から衰えることです。ご自身のリタイヤは年金や仕事の有無ではなく、人生をやり遂げたと思える時ではないでしょうか。自分の進退はご自身で決めることです。ポジティブな社会の変化として、やりたいことがあれば続けられる社会が来ていると思います。

これらが絶対的な方策とは言いませんが、多くの人が実践的に次のキャリアを見つけることができています。すでに米国でも英国でも先進国は定年退職、年齢での退職を法律で禁じ、産業社会をドライブしています。これからは、自分から働き方を変えることも必要なのでしょう。会社と社会を変える側に移るか、変えられる受け身側の人間になるかの岐路に、どんな年齢の人も立っていると言えます。

まだ若い世代の方も、一度冷静にキャリアデザインを描いてみましょう。若いからこそ、これからの新時代にどのように自由意志でキャリアをデザインするか、考えてみてください。自由な選択の結果は、すべてご自身の人生に戻ってきます。これまでは、会社にキャリアデザインをゆだねられる楽な面がありました。報酬の面でも、自由意志がないかわりに、それだけプレミアが支払われてきたと言えますが、これからは“ジョブ”に対してのみ報酬が支払われるようになるはずです。

まだ若い世代の方も、一度冷静にキャリアデザインを描いてみましょう。若いからこそ、これからの新時代にどのように自由意志でキャリアをデザインするか、考えてみてください。自由な選択の結果は、すべてご自身の人生に戻ってきます。自由な選択は権利でもありますが、責任を伴います。これ以上、会社や社会に任せる人が増え続けると日本社会の負担は持ちこたえられないところまで来ているのだと思います。これまでは、会社にキャリアデザインをゆだねられる楽な面がありました。報酬の面でも、自由意志がないかわりに、それだけプレミアが支払われてきたと言えますが、これからは“ジョブ”に対してのみ報酬が支払われるようになるはずです。(結果がすべてとも、努力がすべてだとも言っているわけではありません。実力主義を提唱しているわけでもありません。)

ちなみに、今後の産業社会にはAIやIoTの活用は不可欠となってきました。これらのテクノロジーによって失われる“ジョブ”もありますが、新しく生まれる“ジョブ”もあります。SDGs時代にはEDG投資なども活発になり、さらに資本流動と労働者の流動が進み、それも普通のことになるでしょう。国境、年齢、性別にかかわらず、働けるものは働く、というシンプルなことなのかも知れません。

今後の産業社会には経営者とスーパーエキスパートが圧倒的に不足している、とだけ今回は申し上げておきます。概ね45歳以下の方に、そのチャンスが巡ってきているといえます。新時代のリーダーシップ、変化に対してイニシアティブをとれる人材になることが重要なのだと思います。

でも45歳以上でも遅くはありません。成長しようと思うか、残り何年としか考えないのかの違いです。前者であれば道は拓かれます。後者は道が閉じてしまうでしょう。個人的には、雇用形態にこだわる必要はないと思います。パートタイムや非雇用契約、委嘱契約からでも“ジョブ”とミッションが合致するならスタートさせてみる。そこから始めて、新しい長期の雇用が生まれることも実際にあります。

最後に2018年に他界された、私が勝手にメンターの一人として教えを請うていた今北潤一氏の言葉をご紹介します。74歳で亡くなるまでご自身のミッションを大切に、プロフェッショナルとして、またビジネスリーダーとして、常に新しい挑戦を続けてこられた今北氏。氏の書、その中の言葉を今こそ多くのシニアに読んでもらいたいと思います。以下は『仕事で成長したい5%の日本人へ』(今北純一著/新潮新書)からの抜粋です。

◆「ステップ4 成長願望と上昇志向を混同しない」より
私は常々、「日本語のサラリーマンという言葉には悲哀なイメージがあるな」と感じています。英語では「サラリーマン」という言い方はしません。「ビジネスマン」ないしは「ビジネスパーソン」という言い方をします。でも、これらの言葉には、特段悲哀なイメージがあるわけではない。なぜそうなのかを考えてみると、多分、日本的な意味での「サラリーマン」という言葉は、「自由意志を持たなくなってしまった」ということとセットになっているからではないかと思います。

◆「ステップ7 仕事を究めた先にあるもの」より
「終わりがない」というのは幸せなことです。常に感性の窓を全開にして、謙虚な気持ちを持って新しいものを見つけ、「ハッ」とするようなことについて自問自答を繰り返していれば、結果的に「成長」という果実は後からついてくるように思います。

◆「あとがき」より
「なぜ変わらなければならないのかわからない」。変わらなければならない理由はありません。本書で述べてきたように、変わることそのものが目的ではないからです。ただ、もし毎日がマンネリズムのサイクルの中に閉じ込められていて、充実感や生き甲斐を感じられないのなら、選択肢は二つしかありません。自らを鼓舞して変わるか、何もしないで生きるかです。すべて自分の自由意志で決められることです。

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)