転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第11回
2007.02.08

ベンチャー企業への転職。成功するキャリア選択のポイントは?

IT関連企業でソリューション営業の職に就いている26歳です。大学時代から、将来の起業を目標にしてきました。その実現へ向け、キャリアを積んでいきたいと考えています。

起業に役立つかと思いベンチャー企業への転職を考えているのですが、有効な道でしょうか?あるいは、転職先としてベンチャー企業を選ぶ場合のポイントなどがあれば、アドバイスをお願いします。

Answer

起業にベンチャーでの経験は有効だと思います。既得権益の周辺や、現在すでに主役である財・サービスの真ん中よりは、技術・サービス市場の先端にいることはプラスになるでしょう。既得権益が根本的に改革される時も起業チャンスではありますが、いずれにしても、市場や技術の先端にいれば機会は広がります。

その意味で、本来は大手企業にあっても技術や市場の先端にいる人は起業できるはずなのですが、なかなか現れないのが現実です。大手とベンチャーとの大きな違いは、リスクをとって行動する経営者がいるかだと私は考えています。それに両者では決定・実行のスピード感覚も少し異なります。

ベンチャー特有の決定力・スピード・実行の3点をご自分の血や肉にして、頭で理解するだけではなく行動もできるようにすることは、起業に際し、きっと役立つことでしょう。また、たとえ資源が不足していても競争優位性をもってそれを補うことや、経営者に近いところでトップマネジメントの経営判断、リーダーシップを見ることも意義深いと思います。

ご相談者は、ベンチャー企業で何を経験し、何を知識・スキルとして向上させたいとお考えでしょうか。「起業すること」「社長になること」を誰も止めませんし、何ら障害はありません。しかし課題は、創業後にその会社をしっかり成長させる経営者になれるかにあります。

それを最初に判断できるのは、ご自分自身です。自分が自分のことを一番よく知っています。重要なのは、その自分を信頼できるかどうかです。(起業を志ながらも「私は創業して大丈夫」と胸を張って言えない人が日本には案外多いのです。)大丈夫と思える明解な根拠、自分を納得させられる過去の実績や自信があれば、それはきっと外部のベンチャーキャピタリストや、新しい会社の社員、顧客にも伝わるものだと思います。

それから、転職先としてどんなベンチャー企業を選べば良いかということですが、以下の3つのポイントが挙げられます。

1)創業者(あるいは経営者・経営陣)のコンピテンス

起業に熱い想いがある、業界トップの実績がある、技術力がある、知名度がある、逃げ出さないコミットメント力がある、経営者としての力がある、起業家として尊敬できる……などなど。エレベータートーク式に15秒程度で、上記のようなコンピテンスが浮かぶかどうかも、ひとつの指標になると思います。

そんなコンピテンスを持つ創業者、経営者がいるベンチャー企業には、逆に個人も就職と考えるよりは、自分の人生を投資するぐらいの意欲で参加する人が望まれるでしょう。そして、人生を投げ出して貢献してくれた個人には(企業に対して利益の背反がないかぎり)その人が起業することになっても何らか応援してくれることは珍しくありません。

最近、重要になってきた点として、創業者・経営陣の価値観とコンプライアンスも挙げられます。やはり曲がったことを指示するようなベンチャーは、いくら成長していても一夜にして崩壊しかねませんので、事前に十分注意しましょう。

2)資本家・株主構成・財務状況

株主が100%創業者なのか、あるいは家族が含まれるのか、友人が含まれるのか、外部機関投資家なのか、事業投資家なのか、大手企業なのか、外資資本なのか。その構成を見極めておきましょう。豊富な資本投下、資本の追資が可能か、どの程度でキャシュが底をつくのかなど、財務と資本政策は可能な範囲で理解しておくことをお勧めします。

極めて有力な株主を持っていることはベンチャーが成功するひとつのポイントです。顧客が安定株主になっている場合もプラスです。(このあたりの議論は、財務・経営をしっかり学んだビジネスのプロをメンターにしながらできればベストです。)

3)会社としてのコア・コンピテンス

社会的意義がある、技術力がある、商品としてすでに市場に評価されているなど、同業者の中で何が競争優位性であるのかを確認しましょう。また、ビジョンやミッションが明解である、社員に能力の高い人材が多い、他社より熱気があるなども、コンピテンスになりえます。

ただ、それらが戦略的に圧倒的な優位性といえるかどうかは、厳密に査証すべきです。個々人の判断基準(主観の領域)に照らすだけでなく、できるだけ多角度から企業価値・製品価値を吟味してください。

気をつけるべきは、IT業界出身者がIT業界の人間としての目だけで見ることや、財務のプロが財務だけで見てしまうことです。意外に、個人の専門分野の観点からだけ吟味する方が多く、これは危険です。総合的な企業としての強みを判断しましょう。

理想としては、ベンチャーキャピタル(VC)と同じ手法でベンチャーを見抜くことができれば良いのですが。ベンチャーキャピタリストの判断基準も組織によってクライテリアが異なるので、絶対評価はできないものの、VCが厳しい審査を経て支援している(投資している)ベンチャーといういう基準も参考にはなるでしょう。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)