転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第14回
2007.03.22

希望の企業からオファーをもらい転職を決意。しかし家族が…

とある日系消費財メーカーで、営業職に就いている者です。マーケティングの仕事をしたいという希望を数年前から持つようになり、転職活動に踏み切りました。

念願が叶い、マーケティングのポジションでオファーを出してくれる企業が出てきたのですが、いよいよという段階になって「無謀な転職だ」と家族の反対にあっています。職種が変わるため当然実績がなく、年収は今より若干ですが下がってしまいます。また、現在の会社よりも規模等が小さくなることも家族の反対の理由かもしれません。

私の転職は、家族が言うように無謀なものなのでしょうか。あるいは、どのようにして家族を説得したらよいでしょうか。

Answer

ご相談者のご年齢がわからないのですが、おそらく30代の方だと推察し、ご回答させていただきます。

まず、今まで営業職にある人にマーケティングを任せる採用側の意図が明らかになっているかが、判断のポイントになると思います。その意図や理由(例えば営業で培った人脈や人物面を重視し、かわりにスタッフと変わらない階層から仕事を始めてもらう等)をはっきりと聞いておらず、曖昧なままであれば、いささか無謀な転職といえるかもしれません。

また、年収を下げてまで転職したい理由が「マーケティングをしたいから」という単なる願望だけであるなら、私もご家族と同様に反対です。「やりたい」という気持ちだけで転職という人生の大きな決心をされたなら、ご家族はたまったものではありません。

しかし、マーケティングを任せる採用側の意図・理由が納得できるものであり、その会社あるいはご相談者が転職によって成し遂げられるものが見えていれば、決して無謀な転職ではないでしょう。成し遂げられるものが見えていない=上手くいく根拠がないから、ご家族も反対されているのだと思います。

「小さな会社だが、こんな良い所があって社会的な意義もあり、未経験でも仕事をさせてくれる」「自分の○○○という経験と営業の力を、今度はマーケティングで活かしてほしいという要請だ」「それが上手くいけば会社も大きくなり、成長できる基盤になる」「現職ではできない機会がある」「自信のある良い製品だけに、この会社のこの機会にかけたい」「人生をかけてやってみたい。2年後、5年後といったスパンでの判断ではない」「リスクとしては、自分に期待された能力がないとき、会社も自分も失敗するかもしれない」「会社のことで調べられたデータは○○○だ」「社長はこんな人で、顧客はこんなところである」「既にこんな分野でこんな評価がある」「年収が下がるが、3年以内に下がった分は取り戻せる」「マネージャーになったら、こんな年収になるので、現職である部下のない部長のままよりはやりがいがある」「これから先、マーケティングの理解もなく、部下をリードしたこともないまま40歳になり、人材市場にほうり出されたら家族を守る力がなくなってしまう」……など。

例えば上記のように、ご家族の心配の原因を細かく理解し、転職先の会社の事実を包み隠さず述べることが大切でしょう。ご自分が自信をもっていえること、そしてわからないことの両方を伝え、現職にあるままのリスクと、転職先のリスクとの両方をしっかり説明し、合意してもらう必要があります。ご家族が現状持っていらっしゃる情報はほんの表面的なことで、「現職は有名な会社の○○で安定している」「ご主人にはリストラなどの可能性など未来永劫ない」といった認識なのかもしれないのですから。

さて、このご相談者がもし40代の方であれば、アドバイスは少し異なります。厳しい言葉になりますが、自ら上記のような説得もできない方が転職されても、失敗の可能性が大です。また説得の前に、そもそも振り返ってみるべき点もあるはずです。ご家族が反対される理由や原因が、単純な年収や会社の規模に留まるものではなく、何か他にあるのかもと考えてみてください。

ご家族というのは、ご相談者を一番に心配し、利益の共同体であり、かつ本人以上に本人のことを知っておられる存在です。ただし、会社のことやビジネスのことはご存じないはずですし、仕事上のスキルや人材マーケットにおける市場性についてなど、論じられる根拠はお持ちでないはずです。ご相談者の何を心配され、転職に反対なのか、本質的な懸念を聞き出すべきといえます。

じつは仕事一途なご主人の姿勢そのものに反対で、もっと家族のための時間をとってほしいという希望があり、その時間がさらに減ることを恐れているなど。そんな本音が原因であれば、しっかりと時間をかけて議論されるべきです。30代に比して40代の家族の亀裂は大きい場合が多く、じっくり慎重に転職を進め、くれぐれも独断で決心したと事後報告にならないようにしてください。これは14年間、キャリアコンサルタントして様々な転職の現場に関わってきた私の実感としてのアドバイスです。

全幅の信頼を得ていれば、ご家族もご本人の判断を全面的に支持されるはずです。ごくありふれた言葉になるかもしれませんが、常日頃からご家族とのつながりを意識され、その信頼を勝ち取っておかれることが、意外にも転職の場面でも重要な意味を持ってくるのです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)