転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第57回
2009.01.29

~特別版/不確実性が高まる時代のキャリア開発(2)~

“経済状況や企業動向など、予想もしない変化が起こるこの時代に
自分のキャリアをどのように考え、選択していけばよいのか?”
そんなご相談をお受けすることが多くなりました。

今回の特別版は、それらの疑問・質問・お悩みに対し、
少しでもヒントにしていただければと企画したものです。
全4回の連載形式で、お届けします。

不確実性が高まる時代のキャリア開発(1)~冷え込む転職市場と”意外な求人”
不確実性が高まる時代のキャリア開発(2)~戦略的キャリアデザイン・七つの提案
不確実性が高まる時代のキャリア開発(3)~35歳までのキャリア形成のポイント
不確実性が高まる時代のキャリア開発(4)~35歳以降のキャリア形成のポイント

Answer

戦略的キャリアデザイン・七つの提案

前回は、冷え込み続ける転職市場の現状と、その中にも”意外な求人”が存在することをお伝えしました。本稿では、厳しい状況下でキャリアを前向きに展開していただくための戦略的なキャリアのデザインについて、述べたいと思います。

これまで数多くのご相談者のコンサルティングを行ってきた経験から、私は戦略的なキャリアデザインを行うためには、以下の七つのポイントが重要だと考えています。

(1)「適材」「適所」よりも「適時」

適材・適所とよくいわれますが、個人のキャリア形成を考えるときには、何よりも「適時」が大切だと思います。「適時」とは、つまり個々人の人生における時間軸のこと。キャリアをどう展開させていくべきかとデザインしたり、決断を下したりする際、「時間軸」の視点抜きに考えることはできません。

例えば、28歳頃までの方なら業界と職種の2つともを変えて転職することが可能です。また転職できるだけでなく、その後のキャリア構築も十分可能でしょう。32歳頃では、業界・職種のどちらか一方なら変えられる可能性が高いといえます。35歳になると大幅なキャリアチェンジが難しくなりますし、高いリスクを負うことになります。50歳では、いわずもがな。それまでの積み重ねを発揮していなければいけない年齢になります。

自分が何歳で、いま時間軸のどの地点にいるのか…誰も気にしてはくれません。当たり前のことのようですが、この視点が抜けている方が多々見受けられます。まずはキャリアの「適時」をしっかり認識することが必要です。

(2)自己への問いかけ…「経営」を目指すか?

皆さん様々なキャリアの目標をお持ちのことと思いますが、一度ご自身に問うていただきたいことがあります。それは「”経営”を目指すのか?」ということです。起業をする、プロ経営者となるなど形態は色々あるでしょうが、ご自身の選択として「企業経営」を目標とするかどうかで、キャリアのマイルストーンが大きく変わるように思うのです。(もちろん、経営を目指すことが良くて、目指さないのは悪いと言いたいのではありません。)

もし経営を志すのであれば、次にどんなタイプのマネジメントをしたいのか(外資系か日系か、大企業がベンチャーか、あるいは創業か等々)を考え、そのために必要な知識・経験・スキルを獲得すべくキャリアの道筋を考えればいいことになります。また、経営を目標としないと判断できた場合には、60歳まで(職業人としての人生を概ねこのくらいと仮定して)どのような形で有用な人材としてあり続けられるか、その戦略を考えることができると思います。

(3)「やりたい」「やれる」「やってくれ」

キャリアのご相談をお受けしていると、「やりたい」ことは把握できている方が多く、またその「やりたい」に合致するキャリアチャンスを探している方が非常に多い印象を受けます。ですが、より良い転職やキャリア構築を行うためには、自分が「やれる」と自信をもって他者に提示できるもの、そして「やってくれ」という需要側(求人企業側)の声をしっかり認識しておく必要があります。その上で、この「やりたい」「やれる」「やってくれ」に合致する機会を探すべきだと思います。

過去の成功者(目先の転職ができたという意味だけでなく、転職後もキャリアを発展させている方)を思い起こすと、3つのうち、必ずいずれかの2つが揃っていました。「やりたい」ことと「やれる」こと、「やれる」ことと「やってくれ」の声など。おそらく3つのうち、需要側が求めているもの=「やってくれ」が、個人の方にとっては一番見えにくいものでしょう。ですから私のようなコンサルタントは、時代や景気の動向によって刻々と変化する需要側の要請を、ご相談者にお伝えすることが大きな役割だと考えています。

(4)業界/職種/タイトル/年収のワナ

転職を希望される方の中には、業界や職種、タイトル、年収などでキャリアを探し、それらに捉われるあまり機会損失をしてしまう方も見受けられます。もちろんWeb等で自分に合った求人案件について、まず情報収集をしようという時には有用な指標でしょう。しかし、これらはあくまで表面的な情報に過ぎません。

そのポジションが個人にもたらす本質的な価値は、具体的な職務内容やレポートライン、キャリアパスなど、もっと深く広く情報を得てみなければ分からないはずです。例えばタイトルだけを見て「自分の希望とは違う」と良いチャンスを見逃すことがあったとしたら、大変残念なことといえます。

また、業界・職種・タイトル・年収以外にも、こんな条件に固執されていた方が過去にいらっしゃいました。それは「海外勤務」という単語です。その40代の方は「海外で働きたい」というのが希望。なぜ海外で仕事をされたいのか? 海外で何を成し遂げたいのか? とお尋ねしても明確な答えはお聞きできず、「とにかく海外へ行きたい」と繰り返されるばかりでした。これでは大学を卒業したての新卒人材と同じような職業観です。海外を希望する、キャリアのcontext(文脈)も曖昧ですし、求人案件を探す際にも「海外勤務」という単語に捉われ、本質的な価値を見逃す恐れがあると思います。

(5)マインドセットを捨ててみる

(1)から(4)までは、今後のキャリアについて考えたり求人案件を探したりする際に、知っておいていただきたい事柄について述べてきました。ここからは、キャリアに関する決断を迫られた際の、私からの提案をお伝えします。

それはまず、「マインドセットをいったん捨ててみる」ことです。

常識(と自分が思っていること)、世の中の空気や流行、家族・同僚など身近な他者の声…様々なものの影響を受けて、人の判断軸は成り立っています。それらを一度ゼロにして、自分の中に残った変わらない(変えられない)価値観を明らかにしていただきたいのです。それに基づき、冷静な状況の分析もきちんと行った上で、頭で決断。心で決心。そうすれば、後悔のない意思決定ができると思います。

(6)リスク排除から「リスクを乗り越える」視点へ

リスクを想定し、できるだけ排除していくことは勿論重要です。しかし、キャリアのDevelopmentを狙うには、リスク排除の視点だけでは袋小路に入ってしまう局面が出てきます。「リスクは見えているが、乗り越えるぞ」「○○○なので、乗り越えられる」という視点にシフトし、判断ができなければ前に進めないこともあります。

例えば株主や経営者が、新たなボードメンバーを探しているようなマネジメント求人の場合。株主・経営者も「人」ですから、その考え等は当然変わります。では、変化するもののリスクをどうやって見抜くのか? あるいは乗り越えられるものと判断して飛び込むのか? その答えは、私は”会うこと”だと思っています。精神論のようですが、これは私の実感です。顔を突き合わせ、会話し、その中でご自身の五感と心をフル稼働させて情報を得て、感じ取る。それが必要だと思います。

(7)リアリティーをみつめる姿勢

世界的な経済の冷え込みとともに、転職市場にも過去に例がないほどの厳しい状況が訪れました。「大手だから安泰だ」「○○業界は大丈夫」といったことがどんどん崩れ、過去に成功とされたパターンが必ずしも通じなくなりつつあります。そんな時代だからこそ、価値のあるキャリア、幸福なキャリアのために、私は「個人とそのポジションそのものとのマッチング度合」がより重要になっている気がしています。

どのような求人が現実にあり、需要側が何を求めているかを知ろうとする。同時に、自分の現状をきちんと分析し、把握する。そのようなリアリティーをみつめる姿勢を持てていれば、厳しい時代の中にあっても自分に合ったキャリア機会を発見し、掴むことができると思います。

※次回は、特に35歳以下の方々について、転職にあたっての注意点、知っておいていただきたいことを述べたいと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)