転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第75回
2009.11.19

4年前に転職した会社が日本から撤退。以前勤めた会社から戻ってこないかと誘われたが…。

外資系の金融機関に勤めていますが、日本支社が閉鎖されることになったため、転職活動を開始しました。現在、活動開始からすでに4か月程度が経過するも、思ったようなオファーを得ることができません。そこで以前の勤務先である商社の上司に相談したところ、ならば戻ってこないかと誘われました。現在36歳で、転職したのは4年前の32才の時です。

最初は戻る気はなかったのですが、ここまで景気の低迷が長引くと、戻ろうかと真剣に考えています。 戻るとしたらどんなことを考えておくべきでしょうか?また、前職に戻るとその後転職市場で評価されなくなるという話も聞いたことがあるのですが、そのようなことはあるのでしょうか?

Answer

将来の市場価値は、戻るか戻らないかではなく、戻ってからどの程度の期間そこで勤務して、何を成し遂げるかによると思います。
日本の企業は、この10年で大きく変ってきました。業界にかかわらず、休職の後、復職する人を認めるようにもなりました。しかしながら、転職して出て行った人を再度快く受け入れるということについては、まだ実験的といいましょうか、半信半疑と言う状況であるように思います。

確かに、最近は大手商社各社で同様のケースを耳にするようになりました。
しかし邦銀をはじめとした金融業界では、やっとキャリア採用が定着した程度で、「デモドリ」のケースをあまり聞いたことがありません。またその他の事業会社においても、若年層では若干耳にするも、35歳以上の方の「デモドリ」はほとんどないように思います。
まだ、この程度しか「デモドリ」のケースはなく、転職市場で一般的な評価がされるような状況ではないとも言えます。

 

さて、今回のご相談のケースでは、一番に確認すべきなのは、戻る際の雇用形態が正社員か契約社員かということでしょう。
日本の大手企業の中途採用、特に35歳以上の年齢層の採用の場合、「契約社員(有期雇用契約)」でスタートというケースが多く見られます。契約社員でスタートした後、何年か経過してから正社員にするという提示です。正社員になるまでの期間も、1~2年ではなく、4~5年という時間を要していることが多いようです。

また、会社の事情や本人の能力不足など理由は様々ですが、結果的に正社員になれないことのほうが多いと思われます。正確な調査などをしたわけではないのですが(実施は難しいのですが)、経験上、正社員になる可能性は5割以下といえそうです。

日系大手企業に戻るということは、こうしたリスクも覚悟しておく必要があるということです。
そもそもその会社が嫌で転職したのではないという前提ですが、以前お勤めの会社だからといって「きっと大丈夫」などと安心してしまうことなく、もう一度しっかりと現実を見てみましょう。

 

もう一つ、戻る前に考えておくべきことがあります。もし、景気も回復した数年後にまた外資系企業など高い報酬の案件でスカウトがかかった場合、どうするかです。

再度転職をすることとなると、当然、今回貴方のために奔走してくださった上司の社内的な面目や信頼などに傷をつけてしまうこととなるでしょう。つまり、戻るなら、「上司の顔をつぶさないためにも、定年まで勤める(少なくとも自分から辞めない)」、あるいは「もう一度転職するときには、その上司から恨まれても仕方ない」という、どちらかの覚悟をする必要があるのです。

そもそも日系大手企業の中途採用では、「たとえ不本意な異動があったとしても、総合職として長く勤めること、少なくともすぐにまた自発的に離職しないこと」をコミットし、「内定をいただけたら必ず入社します」と明言しないかぎり、正式なオフアーはしていただけない傾向にあります。

よって、単なるリップサービスやその場しのぎの対応をしたり軽はずみな意思決定をしたりすることは避け、本当によくよく考えて判断いただきたいと思います。

 

最後に、もっとも気になる(本質的な問題である)市場価値についてお話しします。

日系大手企業に35歳を超えて「出戻り」した場合、その後1~2年で再度離職する場合と、4~5年で40歳を超えて離職する場合では、まったく異なると思ったほうがよいでしょう。
前者は次も30代での転職となるので年齢の面では比較的チャンスも多く有利ですが、戻ってもすぐに離職したということで、市場価値はあまり高まりません。一方後者は、ご年齢が40代となり年齢的には30代に比べ不利ともいえますが、成果を出してさえいれば、その分市場価値は高くなっているといえます。当然、転職も有利になります。

「出戻り」の後の再度の転職を考える場合、スタッフクラスのレイヤーを想定するなら話は別ながら、ご年齢からは当然マネジャークラス以上、ディレクター、マネジメントのレイヤーをとお考えでしょう。それならば、年齢が若いことより実績を出していること、成果を上げていることがより重要です。
35歳以上のスカウト・マーケットでは、市場価値は「実績・成果」でほぼ決まりまるのです。

本ケースでは、(あくまでも一般論ではありますが、)2年後に38歳で成果を上げられないままに再度転職に動くより、少なくとも4~5年は勤めてしっかりとした成果を上げたほうが、市場価値は高く転職も有利になるといえます。

4~5年でしっかりとした成果を上げ誇れる実績を残せるか、何よりそれをもう一度考えてください。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)