転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第76回
2009.12.03

社長が起訴され会社が破綻したが、そこの役員であった私は再就職可能か?

先日まで未公開企業のCFOを勤めておりましたが、創業社長が株主から起訴され、刑事、民事両方の裁判をすることになり、私も先週末に役員を辞することとなりました。現在43歳です。ことの経緯は次の通りなのですが、責任のある立場だったことからも再就職への影響を心配しています。

創業社長が起訴された理由は、「彼が役員会にかけず独断で(不正に)投資を決めてしまい、会社に大きな損害を与えた」というものです。私に対しても株主からもいろいろ質問がありましたが、私は職務上の責任は果たしていたことを理解してもらい、また、その不正を事前に予防するなど企業の利益を守っていたことを様々な書面でも確認いただくことができたため、CFOながらも本件の責任の追及は免れ、訴訟の対象にはならないと判断してもらいました。

しかしながら、そのようなコンプライアンスに抵触するような社長を今まで8年も支援し、また不正に走るようなCEOを止められなかったものとしては、法的には問題がなくても社員を含めてステークホルダーには申し訳なかったと思っています。先週末で株主の承認もいただき、CFOを辞しました。

裁判には、できる限り誠意をもって協力してゆこうと思いますが、おそらく司法の判断には時間がかかるものと思われます。

このような立場ですが、はたして、しっかりと再就職ができるものでしょうか?

Answer

答えとしては可能です。
最近しばしば起きているケースですが、こうした方への評価は見事に2通りに分かれます。

一つが、「そのような不正が生じた会社の役員であったこと自体が問題」という評価で、多くの場合はこちらとなってしまいます。こうなると、残念ながら全く説明の機会も得られません。

一方、「その人が不正を防ぐべく正しいことをしていたと示せ、不正に加担しなかったことを合理的に実証できるものがあれば、それは創業者の単独の問題であってそれ以外の役員には罪はない。もちろん不正の責任は問わないし、場合によってはその経験を評価さえする。」というものです。

たとえば、過去にも次のようなケースを扱ったことがあります。

やはり経営TOPに不正のあった会社のCFOだったXさん(仮称)ですが、不正に加担していなかったという実証を持っていることを確認した上で、株式公開を目指している某ベンチャー企業のCFO候補としてアクシアムからご紹介しました。そのベンチャー企業のCEOは、Xさんが勤務していた会社の社長を人柄まで含めてよく知っておられる方であったので、Xさんの説明や立場をよく理解され、不正に加担されていないことを確信されて、採用したいと思われました。次のプロセスとして、社外取締役でもある同社のベンチャーキャピタルの方との面談に進めるべく手続きを進めていたのですが、そのベンチャーキャピタルの方の意見は、「在席されていた会社そのものが社会的に強い批判を受けている実情を考えると、そのCFOだった方を投資先に迎えるのは風評を悪くする可能性があるという点で望ましくない。会うまでもなく、断固拒否する。」というものでした。当然の懸念とも思えます。社長も議論を重ねてくれましたが、結論としては株主の意見に同意され、採用は断念されました。

しかし、同じXさんを別のベンチャー企業に紹介した時には、判断がまったく異なりました。 社長もVCからの社外取締役も、「X氏の経験は逆に貴重な経験であり、コンプライアンスのためにそこまで行動されていたのであれば評価できる」と考えました。 実際にXさんが取った行動を面談で確認し、リファレンスも弁護士やXさんが勤務していた会社の株主にまで確認した上で、逆に高い評価をされたのです。結果的に、Xさんは採用されるに至りました。

他にも、当人が不正に加担していないことを実証した方が外資系に就職しケース、ベンチャーで採用になったケースなどの例は複数あります。中には、それを機に起業するケースもあります。しかも、単なる事務所開設に終わることなく、経験を生かして会社を大きく成長されている例もみられます。

一般的には、CFO、担当役員、CEOなどの上級の管理職や経営者になればなるほど、当然その責任を強く問われることとなりますので、再就職が厳しくなることは確かでしょう。ただ、不正に関与しておらず破綻の主原因が当人にないと言える場合、合理的にそれを説明・証明できれば再就職できる可能性は十分にあるのです。さらにはそこから学び、次回は不正が起こらないよう対処できるだろうことなどを示せれば、その経験を高く評価してくれることさえあります。

あまり悲観せず、そうした評価をしていただける方を丹念に探されるとよいと思います。

蛇足ながら、破綻の原因が当該人材に直接的に起因する場合、自ら非合法な行為を行ったとされる場合、あるいはビジネス上の倫理や道徳に反する非道な行為を行っている場合、絶対的なぬぐいきれない風評がある場合などは、当然ながら再就職がほとんど不可能だと思います。『社会的な制裁』はいろいろな形であると思いますが、再就職できないこともその一つです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)