転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第81回
2010.03.11

東京勤務はいやという妻の反対をどう説得すればよいか。

日系大手自動車メーカーに勤務する39歳です。転職活動の結果、某外資系企業からのオファーをいただき、それを受けるべく家族と相談したのですが、妻から猛反対を受けてしまいました。

現在、3歳と0歳の子供がいますが、「今後の子供の教育を考えると東京は環境として望ましくない」という理由で反対されています。妻も私も実家が●●県にあり、今の勤務先も●●県にあります。私は東京の大学や海外のビジネススクールに通ったこともあり県外で生活したことがあるのですが、妻は●●県から出たことがなく、不安になることも理解できなくはありません。このような状況ですが、どうすれば説得できるのでしょうか?

Answer

引っ越し・転居が必要となる転職というのはよくあります。そもそも、その転職活動を開始された時点で勤務地はわかっていたはずです。あるいは転職でなくとも、大手企業に勤務する人であればもとより転勤となる異動も特別のことではないでしょう。つまり、こうした勤務地の問題についてはある程度予測可能であったはずなので、結婚された時からか少なくとも転職を考え始めた時からなど、あらかじめ話し合いを持たれておくべきでしたね。

近隣であればそう問題とならないのでしょうが、大阪から東京など遠方への転勤・転職には、子供の教育とか親の介護とか、とかく家族に関する問題が起こりがちです。 勤務地や居住地の問題のみならず、お子さんのことやご両親のことなどについて、普段から家族やパートナーと対話しておくことが大事です。そうすれば、あとで思いもよらない反対にあうこともないはずです。

悔やんでばかりいても仕方がないので、これからどうするか、どうしたら説得できるかについて、前向きに考えてみましょう。

何より必要なことは、奥さんの反対の理由が本当にどこにあるのかをもう一度考えることです。 「子供の教育を考えると・・・」というのは、本当の理由ではない可能性があります。(むしろ本当の理由でない可能性が高いと思います。)反対の真意を理解できないかぎり解決はありませんので、今一度奥さんと話し合いをもってみてください。

ちなみに、ほかにも「給与が倍にならないと認めない」というような条件を付けてこられた奥さんもいらっしゃいました。ほとんど労働市場やビジネス環境を無視した条件であり、さすがに一般の転職で倍になるはずはありません。これも、実質的に「条件にかかわらず絶対反対」という意味でしかなく、反対する別の理由があったのです。

過去、さまざまな「家族の反対」を聞いてきた経験からは、次のような5つの理由がすぐに思い浮かびます。それぞれ解決案と併せて記しますので、ご覧ください。(単身赴任という選択肢は、あえて可能性から排除しています。)

  1. 本当は、奥さんが貴方の判断を信頼しきっていない。貴方の普段の行動や決断に頼りなさを感じていて、漠然と不安を感じている。また、貴方のことを心配している。だから、感情的に強く反対している。

    ⇒ 心配しているからこその反対であるので、しっかり時間をかけて説明すれば理解、同意してもらえる可能性があります。奥さんの抱いている不安や懸念について、一つ一つ丁寧に具体的な情報を示し、熱意をもって説明することが、愚直ながら最良・唯一の方策であると思われます。 ただ、理解してもらうには時間がかかると思われるので、今回のオファーへの回答期限に間に合うかどうかは不明です。それでも、かならず次回につながりますので、しっかりとお話しておくべきと思います。

  2. 現職を辞めてほしくない。なんだかんだあっても、現状維持が一番安泰だと思っている。何か変わることに対する恐れや漠然としたリスクを感じている。将来、大企業でもリストラなどの可能性があると頭ではわかっていても、貴方が対象になることはほぼあり得ないと信じている(貴方に対して過信気味なほど)。貴方が現職に不満を思っていたり、将来に期待が持てないと考えていたりするなど露ほども知らされていなかったゆえに、貴方の転職など考えたことがなかった。どこに転職するとしても反対。

    ⇒ 現職に対する奥さんがもつ「安泰」のイメージが、必ずしも絶対的なものではないことを冷静に説明しながらも、それ以上に、ご自分が持っている不満あるいは将来への懸念を率直に伝える必要があります。当然ですが、転職しても次の会社が安泰であるとはいえません。しかし、自発的な転職により、これからの不確実な社会や会社を取り巻く環境の変化にも対応できるようにしていくことは可能です。「今の会社を飛び出しても、外で力を発揮できることを転職により証明しておく必要がある」ということを理解してもらうのです。会社に依存せず自らの力でキャリアを切り開くつもりであることをしっかりと伝えましょう。

    それは家族のためにも必要なことであり将来の利益になること、それが絶対といえないまでも自信をもってやり遂げようと思っていること、それには家族の賛同と支援が不可欠であることなどを、熱意をもって説明すれば、きっと理解されるものと思います。

  3. 純粋に(本当に)、子供のケアが大事なので今住んでいるところを離れられない。子供の教育やケアにおける特殊事情がある。

    ⇒ 勤務地を変えられない特殊事情があるのであれば、その範囲で転職活動を限定せざるを得ません。いろいろ事情はあるでしょうから、それは仕方がないことです。子供以外にもご両親やほかの家族のケアや介護が理由となることもあります。 ただ、本当に転居が無理かどうか、しっかり検討したほうがよいでしょう。案外、単なる思い込みだったり、情報不足による誤解だったりすることもあります。

    教育に対する考え方は、もちろん人それぞれです。友達、教育環境、学力、文化的な要素やいじめの問題などいろいろあると思いますが、居住地を変えても、子供に対する教育環境は十分に配慮できるものだと思います。転居には、マイナスもありますが、プラスもあるはずです。

    今回の場合であれば、東京で子供に提供できる教育の選択肢や環境について、もっと具体的に調べて、相談してみるほうが良いと思います。もし、今お住まいの場所(地域)を離れることができないのではなく、移り先の東京そのものに反対している(例えば都会がいやで、自然に恵まれた地方がよいと考えているなど)なら、東京のプラス面をうまく説明する必要があります。奥さんが、あまり知らないがゆえに反対されているだけである可能性も大きいと思います。 教育機関や保育園の環境面での選択枝の多さや文化面のプラス面を強調すれば、考えも変わるかもしれません。

    ちなみに、一般的には東京から地方へ移りたくないという逆の理由で反対されるケースのほうが多いといえます。それぞれ、住めば都だったりします。

  4. 転職そのものにはそこまで反対でないが、次の会社に対して不安をもっている。その会社は避けてほしいと思っている。ただ、漠然とした不安であり、なぜダメかをうまく説明できないので、「子供の教育を考えて・・・」という理由に転嫁しているというパターン。

    ⇒ これに対しては、次の会社を奥さんにいかにうまくプレゼンテーションするかにかかっています。

    写真、パンフレット、Webサイト、IR情報などのデータ、ニュースリリースや新聞記事、社員の声、社長についてなど、アピールできる情報を揃えられるだけそろえて、十分な準備をして説明しましょう。何より次のキャリアパスの可能性やメリット、キャリア上のプラス面をしっかり伝えることも怠りなく。理解してもらえないだろうからと説明を省いてはいけません。一からしっかりお話ししてください。

  5. 外資系企業全般に対する先入観による反対(4.に似たケース)。ただ、個別企業に対してではなく外資系企業ということに対して拒絶反応を起こしている点で4.と異なる。外資系企業に対して、「終身雇用が確約されておらず、リストラが間違いなくあるはず。」という思い込みがあり、そこに不安と大きなリスクを感じている。ほかの日系大手企業への転職ならここまで反対されなかったということでもある。

    ⇒ 奥さんがどのような職業経歴をもっておられ、どの程度人事制度や雇用の実態に理解があるかわかりませんが、この先入観というのはかなり厄介なので、丁寧な説明が必要になります。

    2.に近い回答になりますが、現職の自分のキャリアはすでに生涯雇用が約束されたものではない事を話し、客観的に理解してもらう必要があります。場合によっては、貴方がエリートコースに乗っていると信じ込んでいるかもしれない奥さんの幻想を崩すことをしなくてはいけないでしょう。

    加えて、外資系企業においてはリストラが確実に起きるというのも幻想であることも説明するとよいでしょう。どんな時にリストラが起きるのか、人事システムが日本の大手企業と外資系企業でどのように異なるのか、その外資系企業ではどのような人事制度が採られているのかなどをしっかり説明すればよいと思われます。

    そのためには、まずは貴方自身がしっかり人事制度の違いや組織の特徴を理解しておく必要があります。少なくとも、日系大手企業の人事制度の基礎となっている「職能資格等級制度」と多くの外資系企業の基本である「職務給制度」の違いくらいについては理解をしておきましょう。 その特徴の理解なしには当然正しい説明ができず、奥さんに「外資系ではすぐにリストラされかねないから認められない」と言い切られてしまいかねません。それで一緒になって心配してしまっては藪蛇ですから、まずは貴方がしっかり理解してください。

    大企業から初めて外資系企業に転職する人の場合、意外にこの5番目の対処ができていないことが多いようです。外資の人事制度や方針について、外資に勤める友人や知人、キャリアコンサルタントからヒアリングするとか、あるいはオファーをもらったその企業の人事部に説明を受けておくなどしてみてください。

 

以上、思いつく理由を5つ挙げましたが、これら以外にも「真の反対理由」はあると思いますので、しっかりと奥さんとお話しください。うまく同意が得られることを願います。

ただ、同意が得られなかったからといって、その意思決定を家族にゆだね、家族の責任にしてはいけません。最終的な判断はご自身がされるべきものです。「家族の反対を押し切ってでも、(それか結局家族のためになると信じて)決断する」という判断もありえますし、「家族の気持ちを優先し、転職しないことにする。もはや将来が約束されてはいないというリスクはもちろんあるが、それに期待しないことにすれば現職もそう悪くはない」という意思決定もあるでしょう。あるいは、「やはり同意を得たうえで転職したい。今回は、時間的にも家族の同意を得られなかったが、次回しっかりと同意を得られるよう、家族で話をしつつ、転職活動を続ける」という選択もできるはずです。

ご自身、そしてご家族の将来のためにも、最善の選択をされることを願います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)