転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第90回
2010.08.05

外資系企業のFP&A(Financial Planning & Analysis)の仕事に就きたい。どうすればいいか?

大学卒業後、3年間、中堅のメーカーで海外営業に従事してきました。幸い、高校まで海外に住んでいましたので、英語は上級レベルです。今後の私のキャリアとして、社内の先輩は、このまま海外営業を続けて、課長、部長、海外支社の役員を目指すことを勧めてくれていますが、私はそれに少し疑問を持っています。会社も製品も嫌いな訳ではないですが、単に同じことを繰り返すだけの単調な業務になっていて学びがなく感じているというのが大きな理由です。

また、会社の経営が経営陣の直感に頼るものになっていて、判断に合理性がないように感じています。説明がないまま物事が進められるという点でも私としては納得がいかず、正直なところ、このような経営陣や上司からは何も学べないと感じてしまいますし、そのような会社で自分の大切な時間を無駄にしたくないと思っています。そこで転職を考え、自分なりに調べてみて、合理的な経営判断ができるようになるような仕事ということで外資系企業のFP&Aに就きたいと思うようになりました。ところが、何社か応募をしてみたものの営業職の経験のみでは全く取り合ってもらえず、面談にも呼んでもらえませんでした。どうすれば営業職からFP&Aにキャリアチェンジできるのでしょうか?

Answer

お勤めの会社の経営陣が本当に合理的な経営判断をしていないのかどうかはさておき、残念ながら、今のあなたにはFP&Aにキャリアチェンジするために必要な経験、知識、スキルが不足しているといえます。経験、知識、スキルといったキャリアの資産は、時間とお金を投下してはじめて得られるものであり、何もせずに形成されるものではありません。つまり、このままあと3年現職を続けたとしても、きっとそれらは身に付かないでしょう。ではどうするとよいのか?

会社が研修を実施するなど時間とお金を投下してくれたらよいのですが、それがかなわないならご自分で投資して学べばよいのです。

具体的な方法としては、MBAを取得することがあげられます。MBAで会計、財務、経営、マーケティング、組織論等をしっかりと学べば、卒業時に外資系事業会社のFP&Aのポジションで採用される可能性がぐっと上がります。 必ずしも海外ビジネススクールに留学せずとも、国内MBAでもあるいは通信講座やインターネットのプログラムでもかまいません。ただし、Cost Accounting(原価計算)、Managerial Accounting(管理会計)、Financial Accounting(財務会計)、Finance(財務)、M&A Finance等を深く理解し、実際に使えるレベルで習得することが大事な要件となります。単に履修したということでは不足です。また、財務会計のみならず、ビジネス、経営全般についての共通言語、ビジネスフレームをしっかりと理解していることも期待されます。その点、ケーススタディーやディスカッションが多く取り入れられたプログラムは、やはり単に教科書を座学で学ぶより実践的であり、学んだスキルを使ってみることができるのでより効果的といえますので、プログラムを選ぶ上では考慮してください。

 

さて、MBA取得以外にFP&Aにキャリアチェンジする方法がないかといえば、なくはありません。 単純な話で、FP&Aと同様の職務経験を積み、必要な知識やスキルが身につければよいのです。 実は、これは今所属している営業部門でもできるかもしれません。

そもそもFP&Aの職務とは具体的にどんなものなのでしょうか?

単純化していうと、製品やサービス単位、事業単位、あるいは会社全体において、正しいビジネスジャッジができるように財務的な視点から現状を把握し、様々な分析をし、業績を管理し、そして戦略を企画することです。「それって、いわゆる経営企画の仕事では?」と思われるかもしれませんが、必ずしも経営企画部や経営管理部が行う仕事とは限りません。

製品やサービス単位、事業単位、あるいは会社全体を見るのとで担当する範囲やレイヤーは異なりますが、本質的に売り上げやコスト、利益や資産、投資の収益性や価値などを分析し、何をすべきか考えていく仕事というとらえ方をすると、それは財務部門、経理部門、個別事業部、あるいは営業部門など、いずれの部門でも行ってしかるべき仕事と言えるのです。

もしかしたら、自分で気付いていないだけで、知らず知らずと類似業務を経験されている可能性もあります。例えば海外営業の業務の中で、広告やプロモーションの効果測定をコストと対比して行うなどされていませんか?あるいは、KPI(Key Performance Indicator)や営業管理指数を見ているということもあるでしょう。いずれもFP&Aにつながる仕事です。それをもっとやればよいのです。

営業部門だからといって、財務の分析やコストの管理をしてはいけないということはありませんね。 経営を本質的に捉え「収益を高めたい」「企業価値を上げたい」と思えば、営業マンでも財務の視点を取り入れて何をすべきか考えてもよいのです。特に、FP&Aを目指したい、経営に関わりたいと思われるのであれば、他の部門に売上予測の算定を任せてしまったり、経理部等から出てくる販売管理費を鵜呑みしてしまったりせず、自らの手で予測や集計、分析をするべきでしょう。

つまり、MBAの学位を取得しなくとも、財務会計を勉強したり、USCPA等を取得したりするなどしっかりとした知識を身につけ、ご自身なりにFP&Aの仕事を現職で実践・経験していけば良いのです。その経験、知識、スキルを持って外資のFP&Aに応募されれば、面談が入り採用に至る可能性が十分期待できます。

FP&Aを目指すにあたっては、もうひとつ、他の部門に異動を願い出るという方法もあります。事業企画や経営管理はもとより、KPI等に関わり、現業を分析、企画、管理するような部署がほかにあれば、そこでもかまいません。また、経理部で経理経験を積みつつ、ご自分なりに簿記や会計、税務を学び、CPAの資格を取得する等してAccountingとFinanceに強みを作るというのも有効な方法です。

少し話はそれますが、外資系企業の日本法人では一般的に経営企画部門というのはありません。外資の場合、財務部がその名の通りFinancial Planning & Analysis としていわゆる経営企画あるいは経営管理的業務にあたります。しかも、このFP&Aの仕事は事業部ごとに担当者がいるというケースが多いのです。

一方、日本の企業にいる方の多くが、財務部の仕事は資金調達や金融取引を担当するもので、経理部の仕事は決算等数字の取りまとめをものと考えてしまう傾向にあるようです。あるいは、実際にそのように職務分担が決まってしまっているのかもしれません。そのためか、経営にキャリアを繋げるには財務部門や経理部門では不足で、経営戦略企画や事業企画部の仕事に就かなくてはいけないと思い込んでしまう傾向があるように思います。

ところが、それは大きな誤解で、財務部門や経理部門の仕事は十分経営につながります。 海外のMBAでも、Financeは「インベストメント」と「コーポレートファナンス」の2つの意味・役割を持つと明確に教えられているのと同時に、Accountingは、決算することでも諸表を作成することでもなく、その本質は経営状態を把握することと教えられています。つまり、FP&Aの仕事とは、財務や経理の集大成のようなものなのです。だからこそ、FP&Aのその後のキャリアパスとしてビジネスマネジャー、コントローラー、CFO、すなわち経営へと繋がるものとなるのです。

 

まとめると、FP&Aにキャリアを展開するには、①自分でMBAを取得するか、②営業の仕事の中でFP&Aの仕事を自ら積極的に行うか、③あるいは経営企画や財務、経理部門などに異動をするかして、新たな経験、知識、スキルを身につけるということになります。

いずれにしても、28歳までに、新しいキャリアの資産として、MBAあるいはそれに準じるキャリア資産を 取得しておかれませんと、FP&Aに転職できる可能性は極めて低いです。言うまでもありませんが、今のままではFP&Aでは採用されません。

また、FP&Aは、財務会計から経営に繋がるキャリアパスとしては、まだまだ入り口のところですから、できるだけ早くアプローチされることをお勧めします。35歳まで営業一本で通してきた方が、その後いくらMBAを取得したからといって、急にFP&Aで採用されることはありませんのでお間違いございませんように。

最後に、ご参考まで実際のFP&Aの求人内容を記しておきます。 同じ製造業のFP&Aの求人でも、完全なスタッフ職で未経験でも良い場合と、企業財務の実務経験が期待される場合があることをご覧いただけます。

 

【外資メーカー FP&A (1)】

職責:
  • ビジネスの意思決定をリードし、会社の財務事項に関して健全で革新的な企画と管理を行う。その結果、長期的な利益とキャッシュフロー、株主の投資に対する利益還元を最大化する。
応募要件:
  • ファイナンス分野未経験の方でも可能
  • 経験業界は問いませんが、ビジネスファイナンスもしくは経理財務の経験者尚可
  • 論理的思考力・リーダーシップ・コミュニケーション能力をお持ちの方
  • 原則的に、エントリーポジションでの採用です
    (社内には優れた研修プログラムがございます)

 

【外資メーカー FP&A (2)】

職責:
  • 予算およびフォーキャストの作成、・投資・経費の予算及び実績の分析及び報告
  • 月次・四半期・年次ベースのシンガポール等のAsia FP&A Teamへの報告
  • ワーキングキャピタルの改善のための施策の検討
応募要件:
  • 財務会計、管理会計経験3年-5年程度以上
  • 数値分析力/論理的思考力
  • 事業会社においてM&A戦略立案に携わった方尚可
  • 事業計画立案経験あれば尚可
  • 数値に対する強い執着心を持つ方
※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)