転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第89回
2010.07.22

最終オファーが口頭のままで1か月も待たされている。

現在、ある外資系企業への転職活動を進めています。これまでに3回の面談を経て、最終の社長面談では、「ぜひ採用したい。現職よりも好条件でオファーをしたい。」との言葉を頂きました。社長面談に同席されていた人事部長からも、「翌週までに書類を揃えて郵送するので、ぜひ来て欲しい。」と言われました。自分としても第一希望の転職先なので、オファーレターが到着したらすぐにサインをして、転職するつもりになっていて、その旨を先方にも伝えていました。

しかし翌週、人事部長から「本社の承諾がとれず少し時間がかかりそうだが、日本サイドとしては是非とも採用したいと思っていて、承諾がもらえるように努力している。近日本社で会議があるので、その際にも日本支社長が直接交渉する予定だ。」との連絡がありました。社長面談から既に1か月が経過し、あまりに時間がかかっているので心配になっています。また、この会社以外のオファーを断ってしまっているのですが、はたしてこのまま待っているだけで良いのでしょうか?

Answer

大変、難しいご質問です。何もせずにじっと待つべきか?あるいは何かアクションをとるべきか?というご質問かと思いますが、ここには「タイミングの遅れにどう対処するか」という問題以外に、「採用側の説明責任をどうとらえるか」という別の問題が隠れています。

労働市場では応募者はいってみれば販売側で、採用側は購買側です。応募と採用も一つの商談といえます。その販売契約の締結時にこのような状況が起きていたら、どのように判断すべきでしょうか。転職活動と考えず、一般的なビジネスや商談に、置き換えてみればわかりやすくなります。 貴方は、当初買い手から「来週契約しよう」と言われていたものの、その週になって「ぜひ買いたいと思っているが、予算を握っている人に承諾を得るべく交渉しているので、少し待ってほしい。」と言われているわけです。そして、すでに1ヶ月が経っている。

売り手としては、その人(会社)に買ってほしければ待つしかないわけですが、もうすこしだけやれること、やるべきことがあります。 それは、先方と密なコミュニケーションをとること。そして、本当に買う気があるのか、時間がかかっている本当の理由は何かを探ることです。

例えば、「●月●日ころまでに契約してもらえれば、その後の手続きも早く、×月×日までに納品できる」とか、「他にも買いたいという顧客があるのを待たせているので、●日までに回答もらえると助かる」とか、「説得するのに実績データが必要なら用意しましょうか?」といったアプローチは、ごく一般的にするはずですね。

つまり、「現職を退職するためには、いつ頃までにオファーをもらえると退職しやすい。」とか、他社オファーを断る前に「他社への回答期限が迫っているがその日までにオファーをもらえるのか。」等、候補者からコンタクトを密にとり、コンタクトしていくのです。そうすれば、先方も少しは焦って早く動いてくれるかもしれませんし、あらためて説明があるかもしれません。少なくとも何らか反応があるはずです。それをしっかり読みとりましょう。

単に待つのではなく、自分の側からの積極的なコンタクトと情報提供が大切です。コンタクトを取りながら先方の状況をヒアリングし、いつ頃までにどうなるかを確認していくようにすると良いでしょう。 もしも、いろいろ貴方からコンタクトして探っているにもかかわらず明確な回答がないままお茶を濁されたなら、それは買う気がなくなったか、買えなくなったか、あるいはその両方かです。つまり、最終的にオファーレターが出てこない可能性が高まっていると考えたほうが現実的です。

 

さて、ここでもう一つ考えるべきなのは、きちんとした納得のいく説明があるかどうかです。これが、採用側の説明責任に関する問題です。

「本当は別の候補者がいる。」「採用計画そのものが中止になってしまった。」「本社が承諾せず反対している。」など、先方の事情を推察することはいくらでもできますが、推察にはあまり意味はありません。きちんとした説明がされるか否かが重要なのです。

それは、その説明こそが、「取引をする相手として信頼できるかどうかと」いう一番重要な点の判断材料になるからです。

採用側に事情があってオファーレターの発行が遅れているのだとしても、待たされた日数に見合った説明がなければ、客観的に見て本気で候補者を採用したいと考えているとは思えません。正式オファーが遅れた理由についてしっかり説明を受けてみてください。

オファーレターが出た段階で、十分納得のいく説明がなされたかどうか、そしてこの会社に転職すべきかどうかについて改めてしっかりと吟味、熟考されることを強くお勧めします。その説明が不十分であれば、入社は避けたほうがよいでしょう。 なぜなら、入社後もいろいろと異なるシーンで、同じようなことが起こる可能性があるからです。

例えば今回のケースでは、「ビジネスの決済を日本支社長に依頼しても社長からは説明もなく、本社が承諾してくれないというだけで商談やプロセスが止まってしまう」といった、マネジメント上の問題を抱えている可能性も考えられます。

もし仮にこのようなマネジメント上の問題を抱えている企業から、偶然、スムーズにオファーが出てきたらどうでしょうか。あなたはきっと改めて吟味することもなく、何の違和感もないまま、その会社に入社してしまっていたのではありませんか?うまくいっているように見えて、実は最悪の選択をしてしまっていたかもしれません。

ただし、待たされている間に嫌気がさしてしまっても、あなたから辞退するのは得策ではありません。熟慮した結果、本当に自分が行かないという結論に達したならそれでよいのですが、オファーが出る前に辞退してしまっては、「説明もしっかり受けて、納得した。熟考の結果入社することにした」という機会を逸するからです。 よって、オファーが出た後、説明を受けた後でしっかりと判断するのがよいでしょう。

 

今回のようにオファーの遅れなどがあると、改めて分かることもあるものです。そうした機会もうまく生かして、良い選択をしてください。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)