転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第92回
2010.09.02

海外勤務が長くなっていますが、そろそろ日本に帰りたいと思っています。

私は現在49歳で、日系企業の米国法人で20年近く勤めてきました。自分はこのままでもいいと思っていましたが、妻と高校に進学する子供が日本への帰国を希望していることもあり、家族のことを考えた結果、そろそろ日本に帰りたいと思っております。現職では、日本本社と現地法人をつなぐ経営管理の仕事が主たるものですので、外資系企業の日本支社で同様に仕事が出来ればと思っています。

現職では日本支社への異動は認められておらず前例もないので、転職するしかないと考えています。そんな私が考えておくべきこと、やっておくべき準備は何でしょうか?20代は日本で営業職、MBA取得後、現職に勤め、今まで順調にキャリアを積んでこられたと思っております。また、割と大手のメーカーで生産と販売の両方についての見識を得てきたので、その点も強みになると思っています。

Answer

まずは、20年間もの長きにわたる海外勤務、ご苦労さまでした。1990年といえば日本企業が対米投資を活発に行い、まさにメイドインジャパンが米国を席巻していた時代です。当時のMBAの方も貴方と同様に、日系企業の現地法人に就職された方は多かったですね。それから20年、既に日本に戻ってこられている方も多いと思いますが、この20年間で、現地法人の役割も随分変わったことでしょう。

さて、ご相談のポイントとなるのは、実に20年という長期間海外にいらしたこと、そして現在49歳であられるということ。いつも申し上げていることですが、大事なことは、適材、適所よりも「適時」かどうかということです。

49歳から60歳、さらに60歳以降のキャリアを日本でどのようにするのか、2020年までの10年間を、「2020年以降に向けた10年間」と捉え、今までのキャリアの資産をどのように活用していくかが、今回のご相談の大きなテーマになります。

そして、このテーマを考える際に、果たして本当に外資系企業の日本支社が貴方にとって唯一の選択肢なのかどうか、ここをしっかり考えましょう。

まず、東京に戻ってこられるか、東京以外に戻ってこられるかで可能性が全く変わってきます。もちろん、東京以外にも外資系企業はありますし、地方の企業でもチャンスはあります。しかし、絶対的な求人数という観点からは東京か東京でないかで、チャンスが大きく異なります。よく地方でチャンスがあっても、東京以外は嫌だという方もいらっしゃいますが、その理由の一つにこのチャンスの格差が挙げられると思います。貴方はご家族を第一に考えておられると理解しておりますが、ご家族ともその点について話し合っておかれることが大事です。

次に、海外経験が長く米国現地法人に勤務されていながら、じつは外資系企業におけるご経験はまったくお持ちでないということもポイントになります。英語で仕事をされることに問題はないと思いますが、日本企業の米国支社と、米国資本や欧州資本、あるいは最近多くなってきたアジア資本であっても、外資系企業における日本支社の経営手法は日系企業のそれと異なることが多いです。お勤めの会社がどの程度外資系企業の経営に近いかなど詳しくお話を伺ってみないとわかりませんが、そうしたマネジメント手法の違いは案外仕事の進め方に大きな影響力を持ちますので、注意が必要です。

また、生産と販売の両方の見識をお持ちとのことですが、外資系企業では日本での生産を考えているところが少ないため、販売の経験を活かすことになろうかと思います。この場合、在籍していた業界やビジネスのサイズも重要な要素になります。

また、49歳というご年齢であることから、公募型の求人ではなく、スカウト型の求人での活動が中心になることは言うまでもありません。 ちなみに、これまで筆者がご相談させていただいた方の中でも、海外勤務されていた方が、日本に帰国後外資系企業にて成功されているケースは少なくありませんが、多くの場合では仕事上で既知であった、もしくは個人的な人脈からの転職といえます。「アメリカで働いている際に、米系企業から声をかけられて転職し、日本支社に勤務することになった。」というような話は多数ありますが、サーチファームやヘッドハンター経由での純粋なスカウトでは、その様なケースはそれほど多くないというのが実情です。知人や仕事上の既知の方からの誘いがないとするなら、外資系企業の日本支社への転職は大変な準備と努力を伴うと覚悟されておくほうが良いでしょう。

これらの事情を考えると、49歳の貴方が、今すぐに外資系法人の日本支社で良いポジションを見つけられる、あるいはそれがベストな選択肢だと結論付けるのは少し待った方が良いかもしれません。

私としては、むしろ逆に日系企業をお勧めします。 貴方が海外で合理的な経営戦略に基づいて仕事を実施している、また、しっかりと企業財務、資本政策などもふまえた経営力とリーダーシップを兼ね備えておられるのであれば、プライベートエクイティーが投資する投資先企業の経営陣としてその力を発揮することや、これから海外展開を目指す日系中堅メーカーなどで力を生かすことを考えてみてはいかがでしょうか。 そもそも、日系企業が買収されて外資系企業となった会社も沢山ありますので、日系や外資系といった資本形態だけにとらわれないようにしてください。

ぜひ、日本の産業がどのようになっているか、あるいは外資系企業にとって日本市場はどのように見えるか、そして、今後はそれぞれどのようになっていくなかという視点を持って、キャリアプランをご検討ください。

いずれにしても、活動の期間としては半年から1年を見込み、あせらずじっくりと活動されることをお勧めします。そして常にキャリアコンサルタントからの情報収集をし、「これは」と思ったらすぐに行動に移せるよう、履歴書、職務経歴書、英文レジメ等、書類の準備はしておいて下さい。また、電話会議、テレビ会議、EメールやSkypeなどいろいろコミュニケーションツールも発達したとはいえ、対面でのインタビューはやはり不可欠ですから、そのための帰国もしなくてはなりません。いざというときは、すぐにご帰国できるよう準備しておきましょう。

今は以前と違い、現在は外資系企業の社長求人に1カ月もしない間に候補者が集まる時代です。最近もソフトバンクの孫社長が、ご自分の後継者発掘・育成を目的にソフトバンクアカデミアを開校すると発表したら、5000人からの申し込みがあったといいます。スピーディな行動と、いざという時はスパッと決める決断力も必要です。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)