転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第107回
2011.11.04

報酬(年収2000万円以上)を維持した転職を希望しているのですが…

日系大手メーカーにて事業部長を務めている43歳、男性です。これまでセールス、マーケティングを軸に、国内外でビジネスデベロップメントを成功に導いてきました。一般消費者向け、法人向け両方の製品を担当してきており、日本市場とアジア市場の両方に精通していると自負しております。転職経験はありません。企業派遣でMBAも取得し、経営全般の知識も有しております。現在の年収は1300万円程度です。海外(アジア)赴任時には、海外手当てや住宅補助などを合わせ、年収合計は2000万円を超えていたのですが、日本に帰国してからは(当然ですが)現地手当てなどが外れたため、年収が下がってしまいました。

このため、日本に帰国して以降生活に余裕が失われ、閉塞感を感じるようになってしまっています。家族も私のMBA同期が外資系企業で高給をもらっていることを知っているため、最近私に外資系企業に転職することを強く勧めるようになりました。

外資系企業に勤務をしているMBA同期の友人は、年収2000万円以上になっているものも多く、可能であれば、私も2000万円以上で転職できる先を紹介して欲しいと思っています。私に合う2000万円以上の求人案件はありますでしょうか?

Answer

同業界の外資系企業のポジションなど、年収2000万円以上のポジションに転職できる可能性はあります。しかし、同業界・同職種の経験があるからといって、必ずしも2000万円以上の条件で採用されるわけではありません。次の3つの条件が揃っている場合に限り、2000万円以上の高報酬で採用される可能性があるといえます。

  1. その外資系企業が、ダイレクトな競合企業であること。同業界について十分な知識があり、市場の動向について精緻に語れること。実際に顧客や販売チャンネルのパイプをもっていること。
  2. 2桁以上の部下の管理経験があり、PL責任をもった経験を持っていて、確実に成果を上げられることを実績で示すことができること。
  3. 何より、その外資系企業が事業部長職、シニアディレクター、GM(ジェネラル・マネジャー)などのマネジメントポジションで求人をしていること。

実際には、この3つの条件がそろうことは、それほど多くはありません。 まず、同じ業界の外資系企業といってもそう多くはないはずで、(業界にもよりますが)高報酬を出せるレベルの規模の会社というと、2社か3社ほどに限られてくるはずです。そこで40代前半のセールス部長の求人があるかというと、よほどタイミングが良くないと期待できないでしょう。蛇足ながら、いくらあなたが上記3つの条件を満たしていても、それがマーケティングポジションであった場合、採用される可能性はかなり低くなることもお伝えしておきます。過去においては、MBAを有していても日系企業での経験だけという方が外資系企業のマーケティング部長として採用された例はほとんどありません。それは、外資系企業が「日系企業でのマーケティング業務」よりももっと実践的なマーケティングの経験を求めており、外資系企業でのマーケティング経験者以外採用の対象外とすることが多いためです。従い今回のケースではマーケティングではなく、セールスとしての入社となる可能性が高くなります。

このような数少ない案件にアプローチする場合には、あらかじめ相応のレジメを作成し、弊社のようなサーチ会社に預けておいていただくことが大事です。そしてご希望にかなう案件が発生するまで待ち、案件が発生すれば機を逸せずに応募することが肝心です。ただ、そのタイミングは、翌週になるのか、翌月になるのか、1年後になるのかはわかりません。

以上のように、答えは簡単なのですが、2000万円以上の高報酬を維持しての転職があまり容易でないことがおわかりいただけるでしょう。

そもそも40代の方が年収を下げたくないという希望を抱くことは自然なことです。外資系企業のマネジャーやディレクタークラスの方の多くも、2000万円あるいは3000万円という年収を下げたくないという希望をもって転職活動されます。しかし、そのようなチャンスは決して多くないので、半年経過しても案件がないままか、あるいは逆にタイミングよく発生した求人の年収だけにつられて転職してしまい、その結果、1年も経たない間に再度離職せざるを得なくなるというケースが多々出てきてしまいます。

 

下がった年収を転職で取り戻したいというのは、企業経営に置き換えてみれば、「今年の売上が下がったが、コストは昨年と同じ。経常利益が大幅に減少したので、(これまでで培った)資産を売って現金収入を上げたい」と言っているようなものです。ここには5年後の社会変化や経済動向が考慮されておらず、「将来のための投資はしない。短期的にキャッシュフローを最大化したい」というのに等しいといえます。

経営者なら、将来のための投資が不可欠と思うはずなのですが……。

また、高報酬というリターンを得るのには、その分リスクがともなうことは当然お分かりだと思います。そして、報酬の高さはそのままリスクの大きさであるともいえます。今回でいえば、2000万円という高報酬の裏には相当のリスクがあるはずということです。「リスクは覚悟」とおっしゃるかもしれませんが、「単に外資系だから終身雇用が保障されていない」という程度に甘く見ていると、痛い目にあうかもしれません。実際に年収が高いものを探すとすれば、前述のように世の中にそもそも数が少なく、あっても外資系企業か再生中でファンドが入っているケースなどにほぼ限られてきます。当然、そういう企業は、もともと難しい状況であるうえに求められる成果や科せられる責任は大きく、また常にダウンサイジングや株主(ファンド)が変わって解雇されることになるリスクをはらんでいます。特に、リーマンショック以降は安定していません。

あらためて高報酬の裏にあるリスクの正体をしっかり分析し、それをご自分が乗り越えてゆけるのか、解決できるのかを考えておかれることをお奨めします。

 

それよりも、「業界、職種は異なるし年収も下げて入社することになるが、それを補うほどのやりがいのあるもの、本当に実績が出せるもの、経営陣になれるチャンスが現実的に見えていて、入社後しっかり報酬を上げられるもの」というモデルのほうが、世の中には沢山あると思います。

例えば1200万円に下げてでも十分にやりがいのあるポジションにつき、会社を成長させて、その結果、将来的に自分の報酬が2000万円を超えるようになっているというほうが好ましいシナリオではないでしょうか?実際、そういう選択をされた方は結果的に5年、10年とやりがいを持って続けておられるケースが多いように感じます。

今回、40歳を越えて初めて転職するにあたり、年収を指値のように、下限の希望を設定して転職活動を行うことには基本的に反対です。43歳から60歳まで、まだ20年近くもあります。将来60歳になった時にその転職(展職)が良い判断、選択であったと思えるようにしていただくには、年収を最優先課題にしないことです。年収以外の要素もぜひ慎重にご検討いただきたいと思います。

年収が下がるとご家族から不満が出ることはよくわかります。そしておそらく、ご自身のモチベーションが下がってしまうということもあるのだと思います。

しかし、モチベーションの低下は年収が下がったことそのものが原因であるより、むしろ自分の意思と関係なく、あるいは自分に起因しないところで「下げられた」ことによるのではないでしょうか。 自分の考え・意志で年収を下げた、あるいは自分で年収が下がる選択をした結果、モチベーションが下がったという話は聞いたことがありません。

生意気な言い方になってしまい恐縮ですが、本来、モチベーションは会社や人から与えられるものではなく、自分で起こす自発的なものであるはずです。モチベーションが湧く環境はご自身で作ることができるはずですし、そのために環境を変える選択もできるはずです。

さらに申しますと、不遇な状況下でも前向きになれる人が多数おられることはご存じでしょう。 すべては物事の捉え方次第です。

「イノベーションのジレンマ」の著者として日本でもよく知られる米ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授から、大震災後の復興に取り組む日本のビジネスリーダーに向けて1通の手紙が届きました。「日本に助言を」という求めに快く応じ、心臓発作、悪性腫瘍、脳卒中で倒れて言語中枢の機能を喪失されているという状況にもかかわらず、それでもなお、同じく不幸に見舞われた日本にと、以下のような言葉を贈ってくださいました。

「私の不幸の原因は自分自身のそうした自己中心的な考え方なのであって、自分自身を”復興”するプロセスを通して、幸福とは私利、私欲、私心を捨てることによって初めて手に入れられる心の安息なのだと気づいたのです。それを実行することはとても難しいことです。人は、自分は他人とは違う特別な存在なのだと考えるものです。人生は酌量すべき情状の連続であり、自分本位になって自分の欲求や要求にこだわることはいつも正当化されます。しかし、幸福とは人間同士の奉仕の中にあるという真実は揺るぎません。個々人の置かれた状況──快適なものであろうと困難に満ちていようと──の特異性に依存することではないのです。最も大切なことを「後回し」にしてはいけない」

これは、まさにモチベーションの話だと、私は理解しています。 「誰かのためになること」そのものが、基本的な人間の仕事に対するモチベーションや幸福の源泉であるのだと思います。

「年収のみならず誰かのためになる仕事・キャリアを選ぶ」と考えていけば、それが成果に結びつき、結果的に報酬や家族の利益に繋がってくるものと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)