転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第118回
2012.11.01

金融業界から脱出したいと考えていますが、チャンスはあるのでしょうか。

銀行に勤めており、法人金融、M&A関連の経験が豊富で海外勤務の経験もあります。 海外MBA卒でもあり、外資投資銀行やヘッドハンターからもよく声がかかりますが、外部から声をかけていただくのは、すべて金融関連ばかりです。

現在38歳ですが、金融業界から脱出したいと考えています。外資系事業会社の日本支社や、日系企業の海外支社などへ転職できるチャンスはあるのでしょうか?

Answer

リーマンショックの後、金融業界から自発的、あるいは仕方なく、転職する人が増えています。

貴殿の質問にお答えするにあたり、事業会社に移るには、採用側からみたニーズがどのようなものであるかご説明し、課題をお伝えしておく必要があります。

 

1) 年収

これがもっとも大きな課題です。40歳手前でも日系の事業会社は1000万円に至っていないことが多く、製造業では報酬が停滞しています。38歳で800万円に至っていないこともよくあります。現在、金融業界で海外勤務のご経験もお持ちであれば、年収は少なくても1500万円以上にはなっておられるでしょうから、場合によっては年収が半額近くに下がっても事業会社に転職できるのか、したいのかを自問自答する必要があります。

外資系企業でも1500万円相当であれば当然ながら他の38歳とは異なるスキルを持ち、マネジャー、ディレクタークラスのご経験と実績が必要です。採用側の事業会社にとっては、業界、職種ともに、未経験者であって優秀であってもMBAというだけでは採用されることはありません。

 

2) 職種、業界

外資系企業の場合、30歳前後であればポテンシャル採用や入社後のトレーニング等がありますが、38歳になると採用側も経験のない方にリスクをとって任せるということはしないでしょう。経験や実績のある方、間違いなくやってくれそうと判断できる方を採用したいと考えているのです。日系企業でも、財務や経営企画、事業管理が主体で、海外展開を任せたいという求人はありますが、戦略コンサルタント出身者や、事業会社で現地の事業開発に携わった経験者を優先しますので、審査過程で劣位となります。

可能性が考えられるのは応募者が多い会社ではなく、応募者が少ない会社、すなわち中堅企業やベンチャー企業で、特に資金調達、IPO、M&Aなどを目指す事業会社では、その会社の内部にそれらのスキル・経験を持つ人がいないので、面談に進み、採用される可能性があります。また最近はすっかり減ってしまいましたが、ファンドに入社して投資先企業のバリューアップ、PMO(Project Management Office)業務に携わるという選択もあり、これは比較的金融業界と同じ年収レンジなのでお勧めと言えます。財務コンサルティングファームなども金融業界の経験を活かせるので、転職しやすい業界です。ただこの業界も、45歳以降は、「パートナー(ファームの共同経営者であり、役員と同等のポジション)」になる力がなければ、その先が難しくなり、再度、転職活動をすることになるでしょう。

 

以上「年収」「職種、業界」から考察してゆくと、金融業界から、事業会社への転職(展職)は容易ではないことを理解いただけたかと思います。

そもそも、なぜ金融業界を脱出したいのか、今後の40歳から60歳までの20年間のキャリアをどのようにしたいのか、どのようなリスクをとって、何を得たいのか、まずご自分のキャリアについてしっかりと考える必要があるでしょう。

年齢は変えられないものの、キャリアの考え方は変えられます。

例えば、事業会社に転職したいが現在の年収は下げたくないとしたら、金融におられるのであれば、お分かりになると思いますが、転職市場も金融市場と同じで、年収を下げる等のリスクをとらないで、(投資を行わないで)リターンだけ得られることはありません。

もし、リスクを出来るだけ避けたいのであれば、一番小さなリスクは、「現職の継続」となりますので「転職しないこと」をお勧めします。

ご質問への回答としては、貴殿が思っておられるチャンスはかなり理想的なものと言えるでしょう。事業会社への転職のチャンスはありますが、数は多くはないこと、年収が下がることなどリスクが高くなることの覚悟が必要ということです。

過去に35~45歳で本気で事業会社に展職された方のケースをみますと、「友人知人からの誘いで転職」「実家の会社に入社」「外資系事業会社のFP&Aマネジャーとして再スタート」「ベンチャー企業の社長室/経営企画/財務マネジャー/海外事業展開で新たにスタート」などがありますが、皆さん年収を下げて動かれました。一方、戦略コンサル、財務コンサル、ファンドに転職された方の年収は、現状維持あるいはアップしています。

貴殿が本気で金融業界から転職(展職)を目指すならばまず、ご自分の60歳までのキャリアについて真剣に考え、しっかりとしたグランドデザインを描くことが重要です。事業会社でマネジャー/マネジメントをしていくのかスペシャリストを目指すのか、そして何にやりがいを感じ、何を得たいのか、さらに年収を下げてでもやりたいことなのか、幾つかの枠組みでキャリアを考えて見てみるとよいでしょう。

キャリアのグランドデザインについては、弊社キャリアコンサルタントにご相談頂くことをお勧めします。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)