転職コラム転職市場の明日をよめ

四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

1998年 10月~12月 
1998.10.01

インターネット利用者の有利性

キャリア形成の上で、インターネットはもう欠かせません。アクシアムでは年間延べ4千名余りの方々のキャリアの相談、開発のお手伝いを行っていますが、インターネットをうまく活用できる方と、そうでない方では、キャリアを展開する際に大きな差が出ていることを最近は強く実感します。言い替えれば、インターネットを利用しない人や、利用できない人がいる限り、ここ暫くは利用者が有利にキャリアを開発できるかも知れないと言うことです。

インターネット活用の利点は、様々な情報をスピーディーに収集でき、且つ学習ができることでしょう。古い情報で体系付けられたものから、体系付けられていなくとも新しいものまでが存在します。必要な時に必要なポイントで探り、判断する力も身に付けることができます。キャリアを考えている段階、探す段階、実際に応募する段階、会社と面談する段階、最終的にキャリアの選択を決断をする段階、何れの段階においても、インターネットをうまく活用することは可能です。

実際にインターネットをうまく活用できた最近の例を挙げます。45歳で化学系大学院修士号を持ち、エンジニアリングマネジメントの職能、経験、実績を備え、かつ海外勤務経験とコミュニケーション能力もある方が、リストラに遭遇し、離職されました。現実社会では、こんなに高いレベルの方で、確実に会社にも社会にも貢献している人までもがリストラされてしまいます。決して性格が悪いわけでも成績が悪いからでもありません。どちらかと言えば、ロイヤリティーが高いから、会社側は楽にリストラの対象にしたのだと思われます。

最初の一年間、まず同じ業種、産業でキャリアを探しましたが、まったく求人案件がありません。登録型人材銀行のコンサルタントからは、失業者が溢れる時代に、年俸を3割下げた所で見つかりませんよと冷たく言われながら、知人、友人、大学の恩師を頼っても周辺の人が親身になってもやっぱり見つかりません。産業全体が成熟期を迎えた場合、その産業の上流行程から下流行程まで関連業界も含め全てが不況に陥っており、水平移動でも垂直移動でも、近い産業ではたやすく過去のキャリアの資産を活用できないのです。

学歴があり優秀で大企業で実績があるだけでは、今後キャリアの保証にならない時代です。周りの人のアドバイスで、英文会計などの資格も取りましたが、実務経験がないので実際の市場では面談も入りません。そこでインターネットを使いキャリアの発想を変えることにしました。幸いにも英語力も高く、すぐに海外のものも含め各種サイトを深く探る事ができるようになりました。また自分の過去のキャリアの棚卸をするだけでなく、先端事情に接することで業界の常識の間違いなども学習でき、今までマインドセットされていたものがどんどん取れて行きました。元より前向きであった方ですが、知的な好奇心も更に刺激されるようになり明るくなりました。

特定の価値感を持つ誰かから物事を教わったのではなく、自らの意志で学ぶことにより、それに応じるようにインターネットを支える世界中の人々から気付きを与えてもらえた訳です。

キャリアのコンサルタントである私がしたアドバイスは一つだけです。『なぜ化学を専攻したのか?を自問して下さい』ということです。彼は『人間の成り立ちに興味があり人間がどんな物質でできているのだろう』という最初に化学を志した中学の時代のきっかけを思い出しました。物質の合成や、複雑な化学記号に興味があった訳ではなかったのです。大学時代も社会人になってからも、その事をすっかり忘れていた訳です。最後に彼は『人間の為になる化学って何だろう?これからの人生は人間と化学の間に立つキャリアを形成しよう』ということに気付きました。

もう皆さんはお分かりだと思いますが、キーワードは環境だったのです。人間の生活を取り巻く環境を、化学の見地から判断して本当に大丈夫かどうか点検してみたいという気持ちになりました。『頭』だけでキャリアを考えずに『心』でキャリアを捕え、また『常識』とか『マインドセット』と呼ばれる多数の人が言うことに運命を振り回されず、しっかりしたキャリアのコンセプトが出来たのです。環境がブームだからではありません。

そうなれば話は簡単で、インターネット上で環境監査についての世界的な流れを学習し、それを掴み、企業監査を化学の見地で行っている会社で評価されている団体を探しました。今までは大組織や官庁でしか得られなかった情報も、インターネット時代には自宅にいながら個人でも収集できます。しかもスピーディーに海外まで行くコストも時間も掛かりません。その道の権威の人とのメールのやり取りが、さらに専門的知識を深めてくれます。対象となる会社に積極的に直接メールで応募し、自分の意思と能力をアピールしたことも効を奏しました。とんとん拍子で話が進んだそうです。

自分がいるべき場所を探し当てるには1カ月もかかりません。日本法人をちょうど設立する予定となっていた環境監査を行う外資系で、日本法人立ち上げ時から、スーパーバイザーとして化学的監査を行うこととなりました。

他にも年齢に関係なく、様々なキャリアの展開がインターネットを通じて起こっています。同様な職を転々とするアナログ的、旧石器時代のような「転」職時代は、本当に終わったのだと思います。

反対にインターネットをうまく活用できていない方のケースがあります。海外の経営学大学院を卒業している大変優秀で実績のある45歳の方のケースです。在職中の多忙な管理職でインターネットを見る時間もないという理由で、技術的に使えても実際に活用できていないのでは意味がありません。以前から希望していたキャリアプランを実現化できるポジションが発生したので、連絡を取り、応募したいとの希望を確認しすぐに会社の概要やポジション情報を正確に伝えました。しかし、メールを利用しない方なのでコピーを大量に取り渡すしか方法はありません。折角面談というチャンスを迎えても自宅からはインターネットが見られない為、急に実施となった来日中のアメリカ本社役員との面談でも充分なアピールができませんでした。結局、同じ条件下でもインターネットを利用している別の人が採用となりました。メールですぐに連絡し、応募先の会社のサイトを研究し、業界動向も探り準備に入り、面談では変化する業界知識の中で取るべき今後の適正な見通しを述べ、好印象を残せたことで採用となりました。

両者の間で、実績や人格、能力は互角であったと思われます。しかし、キャリアのポジション獲得のレースはビジネスと同じで、インターネットを使わない人がスピードと情報力で負けてしまった例と言えましょう。

今までいた業界から異業種に展開しながらも、過去のキャリア資産を活用するには、心とインターネットを使わなければチャンスを生むことができないのではと思います。キャリアでチャンスを作れない人は企業経営においてもチャンスが作れず、これからのグローバルな企業経営は難しいでしょう。

インターネットをうまく活用して、この失業時代を乗り切りたいと思います。

関連情報

コンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)