四半期ごとにお届けする転職市場動向。アクシアム代表・キャリアコンサルタントの渡邊光章が、日々感じる潮流を独自の視点で分析しています。

2017年4月~6月 
Published:2017-04-06

活況の影の格差

総務省の「労働力調査(PDF)」によれば、2016年の転職者数は306万人にのぼり、リーマンショック直前(2007年)の346万人に近づきそうな高い水準になっています。2017年の転職市場は昨年に続き活況で、求人数は増加傾向にあり、優秀な人材がどんどん市場に出ている状況もみられます。これらの流れが転職者数の増加に拍車をかけているようです。

しかし、その内実を見てみると、大きく明暗が分かれているように思います。マーケットバリューのある人材は、活発な市場の恩恵を受けて自発的な転職が容易であり、求人企業やヘッドハンターからスカウトの声がかかることも多くなっています。一方、残念ながらマーケットバリューのない人材はなかなか転職先を見つけることができず、当然スカウトの声がかかることも稀で、これまで以上に苦戦を強いられています。

これまで言われてきた転職可能年齢の上限、いわゆる『35歳の壁』が崩れたと、一部のメディアで主張されているようですが、私はその説にあまり賛同できません。たしかに労働力調査の結果を見ると45~54歳の転職者数は50万人を超えており、調査結果をさかのぼってみることができる2002年以降で最多となっています。このような点をとらえ、前述のメディアは転職可能な年齢の上限が上がったと主張しているようですが、求人の大多数を占めるスタッフあるいはマネージャークラスの求人(一般募集/公募される求人)の対象が、ここ数年で35歳以降にも大きく広がったわけではないからです。私の実感では、これまで少なかったマネジメントやマネジメントに準じるクラスの求人は確かに増加し、同時にその対象となる経営管理系人材がマーケットに出てくるようになったのは事実。ただ、それらの求人はスカウトを主体とするタイプのもので、恩恵を受けるのはあくまで一部の人材です。ですから声高に『35歳の壁』が崩れた、と言うことは誤解を招き、不幸な転職が増えるのではと懸念しているのです。

もう少し細かくお話すると、私たちのようなコンサルタントが求人の現場で感じることと、労働力調査などの統計上の数字のかい離で特に大きいのは、40代と50代の就職事情です。経営者人材やその直下の執行役員あるいは本部長クラスの求人は、50代ではなく、圧倒的に40代を対象とするほうが多くなっています。とりわけ新興産業、事業継承、外資系企業の案件では40代(それも40代前半)の人材を経営陣として新しく迎え入れたいという意向が働いています。もちろん、事業規模が1000億円を超えるような大企業における再生案件や事業継承の場合は、同規模の企業経営経験のある50代が求められます。しかしこのようなケースは少なく、また外部から積極的に経営人材を採用することも稀です。ですから現場感覚としては、『35歳の壁』が一部崩れて40代のマネジメント(候補)人材には新たなチャンスが増えたものの、50代の転職にはまだまだ厳しい現実がある、というのが正確なところなのです。

先日、パナソニックが、元パナソニック(松下電器出身)である日本マイクロソフトの樋口会長を専務として迎え入れたことが大きく報道されました。これはじつに素晴らしいことで、日本の大企業であっても戦略的な人事改革が行えることを証明してくれています。パナソニックのほか、カルビー、資生堂、サントリー、LIXILなどで同様の動きがみられますが、まだまだ大胆かつ戦略的な人事改革に腰をあげられる大企業は少ないのが実情。もう少し身軽に思える事業規模が50億~1000億円程度の中堅企業においても、同じように経営改革、・事戦戦略の変更がままならない場合も少なくありません。日系企業、とりわけ大企業においては50代の人材が対象となるマネジメントクラスの求人は、今後もなかなか増えてこない、つまり厳しい状況は続くのでしょう。

あのリーマンショックが起きた後、企業の破綻、リストラ、経営再生、ターンアラウンドが大量に起こり、多数の人が不本意に職を失いました。そしてそのことは多くの人が記憶しています。しかしながら、リーマンショック前の2006~2008年期に見られた、ミニバブルのような状況を覚えている人は少ないのではないでしょうか。その時期に発生していた求人は、じつに玉石混合でした(リーマンショック後、破綻してしまった企業も当時は積極採用をしていたのです!)。

現在の求人市場の様相は、当時と極めて似ているように思います。多数の求人があるから、転職に成功するわけではありません。多数の求人の中から誰もが評価するキャリアを選ぶのでなく、ご自身にとってたった一つの、自分だけのキャリアを見つけることが重要です。そうすれは、景気の動向にかかわらず、どんな時期でも幸運なキャリアの選択ができるのだと思います。

関連情報

渡邊 光章
株式会社アクシアム
 代表取締役社長・キャリアコンサルタント
渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)

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