転職コラム注目企業インタビュー

株式会社マネーフォワード2018.06.07

「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションにもとづき、すべての人のお金の課題を解決するインターネットサービスを開発・提供している、株式会社マネーフォワード。個人向けには誰でも簡単に無料で続けられる自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」や自動貯金アプリ「しらたま」、法人・個人事業主向けにはバックオフィス業務の自動化や大幅な効率化、資金繰り不安解消、データに基づく経営判断サポートなどを提供するビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などを展開しています。 2012年の創業からわずか5年の2017年9月には東証マザーズへ上場を果たし、順調に成長を続ける同社。なぜ「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる」ことを目指すべく事業を興したのか? 同社が見つめる未来とは? また、そのために同社が求める人材とは? じつは同社CEOの辻 庸介氏は、WhartonへのMBAご留学時代に、アクシアム代表の渡邊がキャリアデザインについてのご相談をお受けしたことがある人物。今回は当時を振り返りながら、特別に辻様ご自身のキャリアについても合わせてお話を伺いました。 (インタビュアー アクシアム 渡邊光章) [掲載日:2018/6/7]

株式会社マネーフォワード

『優秀な経営者のいるベンチャー』で働く意味、その価値

渡邊

大変ご無沙汰しております。私が辻様に初めてお会いしたのは2010年。たしかご留学中のWhartonのキャンパスでしたが、あれから8年近くの月日があっという間に経ってしまいましたね。ご卒業後にマネックス証券に戻られ、その翌年の2012年にはマネーフォワードを創業、たった5年でマザーズに公開を果たしたベンチャー企業の経営者となられました。

辻様はMBA留学中に「事業を立ち上げたい」と答えておられたことを強く覚えています。私の経験上、そのように答える人はごくわずかで、かつ本当に起業をして自ら事業を創り出す人はさらに少なくなります。個人的にはもっと多くのMBAが日本のイノベーションを生み出すため、そして新しい産業や雇用を生み出すために起業してほしいと思っているのですが、辻様は有言実行された数少ないMBA。ですから本日はマネーフォワードについてはもちろん、辻様ご自身のこと、創業に至るまでの経緯と創業への思いなど、じっくりお話を伺いたいと思います。

辻氏

ご無沙汰しております。本当にあっという間の8年ですね。おかげさまでMBA留学後にもいい経験を重ねることができ、起業をしてマザーズ上場にこぎつけることができました。もっと皆さんにマネーフォワードについて知っていただきたいですし、私自身のキャリアのお話が何らかお役に立つのであれば、何でもざっくばらんにお話ししたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

渡邊

ありがとうございます。よろしくお願い致します。ではまず、辻様ご自身のキャリアについて伺います。起業、あるいはベンチャーへの就職・転職を考えている人はたくさんおられますが、日本では実際にはなかなか実行できる人が少ない現状です。

辻様のように志を持ってそれらを実現するためには、思いの強さはもちろん起業後の企業価値の拡大までを念頭に、それまでにやっておくべきことをしっかり見据えておくことが重要でしょう。辻様はしっかりとそのあたりを押さえておられたのだと思いますが、まずは起業前にどのようなご経験を積まれたのか、そして起業までの経緯についてお聞かせいただけますか?

辻氏

私は大学卒業後、新卒でソニーに入社し、本社の経理部でAIBO(アイボ)などの部門経理を担当していました。もともとソニーでビジネスの道に進みたいと入社したものの、希望とは異なる経理部に配属されたのです。社内である時「マネックス証券CEO室」への公募があり、これだ!と思って応募したのです。そして28歳のときにマネックスへそのまま転籍(転職)しました。そこでは松本さん(※当時、マネックスグループ株式会社代表執行役社長CEO、現取締役会長兼代表執行役社長CEO)の直下で経営など多くのことを学ぶことができました。またその間に、企業派遣でMBA留学を経験することができたんです。

じつは留学中に、すでに今のマネーフォワードにつながるサービスのアイデアは持っていました。そのまま起業する道もありましたが、MBA卒業後はマネックスに戻ることを選択。再び松本さんの下で、様々な事業を動かす仕事を約1年半行いました。ただ当時はリーマンショック後で、なかなか新規事業への投資が難しい状況。マネックスで考えていたアイデアを事業化することは叶いませんでした。それならばと、自ら決心を固め、36歳の時に事業を興しました。私が今こうして起業できた一番の理由は、やはり松本さんの下で約9年間働けたことだと思っています。

渡邊

たしかご留学当時も「会社に戻る価値」について話しておられましたよ。「MBA留学へ送り出してもらったから、その恩返しで戻る」のではなく、「帰る意味、帰る価値があるから戻る」と。つまり自分が事業を興した際に起こるであろうことを学んでから、マネックスに戻りますとおっしゃっていました。その言葉を聞いた時、「この人は必ず事業を成し遂げるな」と感じたものです。

辻氏

そんなことを話していましたか!記憶にありませんが、割とまともなことを言っていますね(笑)。人間は、見たものは想像できます。当時のマネックスはまだ40人くらいの小さな組織だったので、いわば第二次創業というか、新たな事業をイメージできました。社長がいったいどのようなことをしているのか、組織がどう有機的に動いていくのか、事業を立ち上げるにはどんな大変なことがあるのか…など。ソニー時代に大きな組織の経理、経営企画業務は経験していましたので、マネックスでの経験はとても大きかったですね。

私は「0-1」も好きなのですが、「1-10」も好きなんです。だから起業したい人は、いきなり起業するのもいいのですが、優秀な経営者のいるベンチャーで5~10年働いてみて、その後に事業を興すほうが、後々の成功の確率が上がるのではと思います。

渡邊

自分が手掛けようと考えるインダストリに近い環境であれば、なおのこと業界の変化もわかりますし、成功につながるのかもしれませんね。

辻氏

やはり業界の知識や経験は、思った以上に重要だと思います。未経験の業界でビジネスを始めると、常識にとらわれないで自由な発想ができるというメリットはあるでしょうが、やはり始めた後の成長のカーブに違いが出るでしょうし、色々と難しい面も出てくるのではと。私自身、マネックスで金融×ITの領域に通じられたことが、マネーフォワード創業にも大いに役立ち、まだなんとか生き残れている気がします。もしマネックスに転籍(転職)せず、28歳のときにすぐに起業していたら現在の状況はなかったでしょうね。

“ミッション・ビジョン・バリュー”に合致すれば、新規事業に制限はない

渡邊

御社の「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションにもとづく個人や法人向けの様々なサービスは、ユーザーの方々から大変好評を得ていると耳にします。銀行口座、クレジットカード、そして電子マネーを連携して、資産管理やお金の流れがすべて一つの画面で確認できるとは、まさに帳簿いらずですね。どこでも簡単にお金を自分で管理できる時代が来たのだと感じます。

つぎに、御社のサービス、ユーザー数などのビジネスについてお聞かせください。それから、辻様が今後マネーフォワードをどのような会社にされたいとお考えなのかも教えていただけますか?

辻氏

昨年の9月にマザーズへ上場した時のマネーフォワードの時価総額は、約800億円でした。フィンテックとSaaSと呼ばれるビジネス領域で最初に上場した会社になり、ありがたいことに各界から注目をいただいています。弊社の大きな特長は、個人向けと法人向けの両方のサービスを手掛けていること。個人向けには自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」と自動貯金アプリ「しらたま」があります。「マネーフォワード」は、約650万人のユーザーがいます。法人・個人事業主向けにはビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」があります。

このように個人・法人の両方でお金の課題を解決するサービスをご提供し、順調に成長できているわけですが、現在はさらに新規事業に力を入れています。例えば、家計の悩みや不安をプロと一緒に解決していくお金の相談窓口「mirai talk」や、取引データを入力するだけで売上金の回収までが行われる企業間後払い決済サービス「MF KESSAI」など。

また、フィンテックとSaaS領域に特化した「マネーフォワードファンド」も今年1月から始めました。このファンドを通じて国内外を問わずシナジーがある企業と、出資を含めた提携をさらに加速し、”すべての人のお金の課題解決”を目指したいと考えています。

渡邊

すごい数の新規事業ですね。どのような事業を始められるにせよ、基本のサービスでしっかりとユーザーとの関係を構築され、ユーザーを獲得されているのは各新規事業にとってもプラスではないですか?

辻氏

おっしゃるとおりですね。個人と法人の両方で、最大級のユーザーベースがあるというのは、私たちの強みだと思います。その上で良いサービスをどんどん提供したい。「5年後、10年後のマネーフォワードを創る」ために、今後取り組むべき新規事業について考える新たなプロジェクトを立ち上げたのですが、その会議の中で、じつは今後チャレンジしたい領域が20も出てきてしまっている状況です。

渡邊

新規事業を始めるときには、既存事業とのシナジーはお考えになるのですか?

辻氏

そこにはあまり捉えられておらず、「どんなカスタマーペインがあるか?」を重視しています。もちろん私たちは金融×ITが得意なのでその領域が中心になりますが、別に領域自体は超えてもいいと思っています。それよりも私たちには、ミッション・ビジョン・バリューが重要。大切にしているそれらに合致するものであれば、何でもいいと思っています。

マネーフォワードの「ミッション・ビジョン・バリュー」

30歳の子会社・社長も。若手に『本当に経営ができる環境』を提供

渡邊

ますます成長の勢いが加速している御社ですが、今後のマネーフォワードの成長のためには、どのような仲間がさらに必要となってくるとお考えですか?

辻氏

まずはミッション・ビジョン・バリューに共感いただける方が入ってくだされば、力を発揮いただけると思います。前述のように現在、多くの新規事業が動き出していることもあり、すべてのポジションで人材を求めているような状況です。そのような中でも、特に経営人材、次世代CxOになる人材に来ていただきたいです。

私自身のことを振り返ると、大きな成長カーブを描けたのは、やはりマネックス時代に色々と仕事を任せていただく機会があったから。人間は経験することで成長できるというのが私の持論。任され、責任を与えられてこそ伸びると思うのです。ですが、それは大企業ではなかなかできない。弊社ではそういうチャンスを提供し、存分に成長して、一緒に事業を創ってほしいと思っています。

渡邊

なるほど。具体的にはどのようなキャリアチャンス、キャリアパスがありますか?

辻氏

前述した、企業間後払い決済サービス「MF KESSAI」を提供している会社の社長は、就任当時は30歳。取締役は弊社の新卒採用第一号の25歳です。子会社になりますが、オフィスの場所も別で、彼らに完全に任せています。このように経営人材が『本当に経営ができる環境』を作って、どんどん経営経験を積んでもらっています。

渡邊

それは素晴らしいですね!会社への貢献はもちろんですが、同時に自分の能力を伸ばすために頑張りたいというタイプの人も歓迎ということでしょうか?

辻氏

はい、もちろん。いま社長室のメンバーを増やし、私の直下で一緒に何らかの事業を作ってもらい、そこから手かげたいビジネスのほうへ進んでもらうという流れを進めているところです。MBAホルダーや、戦略コンサル出身者をはじめ、ビジネスを手掛けたいと志す若手人材が活躍してくれています。

ミッション・ビジョン・カルチャーを創る「ひとりひとりの存在」こそ大事

渡邊

御社の役員や社外取締役の皆さんは、じつに素晴らしいご経歴をお持ちで、特にベンチャー企業の経営ではとても有名な方ばかりです。辻様は創業前から、このようなビジネスリーダーの皆さんとお知り合いだったのですか?

辻氏

ゼロからのベンチャーにはなかなか人は来てくれません。社内の取締役は創業メンバーや元々の知人。社外取締役の方々は、色々なイベントやカンファレンスでお声掛けし、事業をご理解いただいて協力いただきました。あとはマネックス時代の元上司の紹介などでつながることができた方もいらっしゃいます。

渡邊

創業されるまでにそのような方々と知り合い、つながる糸口を持たれていたというのは、すごいご縁ですね。

辻氏

錚々たる皆さんで、本当に感謝しています。もちろん厳しいご指摘を受けることも多いですが、基本的に皆さんサポーティブな方ばかりで貴重な助言をいただいています。そのおかげでリスクを回避し、数年をすっとばして成長を続けていけるような、そんな実感を持っています。

渡邊

辻様は創業前にソニー、マネックスと2社に勤めておられました。その時代のご経験や、当時の経営者の方から学ばれたことはありますか?また今後、辻様の会社に入社してくる若者たちが、マネーフォワードや辻様から何を学び取ってほしいと願っておられますか?

辻氏

ソニーはとても良い会社で、会社とそこで働く人たちが大好きでした。コーポレートカルチャーが強く、社内は自由闊達な雰囲気に溢れ、社員が生き生きと働いていて。そしてプロダクトがあれだけ世界中の人に愛されていましたから。同じように2社目のマネックスにも強いミッション・ビジョンがあり、それに向かって皆で明るく楽しく邁進していく会社でした。それぞれの経験を通じて、大企業の良いところ・悪いところ、ベンチャーの良いところ・悪いところ、それぞれを見ることができたのは、貴重だったと思っています。

会社にとって一番重要なのは、やはりミッションやビジョン、コーポレートカルチャーだと私は思います。例えるならパソコンにとってのOSのような。ビジネスはあくまでアプリケーションであり、OSそのものがダメであれば話にならない。その大事さを学ぶことができました。そして、そんなミッションやビジョン、コーポレートカルチャーを作るのは「人」。ひとりひとりの存在こそが大事であり、会社の成長を支えるのだと考えています。

渡邊

本日はお忙しい中、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました。お話しの端々に若い人にチャンスを与えたい、伸びてほしいという辻さんのお気持ちを強く感じました。今後もマネーフォワード、そして辻様ご自身の益々のご活躍を願っています。

※当記事でご紹介している内容は、ご登場頂きました方の所属・役職を含め、掲載当時のものです。

Profile

辻 庸介(つじ ようすけ) 氏

代表取締役社長 CEO

京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー株式会社、マネックス証券株式会社を経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立。新経済連盟の幹事、経済産業省FinTech検討会合の委員も務める。

【受賞歴】
2014年1月 「日本起業家賞2014(The Entrepreneur Awards Japan = TEAJ)」で米国大使館賞受賞。
2014年2月 「ジャパンベンチャーアワード2014」にて、JVA審査委員長賞受賞。
2014年3月 「金融イノベーションビジネスカンファレンスFIBC2014」にて大賞受賞。
2016年11月 Forbes Japan「日本のベスト起業家ランキング」にて7位を受賞。
2016年12月 日経ビジネス「2017年日本に最も影響を与える100人」として選出。
2017年11月 EY 「Entrepreneur Of The Year Japan」チャレンジング・スピリット部門大賞受賞。
2018年1月 「第43回経済界大賞」ベンチャー経営者賞受賞。
2018年2月 「第4回日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞受賞。

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)

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