転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第4回
2006.10.17

社長がIPOを断念。ベンチャーを辞めて転職すべきか?

とあるベンチャー企業で、経営企画室長として働いている35歳です。
今年、創業社長がIPOを目指さないと方針変更しました。自分としてはIPOをぜひ経験したいと思っており、またいつかは経営者になりたいと考えています。

今の会社で役員を目指し、実現させることも可能ですが、転職して新しいことに挑戦すべきでしょうか?年収には、それほどこだわっていません。

Answer

チャレンジを大いに応援させて頂きたいところですが、「新しいことに挑戦すべき」とまで断定的には申し上げられない印象です。まずは現在の状況を客観的に整理してみることにしましょう。

最初に、曖昧なところが二つあります。
経営者を目指しておられるのは非常に良いことだと思うのですが、取締役以上を目指しておられるものの、目標がCEOなのかCOOなのか、あるいはCFOなのかが、ご質問からだけでは読み取れません。「役員を目指して」とおしゃっているあたりが、まさに曖昧です。かつ、「またいつかは経営者」とおしゃっているところも、時間軸の観点で考えても漠然としているように思います。

つぎに、はっきりしていることは二つあります。
35歳で経営企画室長まで任される実力と運をお持ちだということ。そして、社長がIPOを断念したがご自身はそれが妥当な判断とは思えず、残念に感じておられること。つまり、ご自身が描かれていた目論見と違ってきてしまった、ということだと思います。

以上のような状況があるのですが、これらの判断材料だけで、「辞めたほうがいい」「他にチャンスを求めましょう」という提案を差し上げることはできません。(一部、転職してくれれば儲かるヘッドハンター的キャリアコンサルタントも存在しますので、十分ご注意ください。)ご相談者が転職市場にお出になれば、ほぼ間違いなく多数のオファーを手にできると思います。しかし、どのようなオファーがご自身にとって最適なのか、この情報だけで判断するのはベストでないからです。

ご指摘した曖昧な二点について、ご自身に問うてみてください。と同時に、今まで経営企画室長として何を成し遂げられたのか。経営企画室長として何故IP0を延期あるいは断念せざるを得なかったのか。しっかりとした説明ができるように整理しておかれることをお勧めします。説明ができればマーケットで非常に高い評価が得られますし、納得できない理由しかない場合は評価が著しく下がります。

また、視点を変えてキャリアコンサルタントとして申し上げたいのは、現職で本当に取締役として活躍できる可能性があるのか、ないのか、という点です。現在の社長が続けていかれるものと仮定して、例え社長になれなくとも、企業価値増大に寄与する取締役になる道を一度きちんと考えておかれることが最優先だと思います。これから大事な35歳~40歳の時期にさしかかり、今まで以上に転職が簡単ではない年齢層になってくることもあります。

社内で取締役の可能性がない、ということであれば、外に可能性を見出すという簡単な原則です。但し、転職市場に出られるにあたって、知っていただきたいことが三点ほどあります。

ひとつは、IPOを経験したい方を求める企業は存在しておらず、IPOを実現化できる方が欲しいという企業は存在すること。もちろん「一緒にIPOを目指しましょう」という求人はありますが。(蛇足ですが、IPO経験を持てるのは当人の努力のみならず、その会社の株主、経営者、社員の努力が実り、顧客がその財・サービスを認めた時です。)

二つめは、「取締役になる」とはどういうことか考えてみてください、ということ。誰が何を評価して、取締役としてアサインするのでしょうか?会社の経営のループに入ってくれという要請は誰が決めるのでしょうか? 会社が人を探しているのでもなく、人事部長でもなく、それは株主です。株主から信任された役員が企業経営にあたりますので、従業員と同じ雇用ではなくなることも気づいていただきたい点です。

三つめは、そもそもIPOはキャリアビジョンの目的にはなり得ないということ。IPO以外にも資金調達方法はありますし、経営の資本政策の選択肢は言うまでもなく様々あります。もちろんIPOを経験する価値はありますが、すでに新興市場と呼ばれる証券市場で大小2000社程度の上場企業が存在する昨今、IPO経験者も珍しくなくなっています。

採用側の需要は、CEO・CFO・COOなどの経営者にあります。IPO経験者を求むということでもありませんし、単に経営企画ができる人ということでもありません。

一日も早く、セールス・ファイナンス・マネジメント等の分野で「どのように取り組み、企業価値・収益・ROIが、どの程度具体的に拡大したのか」ご自分の言葉でお話いただける経営候補者になっていただきたいというのが回答です。経営者となるためには、IPO経営よりは、事業部長としてPL責任をもって成果を出すとか、部門のヘッドとして結果責任を持つ機会を得て挑戦される、といったことが大事だと思います。

まずは、その機会を現職で持てるように社長に交渉されることをお勧めします。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)