転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第21回
2007.07.12

銀行で企業融資13年。今後は事業会社で経営を目指したい

日系のある金融機関にて、企業融資業務を13年間担当してきました。これから先の自分のキャリアを考えたとき、金融業界に留まるのではなく、事業会社で経営に携わることを目指したいと思うようになりました。

今後、実現に向けて具体的に、どのようなキャリアプランを描けばよいでしょうか? ぜひアドバイスをお願いします。

Answer

銀行で企業融資業務を13年間担当されたとのことですが、必ず法人営業のご経験もお持ちだと思います。その内容が、支店での中小企業向け融資の仕事なのか、本店での大手企業向け融資の仕事なのか、あるいは資本市場関連の業務なのか、さらには本部の経営企画や管理部門までご経験があるのかどうかで、キャリアプランが変わります。

1)法人営業のみご経験がある

財務会計に強いというよりは、多数の企業の財務諸表を見てきた経験が豊かで、中小零細企業の経営者と経営について議論し、経営者の能力や財務諸表を見抜く力をきっとお持ちなのでしょう。

ですから、その営業力を活かしてくれる環境があれば、事業会社の営業マネージャーなどに金融機関からキャリアチェンジすることができます。一方、なんらか関連の資格を取得し、金融系のコンサルタントとしてその資格を活かした転職もできます。しかしこの場合は、実務経験を持っていないことになりますので、世間で言われているほど状況は甘くはありません。ゼロからの出発に近くなります。

また、本社で大手企業の財務アドバイスを行っておられたなら、上場企業の経営企画や財務部に転職する道も考えられます。

2)本部で、資本市場に関わる仕事をしていた経験がある

法人営業経験が少ない代わりに専門性に長けたスキル・経験をお持ちであれば、金融の専門知識をいかした転職ができるといえます。

もし専門知識もなく、単にトレーディング・センスで仕事をしていたという場合には、かなり転職は不利になり厳しいといえます。年収をかなり下げてでも、ベンチャー企業で残りの人生のために、キャリアを構築するのがベターの選択になるでしょう。

ただ以前と異なり、ベンチャー企業でも一定のスキルがないと現在は採用してくれません。それこそベンチャーというよりも、個人商店レベルのところからの再スタートも視野に入れる必要があります。

銀行の社内異動で、リスクマネジメントや管理部門の経験を3年ほど獲得してから、労働市場に出られる方がよいといえます。

3)本部(海外拠点を含む)の経営企画・財務・会計・人事など3年程度の経験がある

上記いずれかの領域のご経験をお持ちなら、比較的容易に事業会社に転職できます。つまり、職種を軸にして転職ができますので、それほど難易度が高くなくなるのです。

ただし、注意すべき点は以下のとおり。 例えば人事を軸にする場合、「入行直後に新卒採用を手がけていました」というだけでは、きちんとした業務経験とはいえません。本来の人事の仕事からすれば、大学を卒業したての人だからできる、ある種特殊な仕事であって、通常の人事業務とは勝手が違うことになります。

このように、どの分野にしろ、合計3年ぐらいの経験が必要になってきます。

4)本部部門でM&Aや事業開発などに関わっていた経験がある

これらの経験をお持ちなら、即戦力として最も多数のキャリアの可能性があります。事業会社の経営企画や事業開発と呼ばれる部署で活躍することができます。

M&A、合併交渉、IPO(株式公開)準備業務、持ち株会社化、ターンアラウンド、スピンアウト、証券化、社長室直轄事業開発、資産運用、IR対策、経営管理業務、経営戦略、資本政策、財務企画など。事業会社でのキャリア・チェンジはもちろん、コンサルタントになる道もあるでしょう。

まとめると、自分の強みが何かをしっかり把握なさって、それを最も活かせる事業会社のポジションへ転職されることをお勧めします。法人営業が強みなら、事業会社の営業部マネージャー → COO → CEOというプランも描けますし、財務がコア・コンピテンスであればCFO → CEOというプランも描けます。

銀行から事業会社への転職の場合、たいていは年収ダウンが想定されます。しかしながら最近では、個々の銀行によって報酬にも格差がみられますので、年収を下げることなく転職できる人もでてきました。都市銀行に勤務する(4)のタイプの方の例を、いくつかご紹介しましょう。

  • 年収1100万円だったが、事業会社の経営企画に転職し、海外資金調達の係長ポジションで同様の年収を手にした。
  • ベンチャー企業へ転身し、事業会社は未経験ながらも「CFOをやってくれ」といわれ、銀行時代と同額の年収900万円を手にした。さらにはストックオプション分をリスクプレミアとすることができた。
  • 銀行から外資系コンサルティングファームに移り、年収が1300万円になってアップした。

当然ケースバイケースですが、銀行でキャリアを築いておられる方が転職を考える場合に、ご自分の未来をイメージする一助となれば幸いです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)