転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第67回
2009.07.09

創業に参加しないかと誘われたが、どうしたらいいか?

最近、大学時代からの友人であるエンジニアがモバイル関連のベンチャー企業を立ち上げました。自己資金1000万円で会社を立ち上げ、売上の見込みもできたそうで、「ついては、創業メンバーとして一緒にやってみないか?」と誘われました。

店頭公開を目指し、世界にも出ていくような大きなプランを持っているとのことですが、一方、立ち上げたばかりであり、軌道に乗るまでは年収は多くは出せないとのこと。「リスクもあるから、家族とも十分に話し合って決めてほしい。ただ、来てくれないなら急ぎほかの人を探す必要があるので、1か月程度で答えを出してくれ。」と言われています。

ちなみに、私は外資の消費財メーカーでコントローラーをしています。今の会社に来る前は日系大手メーカーに勤めていました。話を聞いてみて、本当に大きくなる可能性もあるし、一緒にやってみたいという気持ちもある反面、大学受験を控えた長男と小学生の長女の2名の子供をもつ親として、あまり無謀なこともできないので、しっかり考えて回答したいと思っています。どうすべきか、教えてください。

Answer

前回に引き続き、よくある「お誘い」についての相談ですね。

最初に念を押しますが、「何を考え、検討して答えを出すべきか」はお答えできますが、「どうすべきか」はお答えできません。「YES」か「NO」か、あるいはそれ以外の第三の回答があるかも知れませんが、それはご本人が決定していただくことです。

前回のご相談もそうでしたが、まず「誘ってくれている友人との対話が不足している」という印象を持ちます。友人だからという甘えが存在しているのかもしれませんし、友人だから聞きづらいということもあるのかもしれません。

ただ、このような場合は「赤の他人として、その友人の創業プランや事業計画を吟味する」くらいのことが必要です。特に、創業を手伝うということは、就職ではなく役員として参加することを意味するでしょうから、よりシビアに検討する必要があるでしょう。 「人生を賭けることができるのか」、「人生の何年かを投資するだけなのか」、「あるいは株主として資金も投下するつもりなのか」などはっきり答えられますか?ご心配の通り、家族の将来まで賭けるということにもなりえますので、その価値があるのかしっかりと掘り下げる必要があります。

ますは、ベンチャー企業としての成長の可能性を見極めましょう。資金調達や売上見込み、市場や競合、組織体制、社会的価値やもちろん製品やサービスについて、その競争力あるいはリスクが何かなど、検討すべき項目は山ほどあるはずです。銀行家のように、あるいは投資家のように、全体を俯瞰し客観的に判断してみてください。

十分な成長の可能性があると判断できたとして、次は金銭的な問題について考えてみましょう。技術力についての判断はおそらく難しいと思いますのでその友人のことを信じるとして、するべきは「財務、会計のプロとして(友人が判断できないことを)しっかり考える」ということに尽きます。友人もその点を期待して誘っているのだともいます。

例えば報酬面について、友人がおっしゃる「それほど出せない」とは、実際にはどれくらいと想定されているのでしょうか。きっと、まだ議論がおわっていませんね。また、CFOとして参画するのであれば、賃金ではなく役員報酬という形になるでしょうから、ご自身の報酬も自分で考えるぐらいのおつもりがいります。自分の報酬を高めると当然キャッシュフローが厳しくなりますから、後に自分で自分の首を絞めることになりかねません。社長(ご友人)としっかり議論しておく必要があります。

ちなみに、ベンチャー創業時の役員報酬についてですが、相場はあってないようなものながら、よほど潤沢な資本金がない限り500-600万円程度の報酬でスタートするケースが多いです。大企業出身者ばかりが集まって創業するケースでも1000万円程度でしょう。 ご相談者は外資系企業のコントローラーということなので、おそらく1800万円以上の年収を得ておられると勝手に推察します。いずれにしても現職よりもかなり低くなるものと思いますし、キャッシュフローに余裕ができるまでは報酬を上げるのは難しいでしょう。 まさに事業計画とご自身のファイナンシャルプランとが一蓮托生となります。報酬を上げられるのがいつになるのか、公開後なのか前なのか、しっかりと検討しましょう。

例えば現年収が1800万円として、それが5年間継続した場合の合計金額は9000万円です。一方、ベンチャーで5年間600万円の年収のままで踏ん張ったとしてその合計金額は3000万円となり、そこに6000万円の差額が発生します。この6000万円を失っても(投資しても)、それに見合うリターンがあるかが検討のポイントになります。 5年後に株式公開したとして、それ以降1800万円を超え、2400万円という役員報酬を得ることはできるようになるかも知れません。しかしそれでは、この6000万円を取り戻すのに10年かかります。もちろん株式公開できないリスクや倒産のリスクもあります。

ちなみに、アメリカのベンチャー企業を見てみると、創業者とNo.2の位置関係や想いの強さ、コミットメントが株主比率に現れているのがよくわかります。創業者が100%保有というケースもありますし、創業者が95%、No.2が4%でNo.3が1%ということもあります。創業者とNo.2で60%と40%ということももちろんあります。そして、この株主比率が大きな意味をもつのです。

「出資比率(出資額)」=「リスクの大きさ」=「権限・責任の大きさ」=「後に株主として受けることができる利益の大きさ」 であり、リスクとリターン、権限と責任がバランスされるのです。この原株をもつ意義、責任というものをいま一度友人創業者と議論すべきでしょう。

こうしてみると、リスクを取る経済的な根拠を見出すには、原株をもらう以外に方策はなさそうです。原株をもらって会社が公開することになってキャピタルゲインを得ることができれば、それに見合ったリターンを得ることができるかもしれません。 「会社がうまくいえば年収を上げる」という安易な言葉だけを信じては、後で大事な友人を恨んでやめるようなことにもなりかねません。事前にはっきり議論しておくべきでしょう。

最後に、いつも展職相談室でお話していることですが、年齢のことにも触れておきます。

「45歳でベンチャーに転じたが1年で破綻した」と想定した場合、50歳以上の方よりも圧倒的に再就職はしやすく、その点、リスクは取りやすいといえます。預貯金の額や住宅等のローンの有無などにもよると思いますし、二人のお子さんの状況によっても違うと思いますが、概ね、「人生をかけるなら50歳になってからではなく、45歳の今がラストチャンス」くらいに思い、真剣に考えるほうが良いでしょう。50歳以上になってからリスクを取ると、うまくいかなかった時に本当に苦しくなります。

蛇足になりますが、「50歳以上になるまでに十分に蓄え(預貯金)を作り、金銭的なリスクを取れる状況でベンチャーに参加する」というプランもありえるのですが、今回のご質問者は、ベンチャー経営をあまり考えていなかった方であり、そこまで計画的にお考えだったわけではないと思い、詳細の説明は省かせていただきます。

いずれにせよ、ベンチャーへの参画とは、今までの大企業・外資系企業への勤務とは大きく異なります。資本政策や外部株主への対応など企業経営のために必要な力を有しておられるのかどうか、しっかり自己分析してみてください。加えて、ほかのベンチャー経営者、あるいは大企業の経営者などお知り合いがいらっしゃれば、その方々にも第三者として「あなたが本当に経営者となりえるのかどうか」をチェックしてもらうと良いでしょう。

もちろんご家族としっかり相談することも重要です。ご家族は、あなたが経営者になれるかどうか判断する能力はお持ちでないでしょうが、最も重要なステークホルダーとなるでしょうから、当然無視することはできません。多くの場合、反対を受けることになると思います。しかし、あなたがリスクを取りたいと考えるなら、100%の同意が得られなくとも賛同をえるための努力は不可欠です。あなたの判断ひとつでご家族みんなの人生が変わるかもしれないので、納得いくまで話してください。

家族の賛同もえられなければ、その場合は、参加を断念したほうがよいでしょう。家族の同意を得られないなら、この先、経営者として必要となる「赤の他人である株主や社員の同意を得ること」はことさら難しいでしょうから。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)