転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第70回
2009.08.27

経験がない領域に転職できるのか?

今までハイテク関連の仕事を5年、ITソリューションのコンサルティングを5年経験しております。いわゆるIT関連の業界からもう離れたいと思っているのですが、経験がない領域に転職はできるでしょうか?

Answer

今回のご質問は、おおよそ10年の社会人経験をお持ちの32才前後の方からのご質問ですが、もう少し読者の方に広く参考になるようにお答えしたいと思います。
まず、「領域を変えたい」というご希望には、「業界を変えたい」あるいは「職種を変えたい」の2つの要素が含まれています。
また、いつも申し上げていることですが、「年齢(時期・時間)」の概念も大切です。そしてそれに加えてもう一つ、「報酬」という要素も絡んできます。

25歳以下の職歴3年未満の方であるなら、ポテンシャル重視で採用を行う企業も多く、業種と職種の両方を同時に変えるような転職で、キャリアをゼロスタートさせても成功している方は多くいらっしゃいます。「やりたい」という希望を軸に展職できると言ってもよいでしょう。

また、25~28歳くらいまでの職歴3~6年程度の方の場合も、業種と職種の両方を同時に変えるような転職で成功することもありますが、25歳以下の方に比べ難易度は増します。しかし、これくらいの年齢であれば、大学院などのプロフェショナルスクールなどで専門性を学び直すことなどによってそれを補完することが可能です。MBA(ビジネススクール)やLLM(ロースクール)に進み、キャリアチェンジを成功させている方は多くいらっしゃいます。

これが、29~32歳くらいの職歴10年程度の方の転職になるとだいぶ様相が変わり、業種、職種の両方を同時に変えることは、そもそもかなり難しくなります。そのような転職では、多数応募してもなかなか面談(面接)にも進めてもらえません。
ただ、業種か職種のどちらか一方が変わるだけの転職(一方は過去の経験とフィットしている転職)であれば採用される可能性も、その後活躍し、成功する可能性も十分にあります。採用側も「この人が成果を上げられるか」をよく吟味してくれるので、失敗の可能性が軽減されるためです。
転職する個人からみれば未体験領域の業界や職種でも、採用側が採用リスクをかけて判断しオファーしてくれるなら、成功の可能性は十分にあるのです。それでもやはり、「大学新卒のように業界経験も職種の経験もゼロとなる新たなスタートで、年収だけ30歳の人なみにもらえる」というような都合のよい話はあまりないでしょう。

さらに32歳から35歳あたりの職歴10年以上の方の転職となると、業種か職種のどちらかは経験をお持ちであることがほぼ必須となりますし、35歳以降のことを考えると「転職後数年内にしっかりとした実績を出せる」という確信(あるいは自信)も必要となります。そうでないと転職後に成功しづらいという傾向があるのです。自信が持てないならその転職はしないほうが良いでしょう。転職において、「やれる」という自信が必要になってくる年齢と言えます。

35歳以上ともなると、「業種や職種を変える」という転職は至難の業です。特に「職種を変える」ということは、それまでの年齢層にくらべ格段に難しくなります。35歳以上の方を対象とするような求人では、採用側も経験のない方にリスクをとって任せるということはほとんどしてくれません。経験や実績のある方、間違いなくやってくれそうと判断できる方をスカウトしたいと考えているのです。「やりたい」や「やれる」だけでは通用せず、「やってくれ」と言われることが求められるフェーズです。

よって、まだ少なからずキャリアプランの見直しができる35歳までに、自己のキャリアの分析や整理をしておくことが不可欠となります。ご自分の適性を盲目的に信じたり、固定的に執着されたりすることのないように、しっかりと考えましょう。

さて、時間(年齢)軸でみるだけではなく、報酬軸で考えてみるとどうでしょうか。

例えば、業界、職種を変えたい場合など年収を一つ下のレイヤーに落とすと、採用側もリスクをとってあなたに投資してくれる可能性が高まります。通常、「成長と学習の機会」と「報酬(現金報酬)」はトレードオフしますので、いったん「報酬」をあきらめれば、「成長と学習の機会」=「未経験の職種や業界への挑戦の機会」を得られるということになります。
「経験がない分、年収を3歳下あたりの報酬レンジに下げる覚悟がある」という考えを相手に伝えると、相手もそれを考慮し「だったら、任せてみるか。」となる可能性が出てくるということです。採用側も採用される側もそこに等しくリスクを取り、「投資」をするという感覚です。

ただ、これもキャリアにおける時間をまだまだ20年以上持っている若者(おおむね35歳くらいまで)の特権といえるでしょう。
いくら「年収を下げてもかまわない」と言っても、採用側としてはあと20年働ける人と10年しか働けない人のどちらに投資をするかといえば、当然、あと20年働ける人を選択します。

精神的なチャレンジや起業家精神などはいつも歓迎されますし、持ち続けることは大事ですが、たとえば45才になって突然(ある意味自分勝手に)「業界や職種を変えたい」というのは歓迎されるものではありませんね。採用側にとってリスクを取るメリットが少なすぎるのです。

余談ですが、オファーをもらったとしても、「採用側が本当にしっかり吟味してくれたかどうか」には注意が必要です。
著名ベンチャーの社長との面談で「是非やってほしい」と言われ、業界や職種を変える転職をされる方をしばしば見受けます。経営者を含む採用側が、合理的な採用プロセスを経て「しっかりと成果を上げられるかどうか」を審査し、確証を持ってオファーしてくれるのであればよいのですが、ある意味勢いで(人物的な相性のみで)無謀な転職をしてしまい、そのご苦労されている方も多いので、その点はお気を付け下さい。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)