転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第77回
2009.12.17

ベンチャー企業の創業社長だったが、再就職できるか?

9年前に解析ソフトの開発ベンチャーを創業し今日まで少しずつ拡大してきました。しかし昨年の金融不況で一気に売上が減少し、事業の継続が難しくなり、悩んだ末、先日会社を解散することにしました。現在41歳です。

32歳当時、エンジニアとしてのスキルには自信があり、MBA留学で経営知識も学び、友人の支援も顧客の支援もあって創業しました。5年目までは順調でしたが、その後競争が厳しくなり、昨年来の不況の影響を受けいよいよ継続が厳しくなってしまいました。 幸い負債はなく、社員15名もパートナー企業が採用してくれることになり、顧客にも迷惑をかけない形で解散することができましたが、自分の進路は今から考えなくてはなりません。

起業するかどうか悩んだ時にも相談に乗っていただきましたが、またご相談できますか? 市場で私のような経歴のものが採用対象になるのかどうか、あるいは就職活動を開始するにあたり、どのようなことを心がけるべきか、ぜひ教えてください。

Answer

企業に限らず、何事においても始まりと終わりはあります。起こすこともあれば、倒すこともあります。
倒すことなく持続的な成長を成し遂げている企業は、本当に素晴らしいと思います。
一方、経営者にとって、解散をするというのは身を引き裂く思いでしょう。ご相談者のお気持ちはとても良く理解できますが、同じ経営者の立場からは、まず本当に人事を尽くされたのかどうか、再度考えてみていただくことをお願いしたいと思います。
たとえば、社員の皆様と別会社に移って再起を図る選択もあられたかと思いますが、ご検討されましたか?あるいは、株主との対話もどのようなものであったかわかりませんが、社員、顧客、株主とも対話した上で、本当に外に出ることが最良の選択なのか、再度お考えください。起業の時以上に考え抜いていただきたいと思います。それが最初の助言です。

さてその上で、「ご本人のみ外に出ることが最善の策であった」という前提で回答します。

起業した時には夢もあり、周りは心配しながらも、「おめでとう」と祝福してくれるものです。
さらに近いメンターなら「まずはめでたいが、これからが大変だぞ」と気持ちを引き締めてくれるでしょう。
そもそも就職も同じですが、それ自体が目的ではなく、自分が成し遂げたい目的のために選択した手段であるべきであり、起業ならばなおさらそのはずです。

そこで、もう一度「本質的には何を成し遂げたいと思って起業したのか」を思い起こしていただき、それまで断念したのかどうかを再度お考えいただきたいと思います。断念したなら、就職に向けて広くアプローチすることになりますが、断念していないのであれば、将来の再度の起業や再起を図るなりのプランを策定するべきでしょう。

そのためには、経営から離れ、エンジニアとして再起を図ることもあるかもしれません。報酬やタイトルさえ妥当であれば(取締役や執行役員などにこだわらず、年収も一旦妥協すれば)、歓迎してくれる企業は多数あります。実際にそのようなケースはしばしば見聞きしますし、あるいはエンジニア出身ながら営業職で再就職したケースさえあります。
この点、再就職については(あまり贅沢さえいわなければ)心配いらないのですが、再起を図っていることを嫌気されるケースと、再起を応援してくれるケースがあるので注意は必要です。
前者は大企業で、後者はベンチャーであることが多いです。

これは、起業経験者やベンチャー経営の経験者が労働市場でどのように評価され、認識されているかにも関係します。再起を目指すか目指さないかの判断にも影響すると思うので、ここでご説明しておきます。

日本でも、ベンチャーキャピタルの資本で企業を創業できるようになってはや10年が経ちました。しかしながら、アメリカをはじめとする諸外国に比べて、「ベンチャーに挑戦した(する)起業家をそもそも評価しない」という悪い風潮があります。

どうやら明治以降、財閥系など大企業で(私欲に駆られず公のために)大きな仕事をすることを善しとする風土ができたようですが、その流れのまま、「ベンチャーを起業する人、ベンチャーに就職する人」=「大企業になじまない人、成果を上げられなかった人」=「公のために働かない人、みんなと一緒に働けない人」=「アウトローや反抗的人物」というような偏った見方をするようになったのだと思われます。そのような考え方を持つ人は、起業して失敗した人に対して待ってましたとばかりにネガティブな評価をされる傾向にあります。

実際、ある成功しているベンチャーCEOに聞いたお話しでは、起業時に出資を受けるべくベンチャーキャピタリストに申し出をしたところ、「貴方みたいな超優良企業のエリートが、なぜ会社を辞めて起業などするのか?社内で何か失敗でもしたのか?」と聞かれたそうです。
さすがにこの話には愕然としますが、日本ではベンチャーキャピタリストにさえも、起業家に対してネガティブな見方をする方がいるということです。そのような方はごく一部だとは思いますが、きっと、投資先が破たんした際など、もう一度チャンスをとは考えないものと思われます。

もちろん、起業家を発掘し、育て、失敗からも学び、経営者と共にともにビジネスを創っていく素晴らしいキャピタリストも多くいらっしゃいますし、ベンチャーキャピタルの興隆から10年以上が経ち、徐々に素晴らしいベンチャーキャピタリストも増えてきているとは思いますが、いまだにネガティブな評価しかしない方もいるということを理解しておくべきです。

おそらく日本人のメンタリティーから来るこの独特の風潮が、起業や再起をする上でのもっとも大きな問題、障壁として立ちはだかっています。日本で起業する人がなかなか増えないのは、まさにこのためでしょう。

海外、とくにアメリカなら、起業の失敗は少なくとも恥ではありません。その失敗から学んでいれば、むしろ評価されることのほうが多いと言えます。外部資本で起業することがほとんどのため負債も残らず、何度もチャレンジできます。4回の失敗後、5回目の起業で大成功というケースもしばしば耳にします。 社会としてフロンティア精神を尊び、先端技術や市場の変化に先駆けてチャレンジしたこと、失敗して学んだことの価値を認め、それを次に生かしてもらいたいと考える風潮があるのです。大企業かベンチャーかに限らず、プラスに評価をする風潮があります。

あるいは中国、インド、ベトナムなどの急成長中の新興国(全ての企業が成長しようというベンチャー気質であり開拓精神を持っているところ)も同様で、少なくともベンチャーの失敗者に烙印を押す事はないようです。

それに比して、日本ではどうしても起業やその失敗について、ひとくくりにネガティブな評価をされてしまうことがあるということを理解しておきましょう。 前回の相談室(第76回「社長が起訴され会社が破綻したが、そこの役員であった私は再就職可能か?」)でも書きましたが、ベンチャー企業の経営経験、特に失敗経験を持つ人材に関しては、ポジティブに評価する人がいる一方、ネガティブに考える方も大企業を中心に多くいると言わざるをえないのです。

これも一例ですが、やはりベンチャーで経営陣として経験を積んだ方が諸事情あって転職をすることになった際、大企業で面接が進むも、所属部門長は是非採用したいと言ってくれてもなお、最終の人事面接や役員面談で明確な理由もなく「やはり採用は止めておこう」と言われてしまったケースがあります。どうやら「自社にそぐわない。長期でやってくれそうな印象がない。」という程度の消極的な理由のようです。同様の話は多数あり、ほとんどベンチャーの経営経験者に対する拒否反応のように思われます。

残念なことと感じますが、それに文句を言っても生産的でないので、どうすべきかのアドバイスに戻ります。

まず、ベンチャーでの経営経験(失敗経験を含む)を大企業で活かそうと考えないこと。もちろん、「新規事業の立ち上げ」などで経験が活かされるケースはあるものの、評価されないことのほうが多いと考えたほうが良いでしょう。そもそも大企業は、中途採用でも35歳くらいまでの非管理職の求人がほとんどです。
40歳の経営経験者がその知見を活かすことを期待されることはないと考えたほうが無難です。

それでもなお、大企業に就職したいのであれば、再度の起業・再起は忘れて、「起業の失敗に懲り、これからは大企業で一生勤め上げます。異動や転勤も厭いません。」くらいの覚悟で臨むべきです。

もし、「やはり再起も諦めず、またチャレンジしてみたい」と考えるなら、アプローチするべきは日系大企業以外ということになります。外資系企業やベンチャー企業、そしてこれからは変革期を迎えた中小企業や事業承継時のオーナー企業にこそ、その経験を活かす機会があるでしょう。
「エッジ」とよばれる先端での経営経験や失敗経験は、やはり「エッジ」を行くベンチャー企業にとっては失敗しないようにするノウハウとして評価されうるものですし、また外資系企業にとっては、未開拓の(日本)市場の開発ノウハウとして、その価値を見出してもらえることも多いと思います。

いつも申し上げることながら、これらの求人は一般の広告など表に出ることは少ないので、友人知人や信頼できるサーチファームに相談しながら、しっかり自分で活路を開くことをお薦めします。

最後に、もう一度。 たった一回の失敗にめげず、キャリアの再設計には自信を持ってください。

今40歳であるなら、50歳までであと10年、60歳までならあと20年、あるいはそれ以上のキャリアと人生が続きます。残された時間は、決して短くはないはずです。
起業というチャレンジをした時のことをもう一度、思い出していただきたいと思います。

終わりは次の始まりです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)