転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第78回
2010.01.05

37歳で初めて本気で転職したいと思ったが、考えたことも準備したこともなかった。

これまで転職を考えたことも準備したこともなかったが、37歳で初めて本気で転職したいと思った。今までは、機能性化学品関連の専門商社で国内外のメーカーへのセールス一筋でやってきた。英語力はあるほうだが上級とまではいかず、業務で使っていたというレベルである。ドキュメントも会話も専門領域のみでしか通じないと思う。

この状況で、とある仕事上の知り合いの社長から、営業部長のポストを用意するからうちに来ないかと誘いを受けた。現状の年収の900万円を1000万円にしてくれると言ってくれている。製品知識もあり、旧知の社長で信じられるが、20名程度の零細企業でもあり、不安が残るため辞退することにしている。友人は皆、薦めるが、プロからみて受けるべきかどうか助言が欲しい。

Answer

日本社会でもっとも多いのがこの知り合いからの誘いではないかと思われます。ご相談内容もよく聞く話ですね。特別なケースでないだけに、多くの方が同じようなお悩みを持つことも多いと思います。はじめて本気で転職をお考えの中、お誘いを辞退すべきか受けるべきかの問いに直面されているわけですから、安易に考えずしっかり考えるべきでしょう。
改めてどう考えるべきか、お答えします。

第一に、これを機にご自分の60歳までのキャリアについて、もっとしっかりと、そして深く考え抜くことです。

先輩、後輩、取り引き先、家族、あるいは同業の集会で知り合った方などなど、どのような人脈でも誘いがあるということはとても素晴らしいことです。それ自体が、貴方がしっかり仕事をしている一つの証でしょう。不確実性の高い世の中で、こうした誘いがあることはとても大事なことです、知り合いから誘いの一つもない人のほうが、問題ともいえます。

ただ、ご自分が会社の中でだけキャリアを考えていたこと、外に目を向けて広くご自身のキャリアについて考えていなかったという事実には気づいて欲しいと思います。 ご自分の「やりたい」ことが現職であるのかどうか、ご自分の価値が会社の外でも通じるのかどうか、真剣に考え、検討したことがないという事実です。

ご質問からは、「今よりもっと良い仕事があったら(あるだろうから)転職したい。」「誘われているポジションは、年収は上がるものの中小企業で安定せず、今より良いとは思わないので辞退しようと思う。」「もっと良いものがあると思うが、どうか?」という漠然としたお悩みでしかないように感じられてしまいます。

貴方にとって、「もっと良い仕事」とはどんなものなのでしょう? 貴方が本当にやりたい(やり遂げたい)ことは何か、仕事に何を求めるのか、なぜ転職をする必要があるのか、あるいは今後どんな誘いがありうるか、本質的な検討なしには判断はできないはずです。

いつも申し上げていることながら、「やりたい」、「やれる」、「やってくれ」の3要素について、本質的なところを考え、キャリアの設計図(グランドデザイン)を描く必要があります。設計図があればそれにフィットするかしないかで判断しやすいのです。

今回は、ご本人が気づかないながらも、会社の外の人が貴方の価値に気づき、わざわざ「やってくれ」と申し出てくれたわけです。とはいえ、「やってくれ」と言われることと「やれる」と確認できているということはイコールではありません。本当に「やりたい」と思うことなのかどうかも本当に重要です。これがあいまいだから、悩んでしまうのですね。

そして、辞退したとして他の機会があるのかどうか。これを断って、今後、よりよい機会があるのかどうかもしっかりと検討することが必要です。その点、プロの意見をもとめられているのだと思いますが、「もっと良いお話がありますよ」という答えをご期待だとしたら、そのご期待に対しては少し違ったお答えとなるかもしれません。

たとえば、2000年あたりまでであれば、37歳まで転職を考えたこともなかったという方にも同情の余地もあったかもしれませんが、この10年で社会は大きく変わりました。それまでとはことなり、「転職」「キャリア」について考えてこなかった人は、会社に対してロイヤリティーが高かった人と見なされなくなってきました。 それどころか、会社に依存していたと見なされることもしばしばです。今はもっとしっかりとしたキャリア観、職業観を持って、会社でプロとして働くことが求められるようになってきています。

直言してしまうと、今回この誘いを断ると、今後誘いがないかもしれないどころか、ご自分から転職市場に探しに出ても、同様の機会は簡単には見つからないだろうということです。自分のキャリアプランを作っていなかった人、自分の強みや弱みをしっかりと理解されていない方が、いきなり転職市場にマーケットインされても、評価されることはほぼないと考えることもできます。(面接やインタビューで、簡単に見透かされてしまいます。)

この点からも、今回たまたま声がかかったのだとしても、今後よりよいお話しが来るかどうか、このままではいささか不安と言わざるを得ないでしょう。

やはり、安易な判断をする前に、もっと真剣にキャリアについて考え、しっかりとしたグランドデザインを描くことが重要なのです。

第二に、キャリアのグランドデザインを描くのに、しっかりとしたフレームを持つことでしょう。

単に、現職とそのオファーのある会社を比較するだけでは答えは導き出せませんし、60歳で社長になりたいなどというだけでももちろん不足です。年収をいくらにしたいと言うだけでもダメ。社会貢献したいとかやりがいのある仕事をというのも抽象的すぎです。せっかくのキャリアのグランドデザインも、抽象的すぎたり現実離れしたりしていては無意味です。

もっと具体性のある内容の検討が必要です。

それには、年齢(時間)、やりたい・やれる・やってくれの三要素、職種、業種、あるいは事業会社でマネジャー/マネジメントをしていくのかスペシャリストを目指すのか、はたまた独立するのか、そして何にやりがいを感じ、何を得たいのか、そしてファイナンシャルプランはどうするかなど、幾つかの枠組みでキャリアを見てみるとよいでしょう。詳しくは、弊社キャリアコンサルタントにご相談ください。

じっくりとキャリアについて考え、しかるべきフレームでグランドデザインをしておけば、あとは都度それに従って判断するだけです。もちろん、必ずしも設計図通りにいくものでもありませんし、設計図の変更もあり得ます。ただ、重要なポイントが明確になっている分、後で「こんなはずではなかった」と後悔することも少ないでしょう。

また、次のチャンスがまた将来あると思うことも、実は気休めでしかありません。将来またそのような機会が出てくるという可能性はもちろんありますが、本当に設計図にフィットする案件が貴方の元に来るという保証はないのです。あるいはこれから将来、会社理由で会社の外にでなければならない時がくるかもしれません。仮にそのようなことになっても困らないよう(後悔しないよう)、これを機にしっかりと考えておいてください。

そして、辞退されるにしろ受諾されるにしろ、キャリアのグランドデザインを描き、判断の軸をしっかり持って結論を出しましょう。

結論を申し上げると、お誘いがキャリアのグランドデザインに合うなら(そこで希望の将来像を描けるなら)、覚悟を決めてお話しを受けるべきで、グランドデザインに合わないなら(そこでの将来像を描けないなら)辞退するだけのお話です。

最後にもう一つ注意を。

知り合いから「やってくれ」と頼まれる場合、採用の試験も他の候補者との競争もないことがほとんどですが、通常の採用では、(どんなスカウト案件でも)採用側は複数候補者の中からベストな人材を選ぼうとします。つまり、オファーにいたるまでに競争があり、自分が望むポジションで無事オファーをもらえる確率は、必ずしも高くないのです。

知人からの誘いという一見よさそうなこの話、実は、ここには落とし穴があります。

これは、言い換えると、「通常の採用では採用側がこの人なら大丈夫という人を厳選しているので採用後に期待通りの成果を上げられる確率が高い」、「審査が少ない知人経由の場合、見極めが甘くなりがちで、入社後成果を上げられる確率はむしろ低くなる傾向にある」ということでもあるのです。

そのことから申し上げられるのは、「やってくれ」と知り合いや先輩から誘われても、ご自分でご自分を厳しく審査して、本当にできるかどか精査するべきということです。

後になって採用側が「あれ?期待はずれだった」とか「やってもらえると思ったのにその力はないね」と言われてしまうという話は、しばしば耳にします。クビとまではいかなくとも、退社せざるを得なくなることもあるので、自信を持ってやり遂げられると思わないのであれば、辞退したほうがよいかもしれません。

ただ、どんな場合でもキャリアのグランドデザインあっての話です。 判断の軸がぶれないよう、そして一貫性のあるキャリアとなるよう、何よりしっかり考えていただきたいと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)