転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第98回
2011.02.03

金融機関を退職した後、再就職ができない。どうすればいいか?

いつも”展”職相談室を読ませていただいています。私は金融機関に46歳まで勤務し、Relationship Management(いわゆる法人営業)一筋のキャリアを歩んできました。海外MBAを保有しており、上場企業の資金需要や中小企業経営者の経営の助言まで幅広く経験し、それなりに経営についての知識、見識を持っているつもりでした。そのような自信もあり、1年半前に早期退職プログラムが発令されたとき、第二の人生に挑戦したいとの思いからそのプログラムに申込みました。しかしながら、リーマンショックの後なかなか次の機会を得ることができず1年半以上も無職が続き、現在は友人が社長をしている小売業の会社に顧問として席を置かせてもらっています。月額の報酬は20万円程度で、厚生年金、保険関連の支払のためだけの雇用という感じで、特に仕事らしい仕事をしているわけではありません。

これまでは高学歴、知名度の高い会社、しっかりした職能、スキル、実績、管理経験があれば大丈夫だと思っていたのですが、この年齢で金融業界での経験しかない私が、他の業界で職を探すことがここまで難しいとはまったくの想定外でした。以前の展職相談室(第57回「~特別版/不確実性が高まる時代のキャリア開発(2)~」)にも書かれていましたが、適材、適所だけではなく、『適時』という考えが欠けていたことを痛感しています。

65歳まであと20年近くあると考えると、10歳の子供をかかえ、このまま友人の庇護のもとで生活をするわけにはいきません。ただ、それなりに必死に仕事を探し、かなりの数の応募をしているのですが、なかなか思うような結果につながりません。アクシアムを含めたサーチ会社にも20社程度すでに登録していますし、ハローワークにも通っていますが中々合う案件がなく、また合う案件が見つかり応募しても面接にすら進めない状況が続いています。ここまで機会がないというのは本当に辛い状況です。年収は1000万円程度でもあればと思って活動していますが、場合によっては800万円でも良いと考え始めています。

一体、どうすればいいのでしょうか? どんなことでもかまいませんので、ぜひご教示ください。あらゆるノウハウを試してみたいと思います。

Answer

切実な状況、お察し申し上げます。直接金融、間接金融、様々な金融のプロフェッショナルの方がなかなか次の機会が見つからず、無職という状態が続いているケースは少なくありません。展職相談室はよくお読みいただいているようなので、今日は考え方や概念論、精神論ではなく、ノウハウ版、実践編としてご回答したいと思います。

 

1)元気になる。

そもそも、就職活動の源泉ともいえる「気」がないと始まりません。ともすると悲観的になり、元気がなくなってしまいそうな状況かもしれませんが、結果がでるまで決してくじけないことです。これは精神論ではなく、良い求人案件や会社に巡り合うためのきわめて実践的なお話です。貴方の周りのどんな知人やエージェントも、元気がない人には案件の案内を躊躇してしまいますし、当然面談や面接が入っても元気がないとやはりNGになってしまいます。だから、まずは『元気』であることです。

そして、元気になるためには就職活動だけに時間を浪費するのではなく、自分の「元気の源」に触れることです。敢えて趣味を再開する、人に勧めたいと思うような本や座右の書といえるような本を再読する、会っていなかった古い友人にできるだけ会う、子供の未来のことを100%真剣に考える、ショッピングや旅に出る、親に会うなど方法は色々とあります。視点や視座を変えることで元気が戻るはずです。人によって自分の元気の源は異なりますが、とにかく元気になること、それがまず第一歩です。

そして常にヘッズアップです。これはいつも多くの方にお伝えしていることですが、50歳になってしまうと悲観せず、ご自分の年令に70%をかけた年令の時代を思い出して、その時のような気持ちで前向きでいてください。

35歳の時、貴方はどんなことを考えていましたか? その後の経験で染み付いてしまった余計な虚栄心、猜疑心、変な常識、固定概念などは元気の邪魔になっているもので、これらはゼロリセットしても良いものです。もっと言ってしまえば捨て去っておくべきものです。簡単ではありませんが、過去を断ち切る勇気を持ちましょう。

 

2)就職本、求人情報から離れる。

やれ人生の成功の秘訣だの、どん底からの復活だの、どうしても共感してしまうドラマや書物を参考にしたくなるかもしれません。また何よりも求人情報は貪欲に必死で収集しようとしがちです。 しかしながら、あなたがあらゆる求人情報サイトや、ハローワーク、サーチ会社20社への登録まで完了しているのであれば、おおよそ個人として広げられる網はすでに広げてあるといえるので、あとは網に案件がかかるのを待つだけです。それ以上は必要ないでしょう。

ただ、広げた網に求人案件がより多くかかってくるようにするために、レジメの内容、見せ方、要約の度合い、単語レベルの見直しや工夫の余地はあると思います。今一度、ご自身のレジメを見直ししておくと良いと思います。レジメの工夫についてはネットでも沢山参考になるサイトがありますし、諸説があるでしょうから、どれが頼みになるかは助言しがたいですが、もう一点、希望年収の設定も見直してみることをお勧めします。例えば希望年収など600万円以上ぐらいに一機に下限を下げて申請、登録されれば、それだけでも網にかかってくる案件の数は変わってきます。(当然ですが。)そこから面談に進むチャンスを広げ、後は自分の力で交渉し、好条件を勝ち取るくらいの気概で臨んではいかがでしょうか?

いずれにしても、肝心なことは『今までと大きく異なる活動をやってみること』です。同じ活動をしていたら同じ結果しかでないという現実を認識することが重要です。

例えば、表向きは求人をしていない企業に「機会がないかを直接探って応募する」、あるいは「ご自身を売り込む」といった積極的な行動をとってもよいのです。以前はそうした積極的な方も多くいらっしゃったように思うのですが、最近はそうした積極的な人が少なくなってきたように思います。ただ、だからこそチャンスなのです。他の人と同じ活動をしていたのでは機会は得られません。99%「求人はありません」と言われると思っても、1%の可能性にかけ、積極的にアタックをかけてみましょう。

そうした姿勢は、思いがけず良い結果を生むことがあります。実際、世の中に出ている100社の求人情報に応募するよりも、求人をしていない100社に自分の売り込みをかけるほうが効果的です。 求人情報に「40歳以上、金融業界出身者歓迎」と書いてあれば、金融業界出身者は山のように押しかけ、競争率は極めて高くなりますが、表向きは人材募集をしていない会社であれば、当然応募者はなく、競争はほとんどないと言えます。あとは、「この会社は金融出身のRM経験者を必要とするはず」という目論見が当たれば、オファーを得るのはそう難しくないでしょう。

ホームページ上に採用情報が無く応募のメールを受け付けていない企業であっても、目論見さえしっかりしていれば、レトロに郵便で応募してもいいでしょう。宛先は人事部長ではなくもちろん社長(実名フルネーム)です。これが意外に届きます。求人情報を当てにしない「プッシュ型の応募」で活路を見出してみましょう。これは金融業界から事業会社、コンサルティング業界への転身に成功した方が実際に用いたノウハウです。

目論見を他人に考えてもらうのではなく、自分で考え実践することでチャンスを得ることがある、というのが「求人情報から離れる」という助言の意味です。

 

3)人とのつながりを大切にする

過去のつながりから自分を助けてくれる友人がおられたことは何よりです。そして今後の新しい友人、人生を分かち合う仲間を探すことも同様に大事です。

再就職、すなわち新しいキャリアは人との出会いから始まるものです。したがって新しいキャリアを探すためには、できるだけ多くの人に会うことが大事です。しかし、シンデレラのような偶然の出会いを期待していても現実的にはそのようなことは起きません。自ら動いて、その機会を増やすしかないのです。 過度な期待はできませんが、例えば大学院などに聴講生でもいいのでもぐりこむというのも一つの方法です。人との接点を増やすことでチャンネルが広がるからです。情報のつながりから人へのつながりに、またその逆に人と人とのつながりが情報をもたらしてくれることがあります。

ネットやツイッターには決して書かれない情報も、会うと話してもらえるということが多いことは想像に難くないでしょう。そうした、潜在的な状況にある求人ニーズに出会えるかどうかが重要なポイントです。

大手企業の人事が集まる会や商工会議所や自治体が企画した出会いのネットワークもいいかもしれませんが、他人がお膳立てしたプラットフォームに依存していては、良い結果につながる期待は高くありません。 それよりも、私塾、個人的な専門家の会、フォーラム、中小企業の経営者やオーナーが集まる会に参加するほうが、潜在的な機会に出会い、顕在化する前の求人ニーズを掴める可能性が高いでしょう。こういう場で知り合った方とコンサルティングの委嘱契約を結び、コンサルティングや事業開発で実績を出し手腕を認められれば、正社員として部長待遇、さらには役員として迎えたいといった話に変わることがあります。案外、そのようなケースが世の中には多くあるものです。

 

また、最近の求人、特に上位層の求人は、人事部が行うだけではなく経営者や株主が主体として動く事が多いという事実は、頭に留めておきましょう。そしてどのように活動すべきか考える上でのヒントとしてください。自分自身の売り方のマーケティングを4P、4Cでぜひ考えていただきたいと思います。

もしまだやっていなかった方法があれば、無駄と思わず試してみてください。少なからず違う結果が得られるはずです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)