転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第99回
2011.03.03

現在34歳の公認会計士です。転職を考えており、大手企業の監査役やCFOの求人を探しています。

現在34歳の公認会計士です。資格を取得した後、監査法人にて大手企業を中心に監査業務を10年強続けてきています。転職を考えていて、大手企業の監査役やCFOの求人を探しています。

ただ、いくつかのサーチ会社に依頼しているものの、登録後2~3年経過した今も希望の案件を紹介してもらったことがありません。先輩の会計士を見ていると、年配者は有名企業の監査役となっている人もいますし、能力面では劣らないと自負している自分にも同様の話があってもよいのではと思っています。なお、同僚の中には、中小企業やベンチャー企業のCFOなどに転職している人もいますが、個人的には中小企業やベンチャー企業はリスクが高いと思っており、選択肢に入れていません。 大手企業において、CFO含みあるいは将来的に役員になる予定というような求人はないのでしょうか?

なお、他のエージェントからは一般社員の案件を案内されますが、プロフェッショナルとして仕事をしてきた自信もあるのでので、いわゆる一般社員への応募は考えておりません。

Answer

大変残念ながら、ご希望されているような求人はほとんどありません。ご希望されているような求人で声がかかる可能性はきわめて少ない、というより非現実的だと思います。キャリアの設計図、ターゲットスコープを見直さない限り、このまま5年、10年と過ぎてしまうでしょう。

もし、本気で事業会社のCFOや役員に就くことを希望されるなら、考え直すべきポイントが3つあります。

 

まず入社時の役職について。 役員として入りたいという願望は一旦横に置き、一般社員から役員になる方法を考えてみてはどうでしょう。

大手企業とおっしゃっているのはおそらく東証一部/二部上場クラスの企業のことだと思いますが、そのクラスの企業でのキャリアを考えるのであれば、役員からのスタートというのはほとんど望めず、通常一般社員からのスタートとなります。中には、投資ファンドなど株主側からCFOとして出向したり、株主が役員を探してきて着任させたりといったケースもありますが、極めて稀です。

また、オーナー系企業の縁故採用だったとしても、通常は一般社員からのスタートとなります。

当たり前ですが、上場企業であれば役員に就任するには株主の承認が必要ですし、仮に縁故もあってすぐに役員に就任できるとしても、株主だけでなく他の社員や役員からも信頼されるようになってからでないと、実質的なマネジメントが機能するはずもないからです。年功的人事制度が根強い日本の大手企業であれば、中途採用への風当たりはなおさら強いので、外からきてすぐ役員として機能するというのは容易でないでしょう。

まれに監査法人のパートナー経験のあるシニアな方が大手企業の監査役やCFOとして迎えられるのは、役員や株主からも十分な信頼を得られるだけの実績と経験があってのことと言えます。 おそらく30代では難しいでしょう。

いずれにせよ、上場企業の役員は、自分ひとりの能力が高ければ務まる類のものではなく、組織やチームでどれだけ高い成果を上げられるかが問われるものであることは理解いただけるものと思います。

また、現在、東証に上場している会社が2000社強ほど存在しますが、そこで今まさに求められているのは、「公認会計士」の資格保有者というよりも、「国際会計に照らした連結決算ができる」、「IFRS対応ができる」、「コンプライアンス体制を改訂していける」、「子会社の管理ができる」といった専門領域をもったプロフェッショナルです。「公認会計士」資格を求めているのではなく、その資格を生かし何らかの専門的な領域で力を発揮できることが不可欠なのです。

「会計監査ができます」だけでは、残念ながら「出来上がったPL/BSを見てああだこうだいうことはできても、PL/BSをつくる側=経営する側としては、まだ経験も見識も不足している」と見なされてしまいます。

つまり、役員になりたいのであれば、監査という第三者の立場で「言うだけ」の立場ではなく、一般社員としてでも主体的な立場で「判断し実行できる」専門性を身につけ、その中で組織のリーダーとして認められていくことが何よりの近道なのです。

 

二点目は、大手企業に限らないこと。

例えば、皆さんが知っている有名外資系企業ですら、日本支社においては中小企業サイズの経営となることがほとんどです。大手に絞るということは、これも対象外としてしまうことになりますが、それではチャンスを逸してしまいます。 またベンチャー企業も公開企業数で2000社を超えており、公開を目指す企業数は8000社もあるといわれています。さらに中小企業は200万社以上あるといわれています。

確率の問題ですが、大企業2000社に限定して発生する可能性の低い求人を探すのと、成長性が高くハイクラス求人を多く持つベンチャー企業や日本参入の外資系企業など200万社の中によい機会を求めるのと、望んでいるキャリアを作れる実現可能性が高いのはどちらでしょう?

ベンチャーや中小企業が「危ない」とおっしゃる気持ちはわかりますが、全てのベンチャーや中小企業が危ないのでしょうか?何をもって危ないとするのでしょうか?

そもそも、順風満帆な会社が役員を外から採用する必要性など、あるはずがありません。 程度の差こそあれ、問題のある会社、危ない状況にある会社だからこそ、人が必要なのです。 問題があるからこそ、その課題を解決し、マイナスからプラスへと成長させることができる手腕や能力を備えた人材が求められているのです。

企業の規模にかかわらず、そうした環境で経験を積むことがその後の大きな糧となるのではないでしょうか。むしろ、そうした経験を持たず、監査法人での一般的な会計や税務の知識経験のみで経営を担うことの方が、リスクが高い「危ない」行為かもしれません。経営や財務の難しい判断が迫られる場面では、会計の知識だけではどうにもならないことが多いように思います。

ベンチャーや中小企業にこそ、経営を学べる環境があると考えてみてはいかがでしょうか。

 

最後のポイントは、「プロフェッショナル」という言葉の定義付けと自負について。

先の2点にも関連する根源的問題がここにあるようにも思えます。 もしかして、「(プロフェッショナルではない)いわゆる社員はさけたい」という凝り固まった概念がご自分のキャリアの可能性を制限してしまっているのかもしれません。

人生を経営に例えるなら、その様な固定観念が、ご自分の大事なキャリアの「資産」を税金やコスト(高い給与)だけがかかる「不良資産」にしてしまうということになります。いわゆる宝の持ち腐れですね。

ご相談の文面からは、いわゆる「士」と呼ばれる資格保有者のみがプロフェッショナル呼ばれることに強い意味を見出そうとしておられるように思います。一方、社員と呼ばれる人にプロフェショナルがいないという考えをお持ちのようで、「社員になるのはいやだ」とおっしゃっているように感じられます。何故その様に思うのか、少し掘り下げ、自問自答してみていただきたいと思います。

ウィキペディアで【プロフェッショナル】を引いてみると、次のような説明があります。


略して「プロ」。玄人(くろうと)とも言う。プロには以下の意味が含まれる。

  1. ある分野について、専門的知識・技術を有していること、あるいは専門家のこと。プロフェッショナルスポーツなど何かの専門分野か、広範囲の人々によって行われる分野において、それを職業としている人。
  2. 趣味としている人であるアマチュアに対する語。プロとアマチュアの境界は、ジャンルによって異なる。
  3. そのことに対して厳しい姿勢で臨み、かつ、第三者がそれを認める行為を実行している人。
    (以下略)

NHKで「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組がありますが、その中で登場する人々に、「(あなたにとって)プロフェッショナルとは何か?」と問いかけるシーンがありますね。 そこでは、その一人ひとりから見事に異なる答えが返ってきます。

社員でも経営者でも、それぞれプロフェッショナルと呼べる人はいると思います。 もちろん、プロフェッショナルと呼ぶにふさわしくない人もいるでしょう。財務、会計部門で専門性を求められる「社員」でも、会社全体について責任を問われる「経営者」でもそれは同じです。資格の有無ではありません。

どうせなら、「士」としてのプロではなく、自分自身で誇れるプロを目指しませんか?

財務会計の専門性の中には、知識だけではなく、経験を備えて「見識」と呼べるものに転換すべきことがあります。繰り返しになりますが、監査法人の側で会社を見るのではなく、会社の中から会社を見るという経験を備え、判断力やリーダーシップ、人からフォローされる経験をもつことが大事です。そうすれば、マネージャーというだけではなく財務会計のプロとして、そして、将来は経営のプロとしても活躍できることになります。

まとめましょう。

大企業でもベンチャー企業でも、あるいは再生中の企業でもかまわないので、最初から役員として入ることにこだわらず、むしろスタッフワークからでも経験を積んで、苦労を糧として真のプロフェッショナルになっていくこと。それが、貴方が望むようなキャリアへの一番の近道となるはずです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)