転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第110回
2012.03.01

サーチ会社が、私の承諾なくレジメを企業にばらまいていた。こんなことがあるのか?

現在外資系企業に勤める、30代後半の管理職です。昨年本社が別の会社と合併することになり、先行きが不透明になってきたので転職を検討し始めています。

昨年末から複数のサーチ会社に相談していたところ、今年に入りあるサーチ会社A社から某外資系企業Z社を紹介されました。

希望どおりの案件であるため、急いで同社向けの応募書類を作成し推薦してもらいましたが、そのサーチ会社から、「書類選考上NGとなってしまった」と連絡がありました。その理由は、「すでに別のサーチ会社から推薦があり、その時点で書類選考NGとなっているため。詳細は不明。」というものでした。

よくよく聞くと、サーチ会社A社とは別に相談していたサーチ会社B社から、昨年末にその企業に推薦がされていて、その時点で書類選考NGとなっているそうです。NGの理由については、当時B社に説明しているからそこから聞いてくれと言われているとのことでした。

そもそもB社からは当該企業を紹介されてもいないし、もちろん推薦をお願いしていません。まったく私の知らないところでレジメがその企業に提出されていたことになります。

納得できないので、外資系Z社にも直接聞いてみたところ、「サーチ会社B社から先に紹介されたので、そちらに選考結果と理由を伝えた。B社に問い合わせてくれ」の一点張りです。当然サーチ会社B社にも問い合わせしましたが、なんと担当コンサルタントが退社したので、経過がわからないといいます。埒が明かず、結局うやむやにされました。B社に預けていた書類は本求人向きではなかったし、今回アレンジした書類で審査されれば結果も違ったのではないかとも思える点も、とても悔やまれます。

明らかに個人情報保護法にも違反しているのではないかと思いますが、人材紹介会社のコンプライアンスは、いったいどうなっているのでしょうか?

Answer

こちら、明らかに法令違反だと思います。本来、あってはならない、許されないことです。

平成17年4月、いわゆる「個人情報保護法」が全面施行となり、まもなく7年が経とうとしています。しかし、とても嘆かわしいことに、「個人の皆様に無承諾で履歴書等を企業に提出・配布する人材紹介会社(エージェント)がまだ数多く存在する」というのが実態です。
以前(2年ほど前)にも同様の内容をコメントしましたが、その後もなかなか是正がされていません。

この状況を踏まえると、更なる法的拘束や監視強化などの公的な施策に期待するだけでなく、個人の皆様が高い意識を持ち、そのような「悪徳な会社」を皆様自身で選別し、排除していく手段を身につけていただくことが何より重要と考えます。


(参照)厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」

第12 個人情報の保護に関する法律の遵守等[PDFファイル]


当然、アクシアムでは履歴書・職務経歴書をはじめとした一切の個人情報につき、ご本人の承諾がなくクライアント企業を含む第三者に提出することはありません。

AXIOM 個人情報保護方針

では、なぜそうした不届きなサーチ会社が後を絶たないのでしょう?

一言で言うと、「紹介は、早い者勝ち」という悪しき習慣が残っているからです。 紹介を受ける採用企業側は「本人の承諾」があることを前提にしていますので、後は早い方に紹介の権利があるということが通例となっていて、契約もその前提でなされています。

ところが、本人に承諾を取る手間や時間を省くため、無断で多数の企業に書類を提出する紹介会社があるのです。勝手に書類をばらまき、企業が「会いたい。面接したい。」ということになってから、「お勧めしたい会社がある」とか「貴方にぜひお目にかかりたいという会社がある」とつじつまを合わせて面談に進めるという手筈です。

多くの場合、明らかな法令違反であっても、「無断で書類を提出されたことの問題」より、「企業面談に進めるメリット」を優先し、特に訴えたりせずに終わってしまいます。 また、採用企業側も揉め事は避けたいため、うやむやにしたがるということもあるように思われます。

結果的にそうした行為を容認してしまうことにつながり、悪質な紹介会社がなかなか後を絶たないのだと思われます。

こうしたケースでの対処としては、当該紹介会社や担当するコンサルタントに、「自分の承諾なく、提出することがないように、強く要請しておく」ということがなにより必要です。そして、無断でどこかに提出されたりばらまかれたりしていると思ったら、断固たる態度で臨むことです。

そのほか、取るべき対応や対策については、以前の相談室にも詳しく書いていますので、そちらもぜひご覧ください。


“展”職相談室 第62回
初めての転職。人材紹介(サーチ)会社を使う時、何を知っておくべきでしょうか?


また、以下に、今まで当職が聞いた同様の被害について、いくつかの事例をお伝えします。いろいろなケースがあるのですが、このような被害にあわないように参考にしていただき、信頼できるサーチ会社やコンサルタントを峻別していただければと思います。

 

【1】個人に無断で企業に書類を提出された
経験の浅いコンサルタントや、完全コミッション制で働いている外資系ヘッドハンターなど、短期的な成果をあせるあまり、とにかく面接を設定しようと本人に無断でレジメを提出してしまう傾向があるようです。
結果、今回の相談のようなことになったり、あるいは、採用企業側からは「転職がうまくいかず、自分の書類をあちこちにばらまいているだけの人」と思われたりするかもしれません。どの会社に書類が回っていかわからない不安もありますし、不利益は図りしれません。
なお、リテーナー式と呼ばれるサーチ会社(ヘッドハンティング会社)では、個人の皆様からの登録ではなく、独自の調査でキャリアデータを集めることがあります。インターネットや各種記事の情報をもとに公開されている情報を集めているので、これらはご本人の承諾なく企業に提出されることがあります。中には、ご本人から提供を受けた個人情報も、それと区別せずに承諾を得ず提出してしまっているコンサルタントもあるように見受けられますので、注意が必要です。

くれぐれも、「承諾なく企業や第三者に提出するな」と強く要請しておくことをお勧めします。

【2】面識のないヘッドハンターから突然勤務先に電話がきて、「ある方から優秀だと紹介された」「貴方に会いたいという会社がある」と言われ、「とにかく一度会いたい」と会社にしつこく電話がある。
貴方のことはほとんど知らない、貴方の情報がほしいだけのコンサルタントが使う方便だと思ったほうがよいでしょう。ほとんどは、あなたの名刺を持っているだけか、会社名と所属部門しか知らない程度だと思われます。「優秀だ、優秀だ」と連呼して、おだてて会う作戦ですね。「貴方に会いたいという企業がある」というのもほとんど嘘で、会ってから貴方の情報を聞き出し、それを企業に売り込んで面接に持ち込もうという魂胆だったりします。順番が逆です。真に受けて会って、個人情報を出そうものなら、ととんでもないことになります。

「なぜ自分に声をかけたのか、誰から聞いたのか、どのような経緯か」など確認し、理由に妥当性がなければ無視するべきでしょう。嘘を平気で言えるコンサルタントと言えますので、そのようなコンサルタントから紹介を受けると、一事が万事、いい加減な説明や嘘で痛い目に会います。 運よく成果につながるより、トラブルになる可能性の方が大きいと思います。

もちろん、サーチ会社としてスペックに会った方を探している中で、貴方に行きついたという正当なケースもあります。それは、聞けばわかるはずです。声がかかったら必ずその理由と経緯をしっかり確認しましょう。

【3】不適切(自分に不利益)な助言を受けた
過去、候補者の方々から相談を受けた悪質な助言の例を紹介します。どれも「貴方のため」ともっともらしい話をしつつ、本人にとっては不利益にしかならない助言ばかりなので、ご注意ください。

  • 同業他社に転職する場合、(次の)転職先に顧客リストを持ち込んでも問題ないし、それぐらいやらないとこの高い年収は獲得できない。面談でリストの持ち込みを明示したらきっと採用される。
  • 口頭オファー(内々定)の段階まで進んだのでもう安心だから早く転職手続きを始めたほうがよい。
  • 極秘だが、あなたの会社の部長も既に転職活動開始しているのであなたも転職活動したほうがよい。
  • オファーレターの発行がなくても先方の社長が保証してくれているから、他社の話しは断っても大丈夫。
  • 企業派遣で留学したので、その費用は返金しないでよい。
  • 知り合いが駄目と言う会社は絶対にやめたほうがよい。
  • 離職率が10%を超えると問題がある会社だと思ったほうがよい。
  • 内定を辞退したら、二度とその会社に応募できないから断ったら損。
  • 内定を承諾(書類にサイン)してからでも、入社はいつでも辞退できる。だから、まずは内定を承諾しましょう。

【悪質なサーチ会社の誘導例 1】
弊社はスカウト会社なのでご本人の承諾は不要です。貴方の承諾をいただかなくても、弊社から多数の採用企業に紹介させていただきます。その後、書類選考にパスして面談が入ればお知らせします。そのほうが貴方も楽でしょう。弊社が貴方のエージェントとして応募の代行をやっているようなものです。面談が入ったときに、本当に応募したいかどうか考えてもらえれば良いです。

いかがですか?これらはすべてサーチ会社が自社の利益を優先するがゆえの助言で、決して個人のためにならないものばかりです。貴方には明らかに不利益が生じますので十分注意してください。

他にもこんなお話しがありました。さらに悪質で、場合によっては違法行為といえるものもあります。どれもが立証、対処が難しいケースですが、実際に過去に起きていましたのでご注意ください。

【悪質なサーチ会社の誘導例 2】
勤務先上司に電話があり、「うちは外資X社だが、Aさんの勤務態度を教えてください。弊社に応募されていてリファレンスをとっている。」といきなり言われた。調べたら、X社が電話してきたのではなく、某サーチ会社が、私が退職活動をしているように見せかけて、現職に居づらくなるような仕掛けをやっていたことがわかった。

【悪質なサーチ会社の誘導例 3】
大学時代の同窓から、「うちの会社に応募したいのか?おまえのレジメが俺の部署に回ってきたのでびっくりした。」と電話があった。私は応募した覚えはないので調べてみたら、某サーチ会社が無断で自分のレジメを提出していた。私に連絡がないどころか、後日、同窓に調べてもらったら、書類選考にパスした私が勝手に辞退したことになっていた。あきれて物が言えない。

【悪質なサーチ会社の誘導例 4】
紹介会社の担当コンサルタントから「オファーレターの書類上は、年収1000万円となっているが、本当は1200万円出す。本社への説明と、事務手続き上1200万円だと時間がかかるので、書面上1000万円となっているだけだ。ちゃんと1200万円で支払うから安心してくれ」と言われた。入社後、3カ月が経ち会社に確認したら、そんな説明を入社前にサーチ会社にした覚えはないといわれ、担当コンサルタントに問いただした。しかし、そんなことを言った覚えはないと白を切られた。証拠も残っていないので、泣き寝入りした。コンサルタントを信じていただけに、無念でならない。


このような事例を挙げてしまうと、安心してキャリアの相談や、職業紹介を頼めないと思われるかもしれません。 しかし、筆者の願いは、先に挙げた実例のような被害にあわないように個人の方が意識を高く持ち、「悪質なサーチ会社」を選別する手段を身につけていただくことにあります。

ぜひ、良いサーチ会社と付き合ってキャリアの開発に挑戦していただきたいと思います。

皆様が、信頼のおけるコンサルタントから有意義な相談・紹介を受け、キャリアの機会を広げていただくことを願っております。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)