転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第115回
2012.08.02

今の仕事が好きではありません。転職したほうが良いですか?

大手電気メーカーに勤める25歳です。工場の経理部門にいます。上位私立大学の経済学部を卒業しており、会社にはそれなりに期待されていると思います。私自身も公認会計士の勉強をするなど努力をしてきましたが、最近になって、自分は数字があまり好きではないと気付き、経理や財務といった職から離れたいと思うようになりました。でも、いつかは企業経営をしたいと思っています。どうすれば良いでしょうか?

Answer

「いつかは企業経営をしたい」と明言されている点、非常に良いですね。昨今では、経営を目指す方、もっと言えば、実際に経営を担える方(経営者)が不足していますので、貴方は非常に稀で貴重な存在です。今後も強い意志を持って経営を目指したキャリア開発に励まれ、将来、日本を担う経営者になられることを心から願っています。

さて、本題ですが、「どうすれば良いか」「答えは何か」と結論に飛んでしまう前に、キャリアについてお考えいただく必要があるように思います。

まず「キャリアにおける好き嫌い」と「キャリアの時間軸(28歳、32歳までに)」について考えましょう。


(1) 好きか、嫌いか、自分の心を疑ってみる

大学では経済学、社会人になってからは経理、そして直近5~6年は公認会計士の受験準備と、長年に渡り数字を扱ってきたけれども、最近になって「数字は好きではない」「経理や財務はやりたくない」と思ってしまったとのことですが、そこで一つ質問です。今から更に5~6年後に、貴方は何を好きになって、何を嫌いになっていると思いますか?

意地悪な質問をしてしまいましたが、回答はおそらく「わからない…」ですよね。仮に今回の転職活動で、数字に代わる、興味が持てる何か(X)を見つけたとしても、また何かのきっかけで「Xも好きではない、やりたくない」と思うかも知れません。「好きか、嫌いか」や、それに基づく「やりたいか、やりたくないか」は、合理的なものではなく、変わることが普通であるので、わからなくて当然です。

また、よく「やりたいことをやりなさい」「楽しいことを見つけなさい」という助言がされますが、実際のところ、そう簡単にやりたいことや楽しいことは見つけられませんね。前述のとおり、仮に見つけられた(と思った)としても、変わってしまう可能性があることも考えると、本来、同様の助言をするならば「生涯どんな苦労をしても楽しいと思えるもの、決心を後悔しないと思えるものを見つけなさい」と言うべきかもしれません。しかし、いずれにしても、そのような絶対的で普遍的な何かを見つけるのは困難です。

何を申し上げたいかというと、「好きか、嫌いか」というような千変万化なことに基づいて、大事なキャリアの方向性や意思を決定してしまうと、結果、職を転々とすることになったり、目的や軸の定まらないキャリアになってしまったりするということです。「やりたいことを見つけることができれば、幸せになれる」という考え方で、キャリア上、間違った選択をしてしまい、後で後悔する方も多いのです。

逆に、何かを見つけようとするよりも「やってみたら、好きになった」「やっているうちに能力がついて結果も出るようになって、益々やりたくなった」というケースがあります。やりたいことを見つけた方の多くが、そのようなケースであるといって過言ではありません。

好きか嫌いかは大事なことですが、人間の心は変わりやすいものであることを認識して、キャリアを考える上では、ご自分の心を少し疑ってみるということも必要でしょう。また、好きか嫌いかはわからないけれども、まずはやってみること、そしてやり続けることも大事でしょう。

なお、既にお気付きかとは思いますが、ビジネスの基本は数字ですので、経営者になったら、数字が好きだ、嫌いだと言っていられません。たしかに営業やマーケティングであれば、経理や財務ほど数字が得意でなくても良いかもしれませんが、そのような単純な問題でもありません。売上もマーケティングの効果も全て数字で見ていき、日々の業務においても数字で成果を追及していくはずです。経営には絶対に数字が必要です。経営を目指すのであれば、好きでなくても、楽しめるようでなければいけません。

(2) 28歳、32歳までに

私がいつも申し上げるキャリアデザインのポイントに「適材」「適所」「適時」があります。その中でも特に見落としがちで、かつ重要なのは「適時」だと考えています。

28歳までであれば、若手ポテンシャル重視で採用を行う企業が多くあり、「やりたいこと(X)」を求めて、業種と職種の両方を同時に変えるような転職(キャリアチェンジ)が可能です。従い、今回、貴方が25歳での転職活動でXを見つけて、異なる業界・職種へ転職することは可能ですし、3年後の28歳でも、ぎりぎりですが、また別のXを見つけて、異なる業界・職種へ転職をすることは可能です。極端な言い方ですが、この年齢層であれば、ベンチャーを起業して失敗したとしても、完全リカバリができます。

大事なことは、選択肢が多く様々なチャレンジができるこの期間に、スタッフとしての能力やスキル、強みを身につけ、しっかりと成果・実績を生み出せるようになっておくということです。その後、29歳以降は、経験と成果・実績がものを言うようになり、ポテンシャルで簡単に転職ができない厳しい世界になります。転職市場では「人生、常に挑戦だ」や「好きなこと、やりたいことをやる」といった精神論が通用しません。20代ならまだしも、30代になっても未だ、会社の業界や職種、キャリアについて「好きだ、嫌いだ」というレベルでしか考えられない方の市場における評価や価値は低いものになりますので、ご留意ください。

32歳までには、それまでに培った能力やスキル、強みを活かして、PL責任を持ったり部下を指導・育成したり、マネジャーとしてリーダーシップを発揮し、より大きな成果・実績を獲得できる状態になっていることが望ましいです。

35歳以降は、その成果・実績、管理職能力で勝負することになります。繰り返しになりますが、間違っても、36歳になって「好きな業界はXだ、職種Xは嫌だ」などと議論をするようなことがないようにしてください。36歳になっても未だ、自身がおかれている状況、将来ありたいと思う自分を見つけることができていない、ビジネスパーソンとして残念な状態といえます。


上記のことを踏まえて、ご自身なりに「どうすれば良いか」を考えてみてください。 いくつかの選択枝が見えてくるものと思いますが、例えば、以下の2つのようなアクションが考えられます。

  1. 現職社内で職種を変えてもらえるよう働きかける。(経理→X)

    変更後の職種Xは、必ずしも好きなものでないかもしれないし、またその業務をうまく遂行できるか、今後もやりたいと思えるものかどうかわからないですが、転職をして会社を変わるよりリスクは低いです。

  2. 会社を出ること(転職)を決める前に、実際に市場に出てみて、自身が置かれている状況、自身の市場価値を理解する。

    他の選択肢(求人情報)をただウィンドウショッピングするのではなく、一度、本気で市場にご自分をさらすことです。見るだけ、考えるだけでなく、行動を取ることが大事です。実際に求人に応募をして、面接の機会をもらえたら、面接に行って話をしてみて、そして聞いてみて、転職市場でご自分の何が評価されて、何が不足しているのかを掌握しましょう。転職活動していると、時には選考に通過できなかったり、厳しい評価をされたり、オファーに至らなかったりと困難に直面して辛いと感じることがあると思いますが、自分自身を知る良い機会としてポジティブに受け止めるようにしましょう。オファーが出た時には、社会人人生3年で生涯を決めるということは難しいかもしれませんが、長期の視点でキャリアを熟考した上でオファーを受けるか受けないか決心してください。

    本気で職種Xを見つけようと思うなら、ご自身が好きになれそうなもの、楽しそうなもの、やりたいと思えそうなものだけでなく、好きになれそうにないもの、楽しくなさそうなもの、やりたいと思えなさそうなものも並行して応募をして、実際に面接をしてみて、検討するようにしましょう。もしかすると、今は現在の会社の工場の経理だから、数字が好きではないと思っているだけで、転職をして別の会社で経理・財務の仕事をしてみたら、好きになるかも知れません。そのような仮説を潰しておくためにも、今好きでないとおっしゃっている数字を扱う仕事、経理・財務の仕事なども、他の選択肢と合わせて見ておくことです。実際に、経理・財務の仕事と一言に言っても、企業によって任される職務が異なることもあるため、前職が経理・財務でも転職先の経理・財務で新しい発見があったり、更に経理・財務を学び高いレベルに到達することで、あらためて経理・財務の面白さを知ったりすることがあります。やってみる前から、仕事のつまらなさを論じたり決めつけたりすることで、もしかしたら本当にやりたい職種Xを見つけられたかもしれないチャンスをみすみす逃していたならば、それはそもそも目的に反する上に大変不幸なことだと思います。

いかがでしょうか?ご自身なりに「どうすれば良いか」見えてきましたか?

今日、これだという答えがなくて構いません。まずは今ここからしっかりキャリアを考えていくようにしましょう。具体的な求人案件について、アクシアムのキャリアコンサルタントにご相談ください。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)