転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第116回
2012.09.06

社会貢献がしたいので、NPO/NGOへの転職を希望しています。

消費財メーカーに勤めている28歳です。今の仕事にはやりがいを感じていますが、昨年あたりから社会起業家の方の本を読んだり活動を見たりしていて、自分も社会に対してより直接的に貢献する仕事をしたいと思うようになりました。以前より子供に関わる問題に関心が高いことから、子供のために活動をしているNPO/NGO団体への転職を希望しています。先日、大学時代の友人に会う機会があり、彼らはそれぞれ商社や銀行、証券、メーカーなどに勤めているのですが、彼らの意見を聞いてみたところ、賛否両論でした。反対意見が気にかかり、どうしても決心することができません。友人の反対意見は以下のとおりです。

「今(NPO/NGOへ)行きたい気持ちはわかる。でも、報酬が低いだろう。長期的に報酬が低いようでは、結婚もできないぞ。おまえの親も裕福なわけではないし、年金だって当てにできない時代に、結婚、子供の教育、親の介護の責任を果たせるのか?今の社会起業家ブームに流されるなよ。他人のことを考える前に自分のことをしっかりやれよ。甘いと思うよ。社会貢献している奴がかっこよく思えるかもしれないが、俺は信じていない。それに、昔バブルで儲けるだけ儲けた40(歳)以上の人たちが、今になって社会貢献活動を応援すべきだとか若者を応援しようとか言っているが、その人たちはもう資産形成ができた年齢層の勝ち逃げ組の連中だぞ。冷静に考えてみろよ。」

反対を押し切って転職しても良いものでしょうか?

Answer

ご質問には2つの含みがありますね。

1)社会貢献活動に参加すべきか否か?(NPO/NGOに行ったほうが良いか否か?)
2)ご友人の助言が正しいか否か?

まず一つ目のご質問ですが、「社会貢献活動に参加すべきか否か」「NPO/NGOに行ったほうが良いか否か」とすると、ジレンマに陥っているような錯覚を起こしますが、ジレンマとは少し違うようですね。

単刀直入に申し上げると、これは貴方ご自身の意思の問題です。もし貴方が本気で社会貢献活動に参加したいと思っているならば、そもそも貴方は私にこのような質問をしてくることはないでしょうし、またご友人が反対意見を言って止めようとしても、それに囚われることなく現職を辞めてNPO/NGOへ転職していることでしょう。昨年の東日本大震災のときにも、沢山の若者たちが「何かしたい」「何とかしなければ」という使命感から東北に入っていきましたが、彼らは善後策や自身のキャリアプランについて心配したり迷ったりしていなかったと思います。

迷っているということは、貴方の心の中に「ご友人の忠告を受け入れて認めている自分」が存在するということだと思います。「行きたい」と思う自分と「行かないほうが良い」と思う自分が存在し、ジレンマのようなものを感じているわけです。ただ、ジレンマとは、二つの相反する事柄の板挟みになること ですので、「行きたい」の反対は「行きたくない」となり、「行かないほうが良い」の反対は「行くのが悪い」となりますが、貴方は「行きたくない」とも「行くのが悪い」とも考えていないでしょう。理論的に貴方は相反する選択肢で悩んでいるわけでもないのです。あえて言うなら、「行きたい」<「行かないほうが良い」というお気持ちなのでしょう。

躊躇していらっしゃるのであれば、私は「行かないほうが良い」と思います。ご友人がおっしゃるような経済的な不安があるから、そう申し上げているのではありません。社会貢献活動に参加するには、活動に活かせる知識や能力、スキル、経験もさることながら、なによりも「何としてもやりたい」という高い志と「何としてもやる」という強い心が必要です。覚悟をもってできないのであれば、「行かないほうが良い」ということです。

次に二つ目のご質問です。反対意見を述べられたご友人の助言は、過去の常識にとらわれたものといえます。ご助言の中に「NPO/NGOに行ったら、長期的に報酬が低いため、結婚、子供の教育、親の介護の責任を果たせないだろう」とありましたが、実際には、NPO/NGOにお勤めで、結婚をして家庭と子供を持ち、介護をしている方が数多くいらっしゃいます。それに、仮にご友人が年収1,000万円以上、生涯年収2億以上という高い報酬を得て、家庭に恵まれ介護もできるようになったとしても、それはそのご友人にとっての幸福でしょう。もちろんそのような選択があっても良いと思います。なんら問題ありませんし、否定もしません。でも、それは貴方の望む幸せでしょうか。

また、最近では、贅沢はできないかもしれませんが、経済的に余裕のあるNPO/NGOも出てきていますし、なによりもNPO/NGOには、貴重な経験の機会があり、同じ価値観を共有する仲間がいます。それはお金では買えない価値であり、贅沢と呼んでも良いかもしれません。

逆に考えれば、ご友人がおっしゃるように、経済的な理由から社会貢献活動への参加を諦めた場合、高い年収と家族を得て、余裕をもって子供の教育と親の介護をすることができるかもしれませんが、現職があるため、やりたくても直接的な社会貢献活動ができないという可能性も高いです。やりたくなくてやらないのであれば、問題ないですが、やりたいのにやれないのは不幸なことですし、やらなければ、将来後悔することになるかもしれません。ある調査によると、後悔は「しなかった後悔」と「してしまった後悔」の2種類に分類することができ、「しなかったことで後悔する人が8割、してしまったことで後悔する人は2割」だそうです。

ご友人の助言、そして私の助言を参考にしていただくのは結構ですが、最後は必ずご自分で決めてください。「やらない」と決めた時、くれぐれも「友人が止めたから諦めた」と他の責任にしたり「(後で)やはりやっておけば良かった」と後悔したりすることがないようにしましょう。また、「やる」と決めた時も、ご自分の意思決定に責任を持ちましょう。


ジレンマ 【dilemma】<大辞泉>

1 二つの相反する事柄の板挟みになること。「―に陥る」 2 論理学で、二つの仮言的判断を大前提とし、その判断を小前提で選言的に肯定または否定して結論を導き出す三段論法。例えば、「城にとどまれば焼き殺される。城から出れば切り殺される」「城にとどまるか、城から出るかよりほかに道はない」「故に、いずれにしても殺される」の類。両刀論法。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。