転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第151回
2015.09.03

ベンチャーのCFOとして夢に挑戦したいが…年収ダウンは避けられないのか?

大手製造業に勤める42歳です。現在の年収は1,200万円。昨年、海外勤務を終えて帰国し、ある外資系企業からコントローラーのポジションで、年収1,500万円のオファーをいただきました。外資系でも仕事をやれる自信がありますし、その企業は将来性もあり魅力的に感じています。ただ、これから先の20年を考えると…人生をかける挑戦をしてみたいとも思っています。具体的にはベンチャーに転職し、CFOとして会社の創業に関わりたいのです。その場合、ネックは年収が下がってしまうこと。ベンチャーではCFOといえど1,200万円以上の年収が出ることはないのでしょうか? 現在の年収以下の場合、小学生の子供が2人いることもあり、家内が転職を承諾してくれません。自分なりに求人を探した限り、ストックオプションを除いて600万円~1,000万円程度が多いようです。夢への挑戦のためには、年収ダウンは避けられないのでしょうか?

Answer

結論としては、スタートアップでも1,000万円を超える報酬提示をしてくれるところがあります。お調べになったとおり相場としては600~1,000万円ですが、それらを超える提示も存在します。しかしその機会があったとしても、ご相談者の場合は、残念ながらその機会を得ることは難しいかもしれません。なぜなら、年収の高いものはそれだけ要求要件のハードルが高い、あるいはそれだけリスクが高いものだからです。

さらに率直に申し上げれば、現在の環境では夢に挑戦することはお止めになった方がよいでしょう。家族を犠牲にしてしまうようなキャリアプランは、決してお薦めできません。また、少々失礼な言い方になりますが、今回のご質問は少しナイーブ、ロマンチックな内容だと感じてしまいました。キャリアの選択を行う際には、もっと冷静に現実的に考えてみるべきです。「夢に挑戦すること」自体は目標にはなりません。具体的に「夢」があるのであれば、それを実現化する方法は必ずあります。ベンチャーは「挑戦するもの」ではなく、失敗やリスクを恐れず、考えに考え抜いて困難を乗り越え、ビジネスとして「成功させるもの」です。

経営を任されるCFOとして成功するために、いま何をしておくべきか? その点をもっと考えてみましょう。常々申し上げていますが、ベンチャーは転職先として探すものではありません。自分の人生をかけてもよい。他の人には越えられないリスクも、自分の能力と経験であれば乗り越えられる。万一失敗しても代替え案を持っている。家族が困らない程度の貯金もある…こんな状態まで準備できた人だけが、挑戦権を持つのです。憧れでやるものではありません。きつい言い方になりますが、生半可な覚悟では、転職しても半年~1年でその厳しさに退職してしまうのがおちでしょう。

つまり、年収を1,200万円確保しないと続けられないとおっしゃっている段階で、既に準備不足といえるのです。例えば貯金を2,000万円程度用意しておきつつ「1年間チャレンジさせてくれ」と奥様に相談されれば、奥様もご自身の人生をかけて同意してくれるかもしれません。そうでなければ無謀なチャレンジには反対されて当然です。

仮に、貯金があって奥様の理解も得たとしましょう。それでもなお、今回の転職は簡単にはお薦めできません。ご希望されているスタートアップベンチャーのCFOに求められるものは、財務会計・管理会計・決算・事業企画・コントロールなどのスキルや経験に加え、増資・資金調達・M&A・上場準備・資本政策などもあり、職能としてカバーすべき領域が本当に多岐にわたります。実際、力不足の領域が多いのではないですか?

高学歴・高い語学力・リーダーシップ・大企業での成功体験だけでは、零細企業であるスタートアップでは足りません。部下もきちんと揃っていない状態で、すべてを自分でこなさねばならないからです。財務会計に限らず、社会保険事務所への申請や庶務を行うなど、人事・総務のスタッフワークまで行うことができますか? それが楽しいと思えるほどの情熱がないと痛い思いをします。それに入社後は、そのベンチャーを自分自身の会社だと思い、起業家である社長や株主、社員と一連托生で運営していく必要があります。問題が起こったときの回答、解決案は自分で作るしかなく、自分のバックアップも存在しないのです。

また、ベンチャーの中でも特にスタートアップに挑戦するのなら、大失敗した後のキャリアの代替案を用意しておくべきです。「資金調達に成功したが、製品の開発に失敗して資金が続かず、数年後に解散となった」などはよくある例。こんな時、どうするのかを想定して考えておくことをぜひお薦めします。ちなみに2000年以降、ベンチャー経営経験者の中でも、失敗の理由を正しく理解し説明できる人については、再就職が可能になってきました。45歳程度であれば、あらためて外資系にも転職できるチャンスはあるでしょう。

ベンチャーに挑戦すること自体は、大変素晴らしいことです。個人的にはそのような方を応援したいと思います。上記のアドバイスをご考慮くださった上で環境と決心を固められ、ベンチャーに応募しいくつかオファーを手にされたなら…決して年収で判断をされないでください。冒頭にもお書きしたとおり、高い年収提示の裏にはそれなりのリスクがあります。高報酬の場合、期待役割に少しでも沿えないと判断されれば、試用期間中に解雇されることもありえます。勿論年収が低くてもそのようなことは起きますが、報酬が相場を超えている場合に、すぐに解雇したり、ポジションがなくなったりする場合が多いようです。そのあたりのリスクの認識と、リスクへの対処法をしっかりご準備いただき、納得のいくキャリアを創っていただければと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)