転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第175回
2017.09.08

起業準備をして一年。志は変わらないものの、魅力的な転職話にも心を惹かれています。

商社に勤める32歳です。友人と共にIoT関連のベンチャー起業を立ち上げることを準備中です。現職では、資源関連ビジネスの領域で、海外投資や投資先の管理を主に行ってきました。一緒に起業しようとしている友人は、理工系の大学院を卒業し、米系ネットビジネス大手のエンジニアとして勤務経験があり、AIを得意としています。

事業計画を策定してベンチャーキャピタルをまわり、友人と一緒に簡単なサンプルモデルまで作って1年が経ちました。その間、ベンチャーキャピタルにピッチを行い、ある一定の評価はしてもらえているのですが、今のところ何十社とまわった中では色よい返答がもらえず、資金調達は簡単ではないことを実感しています。

先日あるヘッドハンターから、医療系のベンチャーへ転職しないかと誘われました。自分たちが考えていたビジネスとは異なるのですが、先方の社長はとても魅力的な人物で、IPOも目指せそうだと感じました。いつか起業したいという思いは変わらないものの、このお話にも大変心惹かれています。起業と転職、今後のキャリア選択の際には、どんなことを考え、決断すればいいでしょうか?

Answer

大変悩ましいご状況ですね。じつは最近、「起業か転職か」というご質問が増えています。とても難しい問ですが、いくつかのポイントを挙げてご助言させていただきます。

1)外部(特にインターネット上)の情報に惑わされないこと
転職やキャリアについて語る、多種多様なサイトがインターネット上には溢れています。「転職を成功させるにはどうすればいいか」「起業するにはどうすればいいか」、といったテーマで検索をすれば、じつに多くのコンテンツがヒットします。最近はベンチャーや起業関連のコンテンツも増えているように思います。

もちろん当方もそのひとつであるわけですが、赤裸々な実態や実体験を示し断定的に書かれたもの、刺激的なコメントが並べたてられているようなものには注意が必要です。物事をはっきり主張した方が読み手にとっては確かに読みやすく、インパクトがあります。しかしながら、中にはその内容を鵜呑みにしないほうがいいもの、あくまで一部の人にしか当てはまらないことを万人に有効であるかの如く主張するものなどが散見されます。少なくともコンテンツの書き手が判明しているもの、すなわち書き手の自由度は制限されるものの、責任をもって主張が言語化されているものを参考にされることをお薦めします。

2)この一年、資金調達できなかった(起業できなかった)理由を明確にしておく
日本のベンチャーキャピタル(以下VC)業界は、今年2000億円もの資金残高があるそうです。米国や中国に比べれば少ないものの、彼らからみれば、将来性のあるベンチャーには積極的に投資を行いたいはずです。ハンズオンタイプのVC、投資後に一切モニタリングをしないVCなど様々なものがある中で、どのようなVCをまわられたのかわかりませんが、本来、積極的に投資をしたいVCが多い中、ピッチがうまくいかないというのは将来性を認めてもらえなかった、感じてもらえなかったということになります。

なぜ資金調達ができなかったのか。その点を明らかにしておくことは、起業準備に費やした時間を無駄にしないためにも必ずやっておくべきことでしょう。ビジネスモデルに魅力がなかったのか、原資がなかったのか、ご友人あるいはあなたの能力が創業者として不足していたのか、あるいは決意がゆるかったのか、自信のなさを見抜かれたのか…など理由はいくつも推察できると思いますが、いずれにせよはっきりしておくべきです。

3)起業と転職は、二者択一のものではない
そもそも「現職に留まるか、転職するか」は二者択一になりえますが、「起業と転職」は、じつはまったく別のイシューであると思います。前提をいまさら覆すようで恐縮ですが、本来的には別次元の問題であるはず。つまり、どちらがあなたにとって良い選択か、という単純なフレームで考えることはできないのです。

以上のような点を踏まえたうえで、まとめます。

ある意味、起業は簡単です。たとえ資金調達ができなくても、自己資金で会社を興すことができます。課長や部長、経営の経験がなくてもそれは可能です。(もちろん、起業した後に製品・サービスを創る、販売する、人を採用する等々ができるかどうかは能力や経験次第ですが。)採用企業がいる転職とは異なり、起業には相手がいません。するかしないかは、自分次第。まさに自分自信への問いかけです。VCから資金調達ができずとも起業する人がいる中、今回、自己資金でスタートするリスクをとらなかった、取れなかった理由を、ご自分に問いかけてください。

まだ今後も起業を狙いたいと決意されるのであれば、今回起業できなかったご自身の要素を洗い出し、それを補完してくれるようなキャリアを選べばよいのだと思います。転職によってそのような経験が積めるか否かが、キャリアの選択をする際の基準となり、助けになるはずです。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)