転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第183回
2018.05.10

ベンチャー企業への初めての転職。事前に考えておくべきこととは?

ある大手企業に勤める38歳です。これまで新卒時に入社した会社でセールス、マーケティング、経営企画、企業買収、買収後のPMI業務などを行ってきました。自分なりにスキルセットを高め、成果を出してこられたと自負しています。現職に不満はないものの、30歳になった頃から、もしキャリアチェンジのチャンスがあればベンチャー企業で新たなビジネスや事業にチャレンジし、働いてみたいと願うようになりました。

そして今回、あるベンチャーからCOOのポジションで内定をいただくことができました。ただし、年収は現職より下がってしまいます。この点に関しては以前から想定しており、住宅を購入する同僚が多い中で私は購入を見合わせ、まとまった額の貯蓄も用意できました。自分としてはたとえ収入が下がったとしても、満を持し、この機会に転職したいと希望しています。その一方で、二人の子どもがまだ小学生であることもあり、慎重に検討したいとも思っています。初めての転職で、しかもベンチャーに転職する場合に、いま一度考えておくべきことや注意すべきことがあれば、教えていただければ幸いです。

Answer

「初めての転職ゆえに考えておくべきこと」、「ベンチャー企業への転職ゆえに考えておくべきこと」の2つをおたずねですが、「そもそも転職に際して考えておくべきこと」も含めると、この紙面だけですべてをカバーすることはとても難しいですね。本来なら個々人のご状況を伺った上で細かくアドバイスを差し上げるべきなのですが、今回は基本的なポイントを5つ挙げ、私の回答とさせていただきます。

(1)反対意見を覆す自信がありますか?

転職後のキャリアに対して、友人・知人から助言をもらいましたか? 反対ばかりであれば、やはりやめておいたほうがいいでしょう。もし賛成ばかりなら、それもやめておいたほうがいいでしょう。反対と賛成が両方あるなら、反対意見に耳を傾けましょう。そしてその反対理由を課題や成長リスクとしてとらえ、あなたに解決できるスキル・意欲・根拠があるなら、オファーをお受けになるといいと思います。他の人ではなく、貴方だからこそ成果につなげられると説明できるなら、ベンチャーのCOOとして成功する可能性が高いといえるからです。

(2)冷静にデューデリジェンスを行ってみましたか?

前述のポイントと重なる部分もありますが、このベンチャーについてデューデリジェンスを行って投資を決定した個人、あるいはベンチャーキャピタルなどの株主の目論見は、転職を目論むあなたの参考にもなります。彼らがリスクだと考えている点をあなたが解決できると思うのであれば、会社の成功、そしてキャリアの成功の確率は高まります。また、起業家の目論見と株主の目論見は100%合致しているわけはありませんし、そのベンチャーのコンピテンスについては起業家や株主が過信しがちなことも多くあります。ですから、ご自身が冷静に調査し判断しなくではなりません。潜在顧客や技術者で信頼できる人がいたら、機密性を厳守しながら、意見を聞いてみるのもよいと思います。

(3)「適材適所」以上に大事な「適時」について、考えましたか?

いつもコラム等で書かせていただいているように、転職の際には「時間軸」の視点もぜひ持ってください。38歳までは他人も自分も、キャリアに対して時間投資が可能な年齢層です。38歳以上になると、よりアウトプットが重視され、転職は簡単ではありません。数か月、1年、あるいは2年後に、ベンチャー企業としては残念ながらうまくいかなくなった場合を想定し、それぞれの年齢ごとに次のキャリアの選択肢を想定しておくことが必要です。「ダメだったら、どうするか」。プランBを持っていれば、リスクをとってチャレンジができます。ベンチャーには大企業とは全く違う世界が存在します。事前に聞いていなかった、想定していなかった事象が降りかかってくることがあるでしょう。そんな厳しい環境でも、プランBを持っていることで余裕が生まれ、問題に冷静に対峙できることもあると思います。そして、プランBについて考えておくことは、どこまでそのベンチャーに人生をかけられるか、自分のキャリア人生を何年間かけられるかなど、ご自分の限度を知ることにつながります。

(4)人生をかける覚悟、失敗しても燃え尽きない見極めはできていますか?

ベンチャーに移ることは、単なる転職とは少し異なります。まして取締役や執行役員という立場になれば、そのベンチャーの成否が企業経営者としての評価に直結します。例えば参画して数年後、マネジメントのプロとしてプランBを迎える際、ビジネスが成功していれば言うまでもなく引く手あまたですが、うまくいかなかった場合にはどうなるでしょうか? 失敗したベンチャーの経営者というのは、その過程と成果について説明責任を果たせるかどうかで評価が分かれます。失敗を合理的に咀嚼し、自分の責任部分を正当に説明できる人、反省すべき点を率直には話せる人には、次のチャンスも訪れます。一方、経営者として燃え尽きてしまい、説明責任を果たせない人は残念ながら評価されません。それゆえ、万が一のプランBとともに、ご自身の覚悟や限度をしっかりと事前に見極めておくべきだと思います。

(5)事務的な事項で調べておくべきこと

最後に、ごく事務的なことですが、うやむやにしておくとトラブルの種にもなりえる注意点をお伝えします。まず、退職金についてはできるだけ正確に見積もっておきましょう。退職申請を人事部などに正式に出すまでなかなか難しいとは思いますが、生活設計が違ってきます。つぎに、年収や現株、オプション付与数などはしっかりレターで提示してもらいましょう。入社時にどの程度付与されるのか、またCOOのポジションでスタートしたあと将来は取締役になるのか、なった時にはどのような報酬を想定しているのか、なども聞ければベストです。

入社前に細かい交渉をしている人ほど、交渉をしすぎて結局どの状態で合意したか曖昧になるのはよくあること。思い違いを双方でしてしまうこともありますので注意が必要です。細かい点は齟齬がないのに、大きな点で誤解があるなど、本末転倒な結果になるケースが時々見受けられます。(逆に、細かい交渉をせずに大事な大枠でしっかり合意しようとする人は、問題解決能力が高く、細部については入社後に折衝し、好条件を引き出しておられます。)

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いかがでしょうか。初めての転職であっても2回目の転職でも、事前に考え、調べておくべきことにそれほど差はありません。大きな会社からベンチャーに転職する際には、(4)の項目でも触れたとおり、今後のキャリアがどうなるかを考えると同時に、ベンチャーのCOOという機会に人生をどこまでかけられるかしっかり吟味してください。そしてそれらの吟味ができたなら、あとはご自身の心に尋ねてみてください。あなたにとって失敗しても後悔のない人生、子どもたちに胸を張れる人生とはどのようなものか? ご自身の心に確認し、ほんの少し勇気をもって決心されるとよいと思います。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)