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転職コラム転職市場の明日をよめ
アクシアム代表/エグゼクティブ・コンサルタントの渡邊光章が、日々感じる転職市場の潮流を独自の視点で分析しお伝えします。(※不定期更新)
2025年9月 2025.09.18
キャリアの幸運、不運
最近、企業や政党のトップ辞任のニュースが相次いでいると感じませんか。辞任の真相は様々に取り沙汰されますが、そのような報道に触れるたび、ニュースにならなくても、トップに限らずとも、このVUCA時代の中で辞任や転職を余儀なくされる人が増えており、こうした方々からの転職相談が目立つようになってきたことが思い起こされます。
戦争、経済、政策や金融の変化、最近ではトランプ関税の影響などにより、会社の倒産、事業撤退、閉鎖や売却、あるいは業績の想定外の悪化が起き、やむを得ずキャリアチェンジの必要に直面する人が少なくありません。そのような状況のなか、将来に不安を抱き始める人も増え、いわばポジティブな理由ではなく、ネガティブな要因による転職が増えていると思うのです。
「キャリア」や「職業」において、不運に見舞われる人と幸福をつかむ人の違いとは、何でしょうか。本稿では、その違いについて、転職市場に関わる中で気付いたことをお伝えしようと思います。
ネガティブ要因による転職は、次の転職でも不運な結果を招きやすい傾向があります。例えば、外資系企業がファンドに売却され部門縮小に直面し、「今度は安定した大手で長く働こう」と転職したものの、経営方針の転換で再び部門ごと縮小され再度転職を余儀なくされるケース。あるいは、上司のパワハラから逃れるために転職をしたのに、今度は部下との人間関係に悩み再び転職をしたくなるケース…などです。これらは不運な転職に思えますが、本当に運が悪かっただけで、避けられないものだったのでしょうか?
「前職での不利益を避けたい」という一心で転職をした結果、また似たような事態に直面してしまうのは、失敗する転職の典型的な例といえます。理想的には、幸運で快適な状態のときにこそ転職についても考えをめぐらせてほしいのですが、実際には多くの人は「転職せざるを得ないとき」にだけ動き、追い込まれてから転職先を探すため、短絡的で不幸な選択をしがちです。余裕のある状況で長期的な展望を持ち、キャリアデザインの一環として転職を考える人は、残念ながら日本ではまだまだ少数派です。
また最近、特に気になるのは「能力や努力だけでは幸せになれない」と考える人が増えている、という点です。書店には「転職成功の秘訣」といったようなタイトルの本が数多く並んでいます。多くは逆説的に「こういう転職は不幸になる」と説いているのですが、その内容について、腑に落ちるものが少ないと感じるのは私だけでしょうか。
「運は100%自分次第である」と述べるのは、脳科学者の中野信子氏です。
中野氏の著書『科学がつきとめた「運のいい人」』の第一章で、中野氏は「運のいい人は今の自分を生かす」とし、過去や未来にとらわれず、自分を大切にして現実を直視すべきと説きます。「面白そうかどうかで決める」のも運のいい人の特徴であると書かれています。
第二章では「自分は運がいいと決め込む」ことが重要だとし、松下幸之助が採用面接で「君は運がいいかね?」とたずね、「はい」と即答できた人を採用した逸話も紹介されています。これは「運の悪い人を会社に入れたくない」という意図があったとも言われています。
第三章では「運のいい人は他人と共に生きることを目指す」と指摘し、利他的な行動が結果的に幸運を呼ぶと主張します。この点は、採用側と候補者の双方が「運のいい人」であることが望ましいと考える私にとって、最も納得できる内容でした。
第四章では「運のいい人は自分のものさしで目標や夢を決める」とし、具体的な目標を持ち、困難をあえて引き受け、夢を意識し続けることでセレンディピティを発揮できると説いています。
まるで推薦図書の紹介のようになってしまいましたが、中野氏が主張するように「運は自分次第で良くできる」という考え方を持てれば、少なくとも将来のキャリアに過度な不安を抱えて思い悩むことからは解放されます。転職に限らず、周囲から「運がいい」と評される人の考え方を取り入れることは、多くの人にとって不幸を避け、幸運な選択を引き寄せる大きな助けとなるはずです。
暗いニュースが多い時代、混沌とした社会の中ですでに始まっている新しい秩序を“運よく見つける”ためには、過去のコラムでご紹介した下記の書籍も参考になると思います。
「行く先はいつも名著が教えてくれる」 秋満吉彦(著)
▼過去のコラム
https://www.axiom.co.jp/column/books/2019/1906
「夜と霧 新版」 ヴィクトール・E・フランクル(著)池田 香代子(翻訳)
▼過去のコラム
https://www.axiom.co.jp/column/books/2011/1108
「運命を創る 人間学講話」 安岡正篤(著)
▼過去のコラム
https://www.axiom.co.jp/column/books/2011/1105
特に1986年に20代の私がプラザ合意後の円高ドル安の中、日本が本格的な国際化に向かい始めた時期に読んだ安岡正篤氏の本の内容は、40年経った今も色あせることなく私の矜持となっています。きっといま、世代も年齢も超えて職業人として生き残りたい、いわゆる「運」に支配されたくないと願う人には、役立つ内容であると思います。
安岡正篤氏の著書が与えてくれる「社会を変えるには、自分を変えることである」という気付きは、「運がいい」といわれる人たちが大事にしている重要な行動指針のひとつではないでしょうか。自分を変えられない人は“運悪く”生き残れない、厳しい時代はすでに到来しています。
関連情報
コンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)