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転職コラム”展”職相談室
キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。
“展”職相談室 第228回2023.05.11
【特別版】キャリア選択の軸 「Aspiration」と「Vision」の違い、そして「運」について
今回は、いつものようにご相談者からの個別の質問にお答えする形式ではなく、アクシアム代表・渡邊光章の特別コラムをお届けします。
Answer
キャリア相談の際に、「自分のキャリアの軸が決められない。わからない。どうすれば見つけられますか?」という質問を受けることが増えました。
まず、キャリアの選択に重要な3つの要素があります。
(1)戦略=思考=考えること=知識=「頭」を使うこと
(2)デザイン=自分の感性=経験を伴う知見=「心」で感じること
(3)キャリアの軸=「Aspiration」に素直になること=胆識=「胆」にすえること、腹をくくって乗り越える覚悟をすること
2020年以降、社会の不確実性・不安定性が極めて高まりましたが、そのような状況下では、この3番目の「キャリアの軸」が最も重要になる、とこれまでも折に触れてお伝えしてきました。しかし、それでも多くの方から「Vision はわかるが、Aspirationとの違いが分からない」「予見できない未来に向けて、いまブレない自分の軸に気づくのは難しい」「運に左右される部分もあると思うのでわからない」といったお声を頂戴します。
そこで今回、はっきりと言語化・一般化してお答えするのが極めて難しい問いではありますが、キャリアコンサルタントとして実践的に得た知識・経験から、皆さんのキャリアにとって有益なヒントとなるべく回答をまとめてみようと思います。
まず「Aspiration」と「Vision」の違いですが、端的にいえば、「Vision」は時代変化や自分の成長、人生の局面で変えられる/変えても良いキャリア選択の軸です。形のあるもので言語化することも可能です。一方「Aspiration」は、外的・内的要因に変化があっても変わらないもの、いわば死ぬまで変えられない/変わらないものと私は考えています。形がなく言語化もなかなか難しいものです。個々人の哲学的意味あいがあり、キャリア選択のための軸というよりも、人生の普遍的軸といえます。その意味では、「Vision」に気づくことよりも「Aspiration」に気づくことのほうが難しいのかもしれません。
もう少し別の角度から説明してみます。皆さんの中には、「Visionに従ってキャリアを選べば自分にフィットする、キャリアの成功確率が高くなる」と考える方もいらっしゃるでしょう。そう考えるタイプの方が、若い方を中心に増えている印象です。SDGs時代を迎え、「イノベーションやインパクトを社会に与えたい」「自分のためよりも社会や人のために仕事がしたい」といった「Vision」を抱く方が増えました。「自分の人生の使命は、何かに尽くすことだ」と考える人も増えていると思います。そのような「Vision」に従いチャレンジすることには賛成なのですが、「Vision」に従って選択しさえすれば達成できるのか? 幸福な結果になるのか? は別だと思います。また、それらを叶えられそうな2つの選択肢がある場合にはどうすべきか? といった問題も起こりえます。幸福や成功の定義、尺度の計り方も、社会の変化や人生の経験を経て、変わることもあります。
最近増えているのは、きちんとした「Vision」をもって転職先を選択したのに、その選択に失敗してしまった・・・というケースです。戦略的にもデザインとしても間違いないはずで、かつ「Vision」に合致したにもかかわらず、転職後に想定外の事象が起こって思った通りにいかず、選択としては失敗に終わってしまったというわけです。
転職後にうまくいかなかった場合でも、実は、再度キャリアの選択として成否を分ける分岐点があります。一つは「結果にかかわらず、まずは乗り越えていこう。失敗しても後悔はない」というマインドで行動をする選択と、もう一つは「思った通りに行かないのは、運が悪かったからだ」と原因を「運」に帰結させてしまい、場合によっては退職をして転々とするという選択です。
何らか不安定な要素が発生した時に、うまくいかない原因を明解にせず「運が悪かった」と片づけてしまう人もいますが、キャリア構築の成功者はそうではありません。選択が正しかったというよりも、彼らは選択したキャリアで想定外のことが起きても、そこから別の楽な方法を選ぶことなく、苦難が続いても「Aspiration」を変えずに解決案を見出しています。想定外のことが起きて簡単にあきらめてしまえるものは「Aspiration」とは言えません。一方「Vision」は、直面した現実に即して変えてもよく、そうして成功する人もいます。「Vision」は姿かたち、定義を変えることができるものと捉えるとわかりやすいと思います。
キャリアの選択の際に、将来出てくるかもしれないこの分岐点をイメージできていれば成功の確率が高まると思いますし、普遍的な「Aspiration」を見出すことができていれば、軸は揺らぎません。守るべき「Aspiration」が決まっている人は非常に強いのです。
「Aspiration」は本能的な判断で、「これはやめておいた方が良い」という生存本能に近いかもしれません。「こっちが生き延びられる」というものではなく、混乱の中、咄嗟に選ばざるを得ないもので、選んだ方で直ぐに行動するから、結果生き延びられるのかもしれません。残念ながら「Aspiration」は、あちらを選べば楽園があるとは示してくれません。
ちなみに、キャリアの軸が「Aspiration」=「胆識(腹に据える覚悟)」である、というのは私のオリジナルの持論ではありません。明治から昭和にかけて活躍した思想家・安岡正篤氏がその著書『活眼 活学』の中で語っている「知識」「見識」「胆識」の違いに多分に影響を受けた考えです。安岡氏は、「知識」や「見識」で歯が立たないような場合には、胆力が重要だと言っています。「知識」がない(やったことがない)事象が起きても、「見識」に当てはめたが答えが出ない時にも、やり抜く力・実行力があれば乗り越えられると述べています。やれるか、やりたいかではなく、「深く考え抜き、やると決めたら、結果を恐れず覚悟して実行する力」こそ、大切だと思うのです。
【キャリア選択の結果/幸運と不運の分岐点】
現職に残ってもリスク、転職してもリスク、と思ってしまうような不確実性が高い今の時代。キャリア選択の結果の幸・不幸がどうして生まれるのかについて考えてみました。
ここ半年ほどで実際にキャリア相談をお受けした方々の中から、いくつかの例をご紹介した後、幸運と不運の分岐点について考えてみたいと思います。
<”Uncertainty(不確実性)“が”Unhappy(不運)”に繋がる危険があるケース>
「30代半ばから外資系大手企業で10年間、順調にキャリアを積んで成果を出してきたので自分は対象になないと思っていたが、人員削減の対象となってしまった」
「10年以上も外資系大手企業で、マネジャー、ディレクター、そしてAPACのディレクターまで昇進したが、次のポジションがなくなってしまった」
「ファンド投資先企業のCEOを1年半勤めたが、急に会社が売却され解任された」
「海外赴任中で、2~3年後に帰任命令が出るはずだが、急に帰任を命じられた」
「欧州赴任予定が中止となった」
「スタートアップのCxOに転職したが、創業者と意見が合わなくなった」
「外資系企業のGMとして転職したが、日本支社が縮小することになった」
「上場を目指してベンチャーのCxOとして転職したが、IPOが延期となった」
「日系大手企業に勤務して55歳となったが、早期退職の募集が始まった」
上記の方たちは、自分にとって想定外のことが起きたことで、転職活動を開始することになりました。もちろんスピーディーに決断して動くことも大切ですが、自らの「Aspiration」をあらためて確認し、しっかりとした軸をもって次の選択をしなければ、転々としてしまう危険性があります。
<”Uncertainty(不確実性)“が”Happy(幸運)”に繋がったケース>
◆Aさんの例
・十数年前の海外MBA卒業時、就職を決めた会社に対して周囲から「そんなマイナーで年収が低い会社より、もっと年収が高く、グローバルな会社はいくらでもある」と言われた。
・その会社を自らグローバルに拡げ、上場を果たし、さらにコロナ禍やウクライナ・ロシア戦争を経て、大変な時期だからこそ、と新社長に昇進・就任をした。
就職時、「やりたい仕事は、自分の“Aspiration”と合致しているこの会社を、世界に広げること」と語っていたAさん。この点が意思決定のポイントでした。自分の軸を大切にし、目的と手段を間違えなかったことと、覚悟して仕事に臨んできた結果、会社と彼の成長が見事に合致したといえると思います。MBAで学んだことを使えと言われなくても、周りから使えないと諭されても、自らMBAで学んだことを使った結果と言えます。「Aspiration」とは覚悟の大きさに思えます。運が良かったとすれば、彼の努力と覚悟の大きさが幸運をもたらしたのだと思います。
◆Bさんの例
・外資系企業で活躍していたが、技術的な面白さに惹かれ、研究開発型ベンチャーに転職。ベンチャーキャピタルからの資金調達を終えていたものの、周囲からは「研究開発型の事業は時間がかかる。せめて成長期まで待ってからいくべき」などと心配された。
・ただ自分の「Aspiration」と合致しているので、もし失敗しても面白い試みだと思えるだろうと、年収を下げてCOOに就任した。
・その後、コロナ禍にあっても研究開発のステージをあげて、大手企業への売却が決定。キャピタルゲインを得た。それだけでなく、前職でのセールス・マーケティング経験に加え、研究開発と商品が生まれる過程を経験できた。また、海外から日本ではなく、日本から海外にという領域も経験でき、今後のキャリアが広がった。
常識にとらわれず失敗を恐れず、スタートアップのリスクを理解・覚悟した上で挑戦したリターンは、想定以上のものだったというケースです。
皆さんの中には、これら2つの事例は単に「運が良かった」からだと思う方もいらっしゃるかもしれません。不確実性が高い(確実性が低下した)社会では、「考える」だけではなく「行動する」こと、そして最後に「運が良かった」と言えるように、今の自分の「Aspiration」を見つけることが重要です。成功者は、この「Aspiration」が何年後も変わりません。さらにいえば、いっとき失敗したとしても、不幸にはなっていません。
「運」については、米スタンフォード大学・アントレプレナーセンターのティナ・シーリグ氏が、著書『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義~What I Wish I Knew When I Was 20』の中で「成功者は運が良かったというが、自分が使ったスキルをさりげなく隠すために“運”という単語を使う」と述べています。私も実際、過去の転職成功者や経営者、起業家の方々から成功の秘訣を聞き出そうと試みましたが、ほとんどの回答が「たまたま運が良かったと思いますが」という枕詞をつけたもので、このシーリグ氏の指摘には大いに合点がいきました。
成功者たちは、「たまたま私の時代、私の場合は、このような行動・判断・選択が結果的に成功へ導いてくれたので、それを今から説明しますが、あなたは私とは違うだろうから、その点は留意の上で参考にしてほしい」という意図で「運」という枕詞を述べるのでしょう。さらにシーリグ氏は、「フォーチュン(運)」「チャンス」「ラック(幸運、ツキ)」の3つが混同されているとも述べています。以下にその一節を引用します。
フォーチュン(運)は、あなたに起きることです。やさしい家族のもとに生まれたのは幸運で、雷に打たれるのは不運です。
チャンスには、あなたの行動が必要です。サイコロを振る、宝くじを買う、デートを申し込むといった行動を起こしてチャンスをつかまなければ、チャンスは活かせません。
ラック(幸運、ツキ)は、可能性を見出し、作り出すことによって生まれます。あなたの行動の直接の結果です。たとえば、素晴らしい仕事を紹介されるのは幸運です。転職エージェンシーはいろいろありますが、確実なことはわかりません。あなた自身がスキルを身につけ準備を整え、積極的に応募する必要があります。
「運」、「チャンス」、「幸運、ツキ」という言葉が混同されているのは、自分の運命をどれだけコントロールできるかがきちんと認識されていないからだと思います。自分でできることは思っているよりずっと多いのに、不運だった、幸運だったといって、単なるめぐり合わせのせいにします。よくよくみると、小さな選択が積み重なった結果だということがわかるはずです。
いかがですか?
この本のすべてをご紹介することは避けますが、シーリグ氏は、快適な場所から離れ、失敗を恐れず、不可能だと決めつけることなくあらゆる機会をとらえれば、可能性は無限に広がり輝くことができる。不確実性こそが人生の本質。決まりきった次のステップとは違う一歩を踏み出したとき、すばらしいことが起きる、と私たちにメッセージしています。タイトルからは20代向けの書のように見えますが、あらゆる年齢の方を勇気づけてくれ、とても役立つ一冊です。
例え” Uncertainty“が” Unhappy”に繋がってしまった人でも、想定外の結果となった人でも、失敗から原因を探り、自分の「Aspiration」を再発見できれば、次のキャリアを見つけることができます。ぜひご自身の「Vision」はもちろん、「Aspiration」に気づいて、後悔のない人生設計、展望ある転職=“展職”につないでいただければ望外の喜びです。
コンサルタント
インタビュアー/担当キャリアコンサルタント
渡邊 光章
株式会社アクシアム
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント
留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)