転職コラム”展”職相談室

キャリアや転職に関わる様々な疑問・お悩みなどに、アクシアムのキャリアコンサルタントがお答えします。

“展”職相談室 第123回
2013.05.10

ベンチャー企業の事業開発経験は評価されないのでしょうか?

MBA取得後、戦略コンサルティングファームに入社し3年が過ぎました。現在30代後半となり事業会社への転職を考えているところに、10名程度のベンチャー企業から事業開発マネジャー職でオファーをもらいました。ベンチャー企業に転職して戻ってきた40代後輩の先輩に相談したところ、以下のような助言をもらい強く止められており、迷っています。

「やめておけ、君には大手企業が合っている。創業者の横暴な決定で、戦略がコロコロと変わるベンチャー企業では、君はきっと理屈が通らないということで社長と衝突することになるぞ。俺もベンチャー企業を辞めて再就職するときにベンチャー企業での事業開発の経験が評価されず、思った以上に苦労したものだ。結局またコンサルティング会社に戻ってきたが、今度外に出る時は、大手事業会社に移るつもりだ。」

先輩の助言にあるように、ベンチャー企業での事業開発経験は市場では評価されないものなのでしょうか?

Answer

回答する前に、まず助言を下さっている先輩が、言葉にされてはいないものの、貴方の性格、適性なども見てベンチャー企業に転職するなとおっしゃっておられる部分があるように思います。その点はご自身でしっかり自問自答しておかれるべきだと思います。

ベンチャー企業と大企業の事業開発の進め方は、スピード感や戦略の緻密さにおいて大きく違います。おおよその感覚で申し上げますと、ベンチャー企業は大企業が求める精度の60%程度でもGOサインが出ます。それぐらい迅速に事業開発を進めないと早い流れに勝てないのです。素早いスタートの後、走りながら仮説、検証、修正をかけ、場合によっては、進行中のプロジェクトでもいきなりシャットダウンすることもあります。そんなベンチャー企業の仕事に貴方が適応できるのであれば、先輩の助言は当てはまらないと思います。先輩は確かに大手企業のほうが適しておられるのかもしれませんが、先輩と貴方は同じではないはずです。

さて、ご質問へのお答えですが、「ベンチャー企業での事業開発経験が転職の際に評価されない」というのは、先輩がおっしゃるほど断定的ではありません。特に外資系企業やベンチャー企業の選考では、ベンチャー企業出身ということだけで評価されないことはまずありません。

貴方が携わった新規事業がたとえうまくいかなくても、その新規事業を通じて、セールス、マーケティング、財務会計、経営企画、事業管理などを経験し、ポータブルな職能が身につけば評価されますし、色々とプランニングし、思考錯誤を繰り返して事業開発にチャレンジしたこと自体が評価され、選考がうまくいくケースもあります。

日本の大手企業では、昔はまったくと言っていいほどベンチャー企業出身者というだけで高い評価は得られなかったものですが、最近は評価を得られるケースも見られるようになりました。ただしこれは35歳までの若手の話です。35歳以上になると大企業は余程の事情がない限り正社員で採用しません。ベンチャー企業で事業開発に携わってきた方の転職であれば、事業開発分野における確固たる成功体験が必須となるでしょう。もしかしたらその先輩は、35歳以上になってから、ベンチャー企業から日本の大企業に就職しようとしたのではないでしょうか?それであれば、採用される可能性は低いと思われます。

過去、多数の事例をみてきましたが、ベンチャー企業でしっかりとした事業開発の成功経験をもっていれば、フォーチュン100に入るグローバル企業に採用されますし、優良ベンチャー企業、日系中堅企業に採用された人も沢山いらっしゃいます。戦略コンサルティングファーム出身の先輩の中には、きっとそのような経歴の先輩もおられると思います。

ベンチャー企業におけるチャレンジやその起業家精神は評価されるものです。ただし貴方が将来ベンチャー企業から大手企業へ転職するのであれば、成功したのか失敗したのか、その原因はどこにあるのかといったことを、客観的に分析し評価しておく必要があります。所属していた企業が知名度のないベンチャー企業だからこそ、自己分析やどんな点がそのベンチャー企業の狙いや戦略であったのかなどを説明することが重要で、この説明が曖昧だと貴方という人物や貴方の経験を理解してもらえず、その結果、どの企業からも内定を勝ち取ることができなくなるので、その点は十分に注意しましょう。

※こちらでは、質問と回答を簡潔に要約し、典型例としてご紹介しております。キャリアコンサルティングの現場ではコンサルタントとキャリアについてご相談いただくのはもちろん、実際の求人ポジションをテーブルに載せながら、「現実的な可能性」の検討をしています。したがって、その時々で市場動向・受託ポジションが異なりますので、「現実的な可能性」=キャリアのチャンスも様々になります。

コンサルタント

インタビュアー/担当キャリアコンサルタント

渡邊 光章

株式会社アクシアム 
代表取締役社長/エグゼクティブ・コンサルタント

渡邊 光章

留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントとなる。1993年に株式会社アクシアムを創業。MBAホルダーなどハイエンドの人材に関するキャリアコンサルティングを得意とする。社会的使命感と倫理観を備えた人材育成を支援する活動に力を入れ、大学生のインターンシップ、キャリア開発をテーマにした講演活動など多数。
大阪府立大学農学部生物コース卒、コーネル大学 Human Resource修了
1997年~1999年、民営人材紹介事業協議会理事
1998年~2002年、在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネージメント委員会副委員長
著書『転職しかできない人展職までできる人』(日経人材情報)